夫婦

文字数 1,121文字

「好きだから結婚って安直だなあ。お前から見て、二人はどう見える?」
「う~ん。なんか、まったく生き方が違うのによく一緒にいられるなあって。」
 実際、アウトドア派の安蔵とインドア派の母。思いたったらすぐ行動する父と、腰の重い母。どうしてこの二人が同じ環境に暮らせるのか共通点が見いだせない。
「父さんは、同じに思えるんだ。そうだな、ここから父さんは東、お前は西に進んだとしよう。そうしたらどうなると思う。」
 なんだ、今度は頓智か?そんなことしたら、どんどん離れていくだけだろう。
「狭いなあ。地球は丸いんだぞ。」
 そうか、ぐるっと回って反対側で出会うのか。
「そう、二人は全く別々のルートでも、最後には同じところに行きつくわけだ。たしかに父さんと母さんは全く違う生き方をしてきただろう。けど、出会ったときには同じところにいて、同じ景色を見ていたんだ。」
「同じ場所にいたってこと?」
「いや、お前は赤信号を見てどう思う。止まれか、止まったほうがいいか、止まる必要はないとか。」
 突然の問いに、赤は止まれだろうっと突っ込みたくなったが、本当にそう思っているだろうか?止まれというのは教わっただけで、実際にはどうだろう。
「止まったほうがいいぐらいかな。」
 安蔵は、大きくうなづいた。
「確かに、そうだろうな。でも、父さんと母さんは止まれなんだ。」
 そういわれれば、二人とも意識的に信号無視したところを見たことがない。見落としはあるだろう。どんなに見通しが良くて車が来ていないことが解っていても青になるまで止まっている。それで口論になったことはない。むしろ富羅がしびれを切らせて、
「車来てないからもういこうよ。」
 と文句をいっていた。
「それが、同じ景色ってことさ。景色ってのは見えているものじゃない。見えているものからどう行動するかってことだ。価値観といっている人もいるがな。ただ、父さんは法律を自分の都合で解釈すべきではないと思っているし、母さんは誰かが見ているかもしれないからという理由なんだけどな。」
「それなら、自分のコピーが一番ってこと?」
「そんなのは、つまらん。コピーが居るなら楽だが安心にはならない。人間は前はよく見えるが、後ろは見えない。後ろを見てくれる人間がいると安心だ。しかし、それは見えているだけじゃなく、同じ行動結果になれば、より安心できる。父さんは仕事であまり家にいない。その間、母さんが家のことを見ていてくれる。自分のコピーだったら父さんがいても同じミスをする。でも、反対の経験で行動する母さんだから、父さんの見えない部分を見てくれる。簡単に言えば信頼かな。」
 夫婦って複雑なんだなと富羅は思った。
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登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

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