診療所
文字数 1,011文字
母は少し考えて、
「ああ、港の近くの空家に来た子ね。爽やかでよさそうな男の子じゃない。富羅、会ったの?どうだった?」
おばさんってどうしてこういうことになると目を輝かせるんだろ。
「変なやつ。」
富羅はこれ以上聞かれるのが嫌で、表に出た。たまの休日で、父親が庭の手入れをしていた。
「父さん。今年、移住してきた人のこと知ってる?」
彼女は父の手伝いをするふりをして尋ねた。
「ああ、あの青年かい。引っ越してきたときに挨拶したな。おとなしそうな感じだが、やせすぎだろ。冬になったら逃げ出すんじゃないか。ここで暮らすなら、もっとがっしりとした、たくましい男じゃないとな。」
体力自慢の父に話を聞いたのが間違いだったかもしれない。
8月になって富羅は、久しぶりに堤防に行ってみた。あいつはまだいなかった。しばらくすると、なにやら港の奥の住宅街が騒がしい。救急車があわただしくサイレンをならし、猛スピードで通過する。
富羅は、後を追った。救急車は古い民家の前で止まった。ストレッチャーを押した、救急隊員が家の中に急いで入る。
数分後、その上に見覚えのある顔が覗いていた。
「瑠真!」
近づこうとすると
「関係ない人は下がって。」
隊員が手で、彼女を押しのける。ムッとした。そして思わず
「知り合いです。」
と、言ってしまった。
富羅は救急車に揺られながら後悔した。
「なんであんなこと言っちゃったんだろ。」
村で唯一の診療所につくと、家に電話をした。
「私。お母さん?今、診療所。私は大丈夫。後でまた連絡する。」
「軽い熱中症ですね。点滴しておきます。」
診療所の女医が、救急隊員に話している。隊員が去ると、先生は富羅を手招きした。
「え~と。彼氏?」
富羅は首が取れるぐらい思いっきり首を横に振った。
「一回話をしただけ。」
あまりに彼女が、激しく否定するから先生は笑った。
「ごめんなさい。せっかく付き添いできてくれたんだから、説明だけはするわね。」
しばらくして、父の運転で母が診療所に駆けつけた。状況を説明をすると、
「まったく、心配させないでよ。」
母親は椅子に座りこんだ。
「村人は互いに助け合わなきゃな。これも何かの縁だ。休みの間だけでも、ときどき様子を見てあげなさい。」
父親の人のよさにはあきれる。原発の仕事で転勤が多かった父親も一人暮らしの時は苦労したらしい。
「ああ、港の近くの空家に来た子ね。爽やかでよさそうな男の子じゃない。富羅、会ったの?どうだった?」
おばさんってどうしてこういうことになると目を輝かせるんだろ。
「変なやつ。」
富羅はこれ以上聞かれるのが嫌で、表に出た。たまの休日で、父親が庭の手入れをしていた。
「父さん。今年、移住してきた人のこと知ってる?」
彼女は父の手伝いをするふりをして尋ねた。
「ああ、あの青年かい。引っ越してきたときに挨拶したな。おとなしそうな感じだが、やせすぎだろ。冬になったら逃げ出すんじゃないか。ここで暮らすなら、もっとがっしりとした、たくましい男じゃないとな。」
体力自慢の父に話を聞いたのが間違いだったかもしれない。
8月になって富羅は、久しぶりに堤防に行ってみた。あいつはまだいなかった。しばらくすると、なにやら港の奥の住宅街が騒がしい。救急車があわただしくサイレンをならし、猛スピードで通過する。
富羅は、後を追った。救急車は古い民家の前で止まった。ストレッチャーを押した、救急隊員が家の中に急いで入る。
数分後、その上に見覚えのある顔が覗いていた。
「瑠真!」
近づこうとすると
「関係ない人は下がって。」
隊員が手で、彼女を押しのける。ムッとした。そして思わず
「知り合いです。」
と、言ってしまった。
富羅は救急車に揺られながら後悔した。
「なんであんなこと言っちゃったんだろ。」
村で唯一の診療所につくと、家に電話をした。
「私。お母さん?今、診療所。私は大丈夫。後でまた連絡する。」
「軽い熱中症ですね。点滴しておきます。」
診療所の女医が、救急隊員に話している。隊員が去ると、先生は富羅を手招きした。
「え~と。彼氏?」
富羅は首が取れるぐらい思いっきり首を横に振った。
「一回話をしただけ。」
あまりに彼女が、激しく否定するから先生は笑った。
「ごめんなさい。せっかく付き添いできてくれたんだから、説明だけはするわね。」
しばらくして、父の運転で母が診療所に駆けつけた。状況を説明をすると、
「まったく、心配させないでよ。」
母親は椅子に座りこんだ。
「村人は互いに助け合わなきゃな。これも何かの縁だ。休みの間だけでも、ときどき様子を見てあげなさい。」
父親の人のよさにはあきれる。原発の仕事で転勤が多かった父親も一人暮らしの時は苦労したらしい。