接触
文字数 1,223文字
富羅は日中、セノーテに潜るためのダイビングを教えてもらうことにした。観光でいくような所は、シュノーケルでも十分進めるが、奥へいくとボンベが必要な場所もある。水がきれいなので恐怖はないが、とにかく冷たい。
富羅としては、どこかで笛を吹く隙を見つけようと考えていた。そのためには潜水の練習は最適だった。監視の目が減る上、装備の準備や片付けで、彼女への注意が途切れる。ボンベの片付けで誰もいなくなった隙に、鉄刀木の笛を思いっきり吹いた。
その直後に、周囲の木々がざわつき始めた。
「チュパカブラの祟りだ。」
現地の案内人がさわぎだした。他の連中は地震の前兆ではと警戒している。
この日は、一旦ホテルに帰り、翌朝、日の出とともに同じ場所に来た。昨日とは違い、すでに木々が異様にざわめいている。
「一人で、泉の淵までくるように言っている。ちょっと、行って来る。一度きりのチャンスだって。彼らは繊細だから、誰も近づけないで。」
安蔵はわかっていた。富羅が、強い口調で言うときは、絶対にそうなのだ。彼は体を張って、他の人間が近づかないように見張った。
泉の中は青く済んでいた。冷たい水が流れている。泉といっても、日本のように沸きあがるわけではなく、地表に穴が開いていて地下の川が見えているのだ。富羅はその水に手をつけた。
「よく、来たね。話は仲間から伝わっている。」
突然、水を通して言葉が伝わってくる。
「上に、監視している連中がいる。だから、姿は見せられない。」
水を通して誰かが語りかける。
「捕まえている人たちを帰して。」
富羅は安蔵たちに気付かれないように、心の中で叫んだ。
「大きな声で叫ばなくても聞こえてる。君は勘違いをしている。かれらは、自分の意志でここにいるのだ。」
声の主が言うには、彼らはアルマたちにも人間達にも属さない、中立な立場に身をおいている。むしろ、どちらにもいけなかったというべきかも知れない。自分達が関われば、今のバランスが崩れ、より対立が深刻化するというのだ。それでもアルマは、自分を復活させてくれた彼らに感謝しているのだろう。自分達に保護を求めてきた。
「春馬教授はいますか?」
しばらくして、洞窟の奥から
「ここにいる。」
と声が聞こえた。
「奥さんと息子さんに合いました。仲間が瑠真君と一緒にいます。」
富羅は声のするほうに向かって叫んだ。
「瑠真は大きくなったろうね。」
「ええ。」
「君は瑠真の彼女かい?」
どうして、この家族はこういう話が好きなんだろ。
「違います。友達です。」
「ああ、そうか。お友達か。」
「いえ、ただの友達です。」
紛らわしい言い方はやめてくれ。
「まだ、帰れない。ただ、いつまでも隠れてはいられない。もうじき帰るよ。ここは見つかった以上放棄して別の場所に行くから、一旦お別れだ。」
その言葉のあと、声は消えた。水からの声もしなくなってしまった。
富羅としては、どこかで笛を吹く隙を見つけようと考えていた。そのためには潜水の練習は最適だった。監視の目が減る上、装備の準備や片付けで、彼女への注意が途切れる。ボンベの片付けで誰もいなくなった隙に、鉄刀木の笛を思いっきり吹いた。
その直後に、周囲の木々がざわつき始めた。
「チュパカブラの祟りだ。」
現地の案内人がさわぎだした。他の連中は地震の前兆ではと警戒している。
この日は、一旦ホテルに帰り、翌朝、日の出とともに同じ場所に来た。昨日とは違い、すでに木々が異様にざわめいている。
「一人で、泉の淵までくるように言っている。ちょっと、行って来る。一度きりのチャンスだって。彼らは繊細だから、誰も近づけないで。」
安蔵はわかっていた。富羅が、強い口調で言うときは、絶対にそうなのだ。彼は体を張って、他の人間が近づかないように見張った。
泉の中は青く済んでいた。冷たい水が流れている。泉といっても、日本のように沸きあがるわけではなく、地表に穴が開いていて地下の川が見えているのだ。富羅はその水に手をつけた。
「よく、来たね。話は仲間から伝わっている。」
突然、水を通して言葉が伝わってくる。
「上に、監視している連中がいる。だから、姿は見せられない。」
水を通して誰かが語りかける。
「捕まえている人たちを帰して。」
富羅は安蔵たちに気付かれないように、心の中で叫んだ。
「大きな声で叫ばなくても聞こえてる。君は勘違いをしている。かれらは、自分の意志でここにいるのだ。」
声の主が言うには、彼らはアルマたちにも人間達にも属さない、中立な立場に身をおいている。むしろ、どちらにもいけなかったというべきかも知れない。自分達が関われば、今のバランスが崩れ、より対立が深刻化するというのだ。それでもアルマは、自分を復活させてくれた彼らに感謝しているのだろう。自分達に保護を求めてきた。
「春馬教授はいますか?」
しばらくして、洞窟の奥から
「ここにいる。」
と声が聞こえた。
「奥さんと息子さんに合いました。仲間が瑠真君と一緒にいます。」
富羅は声のするほうに向かって叫んだ。
「瑠真は大きくなったろうね。」
「ええ。」
「君は瑠真の彼女かい?」
どうして、この家族はこういう話が好きなんだろ。
「違います。友達です。」
「ああ、そうか。お友達か。」
「いえ、ただの友達です。」
紛らわしい言い方はやめてくれ。
「まだ、帰れない。ただ、いつまでも隠れてはいられない。もうじき帰るよ。ここは見つかった以上放棄して別の場所に行くから、一旦お別れだ。」
その言葉のあと、声は消えた。水からの声もしなくなってしまった。