到着

文字数 1,193文字

 泊にはフェリーがつけるほどの大型の港はない。そこで、小樽まで行き、引き返す。通常なら新潟から小樽までは半日少々でつく。今回はアルマのために少し速度を落としていた。丸一日近くかけて到着した。下船前に、配給された昼の弁当を食べる。
 一個500円ぐらいだろうか?いや、今時は駅弁だってもっとする。物流が変わってしまい。セントラルキッチンでの画一的な格安弁当は作れなくなってしまった。コンビニにも地方ごとに独自の弁当が並ぶ。鉄道が衰退している中にあっても、地方色豊かな駅弁は人気だ。しかし、やっぱり家の母の味が懐かしい。決して、おいしいとはお世辞にもいえない。見た目も大皿に数品がボンボンとならぶだけで恥ずかしい。まだ、寮の食事のほうがまともだったろう。でも、今なら父が帰ってくるとあまり外食をしたがらなかった理由がわかる。

 富羅は泊につく前に、仲間に連絡をとった。会談場所は、原発の敷地内に決まった。ここなら自衛隊も他国の軍もうかつには手が出せない。

 自宅に寄る間もなく、会談の地へ向かう。テレビ中継はない。二人の事は極秘になっている。教授と他数名の民間人が立ち会うとしか公表されていない。しかし、大々的な自衛隊の移動は目立つ。報道関係の車だろうか、小樽から戻るように来たので気付かなかったが、泊に入ると他県ナンバーのワゴン車が増えた。

 地方の報道なら、せいぜいカメラマンと記者ぐらいだからセダンや軽を使う。ワゴンを使うのは中央の連中だ。遠回りをしたので富羅たちが最後になってしまったようだ。昼間は目立つので、夜間の話し合いになった。アルマとの連絡は。顔を隠した数名の白い神主のような格好をした人間が行っていた。
 富羅と瑠真も同じ格好をした。着替えることに何か意味があるのだろうか?清めつもりだろうか。それとも、武器などの所持を警戒しての事なのだろうか。
 足元が見えにくいので会談が始まるまでは、顔面の布を外してもらった。小柄の富羅にはかなり大きかった。腰の周りで、はしょるものの袖の長さまでは変えられない。なんだか、七五三の宮参りのようである。

 アルマもシナプスも警戒して、火ではなく薄暗い照明の下での会談となった。敷地の外では、煌々と灯りがともり、車の往来の音や人の叫ぶ声が聞こえる。
 富羅が鉄刀木の笛を気付かれないようにそっと吹く。木々がざわめき、足元が揺れる。しばらく待つと、林の奥からざわざわとシナプスたちが現れた。瑠真が助けた彼もいた。彼は、他の仲間達から離れると富羅の横に根を下ろした。他のシナプスたちも林の前に一定間隔で根を張る。その姿は動かなければ普通の木にしか見えない。
「彼らは、ああやって仲間や地球とつながっています。」
 富羅が、白衣を着て立っている付き添いの教授に解説する。光合成のできない夜間は、そうやって地中からエネルギーを得ている。
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登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

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