追跡
文字数 1,261文字
弁天島から港へ帰る途中で、いきなり黒塗りのワンボックスが富羅たちを追い越し、瑠真の自転車の前に止まった。北海道の子供にとって自転車は必需品だが、あまり自転車のうまくない瑠真のことだ。車に前輪がぶつかって倒れるように止まった。前にいた弥子と勉は自転車を降りる。
「やばい連中だ。因縁をつけられるかもしれない。」
富羅と瑠真の間は少し開いていた。上り坂で少々ばてていた。最後尾の夏美が全力で、瑠真のもとに向かう。車の後ろのドアから二人の黒いスーツ姿のサングラスをした男たちが降りてきた。彼らは倒れている瑠真を抱えると車に乗せようとした。
「ドリャ。」
夏美が男たちの一方にチャリごと激突する。しかし、相当鍛えているのだろう。後ろ蹴りで、夏美を自転車ごと蹴り倒す。瑠真を押し込むとドアを閉め、男を残して車は走り出した。夏美が起き上がって自分の足で男の足を絡める。彼は側転をして避けると、瑠真の自転車に飛び乗り、車の後を追っていく。
「ププッ!」
後ろからクラクションが鳴る。
「乗って!」
瑠真の母親だ。夏美と勉に行ってもらう。弥子と富羅は、自転車を運ぶために残った。
「大丈夫かな?」
弥子が心配する。
「信じよう。二人の頭脳と体力があれば大丈夫。私たちが行っても、重りにしかならないから。」
「瑠真のことを感づいた連中が誘拐しようとしていている。夫は逃亡する際にアルマ細胞のサンプルをすべて廃棄した。それを知った連中が、唯一残っているあの子の細胞に目をつけた。」
トンネルを抜けると興志内漁港に見かけないモーターボートが止まっていた。
「あれに、乗られたらもう追跡できない。」
瑠真を乗せた車は、トンネルの出口から漁港に向かう道に曲がった。
「おばさん、このまま行けば先回りできる。」
勉が叫ぶ。
「誰が、おばさんよ。」
瑠真の母親は不機嫌そうに言った。雷電国道を進み、一つ先の道から漁港に入った。合流地点で相手の車のすぐ後ろにまで迫った。ボートには別の仲間がスタンバイしている。幸い瑠真を乗せるのに手間取っていた。
「これ貸して。」
漁港にあった太いロープを抱えると夏美はボートに向かって走った。
ブロロロロ。
ボートが岸を離れる。
「えい!」
夏美がロープを抱えたまま岸から飛んだ。彼女はギアの切り替えのために一旦スピードが落ちたボートに、きれいな弧を描いて着地した。そして、ロープを手すりに通すと、両端を持って再び岸に戻った。ロープを近くの係留用の鉄のビットに巻きつける。やがて、ロープがピンと張り詰めるとボートはくるりと向きを変えて、桟橋に激突した。しかし、それでも再び沖へ出る。万事休す、これまでか。
「そこのボート、止まりなさい。」
沖から灰色の大きな船が出口を塞いだ。海上保安庁の巡視艇だ。
「なんだ。お前達、出迎えに来てくれたのか?」
大作先生だった。松葉杖をついているが、元気そうだ。
「ちょうど、帰りに乗せてもらってな。そしたら、これだ。こいつら、誘拐犯か?」
「やばい連中だ。因縁をつけられるかもしれない。」
富羅と瑠真の間は少し開いていた。上り坂で少々ばてていた。最後尾の夏美が全力で、瑠真のもとに向かう。車の後ろのドアから二人の黒いスーツ姿のサングラスをした男たちが降りてきた。彼らは倒れている瑠真を抱えると車に乗せようとした。
「ドリャ。」
夏美が男たちの一方にチャリごと激突する。しかし、相当鍛えているのだろう。後ろ蹴りで、夏美を自転車ごと蹴り倒す。瑠真を押し込むとドアを閉め、男を残して車は走り出した。夏美が起き上がって自分の足で男の足を絡める。彼は側転をして避けると、瑠真の自転車に飛び乗り、車の後を追っていく。
「ププッ!」
後ろからクラクションが鳴る。
「乗って!」
瑠真の母親だ。夏美と勉に行ってもらう。弥子と富羅は、自転車を運ぶために残った。
「大丈夫かな?」
弥子が心配する。
「信じよう。二人の頭脳と体力があれば大丈夫。私たちが行っても、重りにしかならないから。」
「瑠真のことを感づいた連中が誘拐しようとしていている。夫は逃亡する際にアルマ細胞のサンプルをすべて廃棄した。それを知った連中が、唯一残っているあの子の細胞に目をつけた。」
トンネルを抜けると興志内漁港に見かけないモーターボートが止まっていた。
「あれに、乗られたらもう追跡できない。」
瑠真を乗せた車は、トンネルの出口から漁港に向かう道に曲がった。
「おばさん、このまま行けば先回りできる。」
勉が叫ぶ。
「誰が、おばさんよ。」
瑠真の母親は不機嫌そうに言った。雷電国道を進み、一つ先の道から漁港に入った。合流地点で相手の車のすぐ後ろにまで迫った。ボートには別の仲間がスタンバイしている。幸い瑠真を乗せるのに手間取っていた。
「これ貸して。」
漁港にあった太いロープを抱えると夏美はボートに向かって走った。
ブロロロロ。
ボートが岸を離れる。
「えい!」
夏美がロープを抱えたまま岸から飛んだ。彼女はギアの切り替えのために一旦スピードが落ちたボートに、きれいな弧を描いて着地した。そして、ロープを手すりに通すと、両端を持って再び岸に戻った。ロープを近くの係留用の鉄のビットに巻きつける。やがて、ロープがピンと張り詰めるとボートはくるりと向きを変えて、桟橋に激突した。しかし、それでも再び沖へ出る。万事休す、これまでか。
「そこのボート、止まりなさい。」
沖から灰色の大きな船が出口を塞いだ。海上保安庁の巡視艇だ。
「なんだ。お前達、出迎えに来てくれたのか?」
大作先生だった。松葉杖をついているが、元気そうだ。
「ちょうど、帰りに乗せてもらってな。そしたら、これだ。こいつら、誘拐犯か?」