交渉
文字数 1,297文字
一同が片津を飲んで見守る中、やつは音もなく空からやってきた。真っ黒で細かい体毛は完全ステルス仕様。目視もレーダーも叶わない。頭上に二本の角を持つ人型。体高は1メートルと小さい。大きな黒い羽根と長い尻尾が特徴的である。その姿はまるで宗教画によくある悪魔そのものだった。やつは、すでに動物を超えて、機械の能力までも手に入れた。
「ふん、愚かな人類にしてはよく約束を守ったものだ。」
やつは子供のような高い声でしゃべった。独特の言葉であったが、翻訳機を通して富羅たちの耳には日本語で伝わってくる。
「女。お前がシナプスの通訳者か。そっちの男は何だ。私と同じ匂いがする。」
アルマは首は動かさず、二本の角をカメレオンの目のように左右別々に常に動かしていた。角に見えたのは触覚のようだ。どうやら目は見えていない。その代わり蛾のように広げた触覚から周囲の情報を得ているようだった。
「女。通訳しろ。最近は独自行動が多いようだが、植物は動物をどうしたい。」
富羅は隣にいるシナプスに軽く触れると、言われた通りに伝えた。
「どんな言語でもいい。わたしは、人類のすべての言語を習得している。」
アルマは高圧的な口調で言葉を付け足した。
「互いに食し、食される関係に変わりはない。むやみに、生命に危機を与えるほど、傷つけることは控えてほしい。」
おそらく、大量の樹皮を引きはがすクマ剥ぎなどのことを言っているのだろう。
「私が生まれたころには哺乳類は小さく臆病な動物だった。しかし、目覚めると巨大な仲間は空や海へと逃げ、やつらの天下になっていた。まもなくやつらも私の傘下に入る。その際にはやめさせよう。」
アルマは王らしく威厳を持って語った。
「動物からの要求は、かつての餌は裸子植物だけだったが、今や被子植物が中心だ。裸子植物が増えるのは構わんが、餌になる被子植物にも十分な生息域を確保したい。」
「解った。地上が暖かくなり勢力図も変わっている。後日、植物同士で折り合いをつけよう。われらにも住みやすい環境というのがある。植物の都合にあわせてもらう。」
「いいだろう。」
話が進むにつれ、暴君と思われたアルマは実は視野の広い知性的な君主だということが解ってきた。
「ところで、人間。協力してくれた褒美に、お前たちにも発言を許そう。」
「彼らはまだ子供だ。代わりにわたしから話していいか?」
教授がアルマに向かって語り掛ける。
「まあ、お前には借りもあるしな。だが、人の言葉は信用がおけない。お前の息子と話そう。細胞レベルでシンクロすれば、より深い意識で話ができる。」
テレパシーのようなものなのだろうか。アルマの細胞を使えば、意識の共有ができるらしい。
「じゃあ、伝えてくれ。人間の生活圏を確保したい。」
「なるほど。われわれと共存するためにルールを決めたいというわけか。だが、それにはいままでのように一方的な搾取というわけにはいかないぞ。」
「承知の上だ。われわれがどうしたいかではない。われわれに何ができるかを決めたいのだ。」
それは、作物の分配や狩られる可能性を意味していた。
「ふん、愚かな人類にしてはよく約束を守ったものだ。」
やつは子供のような高い声でしゃべった。独特の言葉であったが、翻訳機を通して富羅たちの耳には日本語で伝わってくる。
「女。お前がシナプスの通訳者か。そっちの男は何だ。私と同じ匂いがする。」
アルマは首は動かさず、二本の角をカメレオンの目のように左右別々に常に動かしていた。角に見えたのは触覚のようだ。どうやら目は見えていない。その代わり蛾のように広げた触覚から周囲の情報を得ているようだった。
「女。通訳しろ。最近は独自行動が多いようだが、植物は動物をどうしたい。」
富羅は隣にいるシナプスに軽く触れると、言われた通りに伝えた。
「どんな言語でもいい。わたしは、人類のすべての言語を習得している。」
アルマは高圧的な口調で言葉を付け足した。
「互いに食し、食される関係に変わりはない。むやみに、生命に危機を与えるほど、傷つけることは控えてほしい。」
おそらく、大量の樹皮を引きはがすクマ剥ぎなどのことを言っているのだろう。
「私が生まれたころには哺乳類は小さく臆病な動物だった。しかし、目覚めると巨大な仲間は空や海へと逃げ、やつらの天下になっていた。まもなくやつらも私の傘下に入る。その際にはやめさせよう。」
アルマは王らしく威厳を持って語った。
「動物からの要求は、かつての餌は裸子植物だけだったが、今や被子植物が中心だ。裸子植物が増えるのは構わんが、餌になる被子植物にも十分な生息域を確保したい。」
「解った。地上が暖かくなり勢力図も変わっている。後日、植物同士で折り合いをつけよう。われらにも住みやすい環境というのがある。植物の都合にあわせてもらう。」
「いいだろう。」
話が進むにつれ、暴君と思われたアルマは実は視野の広い知性的な君主だということが解ってきた。
「ところで、人間。協力してくれた褒美に、お前たちにも発言を許そう。」
「彼らはまだ子供だ。代わりにわたしから話していいか?」
教授がアルマに向かって語り掛ける。
「まあ、お前には借りもあるしな。だが、人の言葉は信用がおけない。お前の息子と話そう。細胞レベルでシンクロすれば、より深い意識で話ができる。」
テレパシーのようなものなのだろうか。アルマの細胞を使えば、意識の共有ができるらしい。
「じゃあ、伝えてくれ。人間の生活圏を確保したい。」
「なるほど。われわれと共存するためにルールを決めたいというわけか。だが、それにはいままでのように一方的な搾取というわけにはいかないぞ。」
「承知の上だ。われわれがどうしたいかではない。われわれに何ができるかを決めたいのだ。」
それは、作物の分配や狩られる可能性を意味していた。