決断

文字数 1,352文字

 翌日遊ぼうということになったが、ここにはゲーセンもカラオケも無い。おじさんに混じって釣りをする気分でもない。かといって、自転車でツーリングも中坊のようでダサい。
 あれ?そういえば中学のときって何をしてたんだろう。平日は宿題と部活で手一杯だった。休日は、誰かの家でゲームをしたり、海をながめたり、スケートをしていたっけ。

 ここには、夏でも滑れるスケートリンクがある。村民だったころは靴を借りても200円だったが、今は外へ出てしまったので300円か。とりあえずスケート場に集まる事にした。北海道の人間はだれでもスキーとスケートはできると思っている人が多いが、そんなことはない。が、とりあえず遊ぶ所が少ない村ではスケート場が唯一の彼らにとっての遊び場だった。

「瑠真もおいでよ。」
 夏美がしきりに誘うが、
「僕は寒いのが苦手で。」
 と彼は断っていた。そりゃ、爬虫類だもん。富羅は口からでそうになった言葉を、飲み込んだ。迂闊な事を言って、彼氏説を復活させることはない。
「滑れない人を、無理にさそうもんじゃないよ。」
「出た。勉の優等生発言。へいへい、ごもっともでございます。」
 富羅にとっては、弥子を怒らせためにも、ここは黙っておくのが一番だ。弥子のほうを見ると、いつの間にか髪はブラッシングされて、薄いが化粧もきめている。さては、こいつさっきトイレに行くふりをして直してたな。
「弥子はさっきから黙ってるけどどうなのさ。」
 夏美が水を向けた。
「わ、私は・・・来て欲しいかな?あ、でも無理にじゃないよ。」
 あ、こいつ瑠真を意識してる。
「せっかくの同窓会なので、遠慮するよ。」
 瑠真の言葉を聞いて、なぜか富羅はほっとした。そんな自分自身の気持ちに気付いて、好きとかじゃなく、秘密がばれるのが怖いんだと自分自身に言い聞かせた。

 誰が見ているかわからない。瑠真の家に行くのは危険だ。富羅は夕方、隠れるように診療所に行った。瑠真も来ていた。
「どうだった?」
 富羅の問いに瑠真はちょっと困ったような顔をした。
「夏美君は素直だ。勉君は僕と距離をとっていた。冷静で真面目な分、いつ敵にまわるかわからない。」
 そこまで言って、すこし間があいた。
「弥子君は、危険だ。何か隠している。僕と話しているときの発熱量が半端無い。」
 いや、それはあんたを意識しているんだって。
「とにかく、信用しすぎるのは禁物ね。」
 先生が言う。母親として警戒するのは当然か。

「じゃあ、どうして私には話したんですか?」
 富羅はちょっと気になった。
「そりゃ、一回話をしただけで、付き添って救急車でやってくるような人ですもの。」
 先生のあきれたような笑いに、喜ぶべきか悲しむべきか迷った。
「おせっかいは遺伝なんです。」
 むきになるほど、大笑いされた。

「明日の帰りに、ここに寄ってもらって。3人には、この子のことで話せる部分を話してみて、どの程度信用できるか、見まましょ。」
 帰り道、富羅はちょっぴり気が重かった。今まで自分だけが特別な秘密を知る存在だと感じていたものが、そうではなくなる寂しさがあった。3人は友達だ。信用しなくてどうする。そう思っても、心の中を揺れ動く不安が鎮まる事はなかった。
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登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

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