鈍感

文字数 827文字

「勉。夏美のことどうするのさ。あいつ、運動バカだから自分じゃ気づかないぜ。」
 夏休みもついに終わりがくる。いっこうに進展しない二人を見ているのが面倒になって、富羅は直接聞いてみた。
「ゲッ!気がついてたの?」
 おいおい、知らぬは当人ばかりなりって。こいつ、本当にばれてないと思ってたんだ。
「いいんだ。あいつは、いずれ日本のトップ選手にあるさ。その時、手助けできるようにスポーツ医学を勉強するつもりだ。夏美と一緒にいたいわけじゃない。あいつを支えられればいいんだ。」
 おいおい、いいやつ過ぎるだろ。富羅は、ちょっぴり夏美のことが羨ましくなった。
「そっちこそ、人のおせっかい焼いてて平気なのか?」
「地味女だもん。相手いないもん。」
「ふ~ん。」
 勉は何だか信じていないというように、薄ら笑いを浮かべていた。弥子と夏美は瑠真と弁天島めぐりをしている。夏美としては、勉と富羅を二人きりにしようというつもりなのだろう。島の上から海を見ていると、この世界で起こっていることが嘘のような気になる。海は穏やかで、空は青い。波の音、木々の声。小さい時と何も変わらない。時間が戻せたら、違った世界になっていただろうか?普通の女子高生。

 普通って何だろ。自分らしいってことかな。なら、今だって自分らしく生きている。
 一途なバカに、おせっかいバカ。運動バカと爬虫類バカ。お嬢様気質の成金バカ。
 こりゃ、バカレンジャーだな。大人になったら、このバカたちもずる賢くなって、今の純粋さを失うんだろうか?
 富羅は、大人になりたくないと思った。でも、いつか恋愛をして、大人を夢見る日が来るのだろう。それまで世界を相手に、めいっぱいバカやって過ごすのも悪くない。
 世界のためじゃない。自分のためでもない。大切な誰かのために。ただ、それだけ。
 こんな、思いに浸るのは、ほほに当たる風のせいかもしれない。海を渡ってくる風は夏の終わりを告げ、すでに秋の風になっていた。
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登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

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