探索

文字数 939文字

 押し切られる格好で、しぶしぶ富羅は引き受けた。
「学校は、社会活動なので一年休学にしておきます。大学受験で有利になるわよ。」

 行きたい大学はある。道内で樹木医になるには難関かもしれない。一般ルートもあるが何年もの実務が必要なのでそれが短縮できる。こんな時代だ。何が有利になるのかはわからない。コネはいやだが、経験によるもので、不正ではない。
「まずは、施設内でターゲットを見つけて、協力してもらえるように説得して。」

 政治家やメディアを信用しているわけではない。やはり、自分の目で真実を確かめる必要がある。富羅は小学校の社会化見学で発電所には一度入っている。しかし、状況が違う。探す相手は移動する植物だ。果たして、見つかるのだろうか。期限は3日。初日は、自衛官がついてテントの指導をしてくれる。火は使えない。クーラーボックスに入れた、食料と水で暮らす。テントは2つ用意してもらったが、夜になると心細い。しかし、こんなかわいくて若い乙女だ。いくら瑠真が奥手とはいえ、男と一緒のテントに入るのは、狼の巣に子羊を放り込むようなもの。
 例え、家族でも拒否をする。富羅の家族で男といえば父しかいない。ただ、父の場合は男だからいやなのではない。いびきがうるさいからいやなのだ。

 2日目は雑木林のほうを探してみる。こうして当ても無く歩いていても、蚊にさされるだけで収穫はない。結局、夜になりテントに戻る。初日は緊張して疲れたのかすぐに眠れたのに、今夜は目がさえる。梟が遠くで鳴いている。風は弱いが、時折木の葉の激しく揺れる音がする。そういえば、父親は本格的なキャンプ道具を持っているのに、一度もキャンプに連れて行ってくれることはなかった。仕事を思い出すからいやなんだろうとずっと思っていた。

 朝になり、テントから這い出す。
「ゴン。」
 なにかに頭をぶつけた。見ると、一本の木が入り口の前をふさぐように立っている。
「瑠真。いたずらはやめてくれる。」
 瑠真は、まだ寝ていた。
「こいつは暖かくならならいと動き始めないんだ。」
 前世はきっと爬虫類だ。

「早くここを離れたほうがいい。」
 目の前の木がしゃべった。この声には聞き覚えがあった。
「あなたを探してたのよ。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み