スケート

文字数 1,071文字

「富羅、遅いよ。」
 3人は、おしゃれな格好をしてすでに集まっていた。夏美は髪をアップし、ボーダーシャツに洗いざらしのジーパンをはいて、ボイッシュな格好だ。対照的に弥子は、髪をゆるめにカールし、白のノースリーブに薄いピンクのフリルスカート。スケートにくる格好じゃない。手には着替えの入っていると思われる紙袋。診療所に寄ると聞いて、目一杯きめこんできやがった。あわてて、自転車を降りる。
「なに、その格好?」
 夏美が富羅のジャージ姿を見て言う。
「こっちには、これしかないし。今日は夏らしく青にしてきました。」
「ハア~。」
 富羅の無邪気さに一同がため息をつく。
「だから、彼氏ができないんだって。」

「富羅らしくて、いいじゃないか。」
 勉が止めに入る。
「あっ、そういえば勉、富羅がくるか気にしてたよな。もしかして、ダサ女好き?」
 相変わらす夏美は噂話が好きだ。勉が3年間片思いしている相手は、夏美なんだって。クラスの大半の女子が気がついていた。なんせ、優等生のこいつは、授業中も夏美のほうばかり見ていたんだから。学年1クラスしかないから、すぐばれるって。今回だって、夏美が言い出さなきゃ、わざわざやってくるようなやつじゃない。
 夏美は人のうわさは早いが、自分のことになるとさっぱりだったな。勉は夏美に気付かれないように、富羅のことを隠れ蓑として使っている。

 弥子の方に目を向けると、やっぱり富羅を睨んでいる。これ以上は、危険だ。さっさとスケートしよう。

 勉と夏美と富羅の3人は靴を借りると通路でさっさと履き変えた。弥子は着替えをしているので、なかなか出てこない。
「相変わらずへただなあ。」
 勉の靴紐がゆるゆるなのを見て、夏美が縛りなおす。
「ありがとう・・・。」
 勉は顔を赤くして小声でお礼をいった。解り易いやつだ。そこへ、弥子が出てきた。真っ白な薄手のダウンに白パンツ。おまけに、白のマイシューズ。そういや、こいつお嬢様気質だった。格好だけで、足元がおぼつかない。

 勉はしばらくぶりなので、へっぴり腰。転ばないだけ上出来だ。スポーツ万能の夏美はバックも交えながら早くもならしの周回をしている。富羅も一回転ジャンプぐらいはできる。
「富羅。ジャンプの仕方教えてよ。」
 なぜか弥子は、夏美ではなく富羅に頼ってくる。おせっかいな富羅としては放っておけない。

「へやだな。ほら教えてやるよ。」
 見かねた夏美が勉を指導する。端から見る限り、お似合いのカップルだ。ただ、夏美にとって勉は弟みたいな存在かもしれない。
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登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

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