絶望

文字数 686文字

 台風が通過すると、日本列島はすっかり様変わりしていた。都市部では、いたるところに巨大な穴が開いていた。舗装道路の下の土が流されていたからだ。事前にシナプスたちがスカスカにしておいた。そこへ、台風による地下水の上昇で、かろうじて支えていた土が流されてしまった。ビルが1つ傾くと、隣り合ったビルが次々将棋倒しのように倒れこんでいった。都会のミステリーサークル。0メートル地帯では水没するところも出た。
 山間部では、果樹園など保水力のない斜面が崩落していた。その土砂により川が氾濫。下流の街も水に飲み込まれていた。国は都市部を復旧させようとした。そのため地方は完全に孤立した。
 未曾有の危機にもよらず、交通や通信が麻痺した官邸は終日閣僚不在のまま時が流れた。

 ロシアでは永久凍土が溶け始め、太古の微生物たちが復活を始めた。それらのいくつかは免疫のない人類に伝染していった。

 アメリカは火災がカリフォルニアやロサンゼルスなどの大都市にまで次々と迫ってきていた。一見森林火災は植物にとって不利に思える。しかし、放置されている山々には成長の余地が無く、害獣たちがはびこっていた。これらを一掃し、気候の変化に適応した植生に変えるには焼き払うのが効果的だった。それに、大規模火災によりCO2濃度が上がればより温暖化が進み、裸子植物にとって都合がよくなる。

 人間達は、数年以内に地球の平均気温が3から4度上昇し主要な沿岸都市は水没するというシミュレーション結果が公表され、戸惑っていた。特に沿岸部に工業地帯の多い中国は株が暴落し、人々は海岸の都市から逃げ出す準備を始めた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

羽合 富羅(はあい ふら)

農業高校1年で寮暮らし。ジャージ姿。伸長約140cmのチビで地味。植物の声が聞こえる。夢は樹木医。

夏休みを北海道泊村の実家で過ごす。

春馬 瑠真(はるま るま)

富羅の実家の村に移住してきた。身長約180cm。知識はあるが性格は子供。カメレオンを腕に乗せ散歩させている。

夏美(なつみ)

富羅の中学の同級生。スポーツ万能。勘違いから富羅と勉をくっつけようとしている。

弥子(やこ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。土地成金のお嬢様。両性類や爬虫類が嫌い。瑠真を好きになる。

勉(つとむ)

富羅の幼馴染で中学まで同級生。勉強はできるが運動はダメ。夏美のことが好き。

ドクター・春馬

泊村の診療所の女医。元遺伝子治療の研究者。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み