最終章;第五話

文字数 6,354文字

 今日は放課後に恭也の家に行く約束の日。
 私は太一と一緒に下校した。
 校門には恭也と未来ちゃんと智くんが校門で待っていた。
「結、今日のこと恭也に話すのか?」
 私は包帯を巻いている左手首を気にしていた。
「うん。恭也には何でも話をする関係になっていきたいから」
 でも私は話せるのか迷っていた。今日、学校であった出来事。
 恭也に話をしたらどんな顔をするんだろう。
 私はすごく心配になっていた。
「俺も恭也の家に行くんだから話を俺にふってもいいからな」
「うん、ありがとう。太一」
 私と太一がみんなと合流した。
「それなら行きましょうか」
 恭也の家に私は初めて行く。すごくドキドキしてしまう。
 でもそれ以上に私は胸が痛く感じていた。
「あれ?結、左手首どうした?」
 智くんが私といつものように手を繋ごうとして見つかった。
「ちょっと捻って保健室に行ってシップしてくれたの」
「ふーん……でもさ結。どうやって捻ったの?」
 太一は智くんを未来ちゃんのところに呼び寄せて
 一緒に歩くようにさせてくれた。
 恭也は私を心配そうに見ていた。
「恭也、後でお話があるの。いいかな?」
「うん、判った」
 恭也は私の一言でなにか事故があったんだということを悟っていた。

          ☆ミ

 恭也の家は木造二階建ての家でちょっと古さを感じているが、
 なかなか広い感じの家だった。
「僕の部屋を見てよ」と言って来たので智くんの部屋に行ってみた。
 二階のちょっと急な階段を上ってみると廊下があって、
 そこには二つの部屋の入り口があった。
「奥の部屋がお兄ちゃんの部屋で、こっちが僕の部屋だよ」
 智くんが部屋のドアを開けて部屋の中を案内してくれた。
 智くん部屋は6畳の部屋だけどちょっと広く感じる。
 白を基調に壁紙が貼られていて柄も可愛く清潔な感じだった。
 ちょっと小さめの可愛いクマさんのぬいぐるみが、
 棚の上やテレビの上などたくさん置かれていた。
 私は恭也からクマさんのぬいぐるみを、
 全国大会の優勝としてプレゼントをされたことを思い出した。
(兄弟揃ってクマさんが好きなのかな?)

 勉強机も綺麗になっていて片付いている。
 ベッドも毛布や布団が綺麗に畳まれている。
 ベッドの上には大きなクマさんぬいぐるみが置かれている。
 子供部屋を大きくなっても使い続けている感じで可愛らしい。
「ここが智くんの部屋なんだね。すごく綺麗になってる」
「お兄ちゃんの部屋は本とか散らばっているから、
 今は急いで部屋の片付けをしてると思うよ。
 漫画とか雑誌とか小説とかいつも散らばってるんだよ」
 私は思った
(恭也が急いで片付けている漫画はエッチ漫画だろうな……)
 未来ちゃんも智くんの部屋に来ていた。
「智くんのお部屋ってすごく可愛い!
 クマさんぬいぐるみがすごく沢山置いてあるね!」
 未来ちゃんはクマさんぬいぐるみの
 クリクリしている目を見て楽しんでいた。
 良く見ると同じように見えるクマさんでも
 着ている服とか柄だけでなくて微妙に表情が違っている。
 しばらくしたら恭也が隣の自室から私達を呼びにきた。
「一応、片付いたから入ってもいいよ」と言ったので、
 私達は恭也の部屋に向かった。
 部屋に入ると木目調の落ち着いた部屋になっている。
 真ん中にはガラステーブルがあり壁には本棚があった。
 入っている本を見ると小説本が沢山ある。
 よく見てみると特に推理小説が多くあるように思えた。
 散らかっているという漫画本が全く見つからない。
 急いで見えない場所に片付けたんだろうな。

 勉強机があり机の上には教科書や参考書が置かれていた。
 シングルベッドが置かれていた。ベッドの頭の方にも棚があって
 目覚まし時計や今読んでいると思われる小説本が置かれている。
 コンセントがあってスマホ充電器も置かれている。
 6畳くらいの部屋に細々と置かれていてちょっと狭く感じた。
「恭也って小説読むんだね。今は何を読んでるの?」
「推理小説が好きで西村京太郎の戸津川警部のシリーズ読んでるよ」
「漫画は読まないの?本棚に見当たらないんだけど?」
「漫画も読むよ。えっと……いま友達に貸し出し中かな」
 恭也の声質が変わったことを私は聞き逃さなかった。
 これでも恭也との付き合いは長いんだ。
 恭也は何か隠し事をするときは声質が微妙に変化する。
 少なくとも私は恭也はアニメや漫画などの二次元の女の子が好き。
 特にエッチな漫画本が大好きなことも知っている。
(この部屋のどこかに隠している)ということがバレバレだった。
「恭也ってどういう漫画を読むの?
 男の子の部屋にあると言われてるエッチな雑誌も無いね」
「結、いい加減にしろよ、男だからエロ本の一冊や二冊は持ってる。
 そこを隠したということは察してやれよ」
 太一の一言でエッチ本の捜索が出来なくなった。
「太一も持ってるの?そういうエッチな感じの本。」
 未来ちゃんも太一に詰め寄って聞いていた。
 自分の彼氏の性癖はやっぱり知っておきたいと思う。
 付きあったらいきなり縛られるということは絶対に避けたい。

「えっと……そういえば結は僕に話があるって言ったけど何?」
 恭也がいきなり話題を変えてきた。
「恭也の性癖を知りたかったけどいつか必ず教えてね。
 話が変わるけど今日の学校のことでというか、
 ほんのついさっきの放課後になってすぐのことだけど……」
 私は今日起きた出来事を恭也に話し始めた。
 ガラステーブルの周りに全員が座った。
 私は対面に未来ちゃんと一緒に座っている太一を見た。
 太一が私を見てうなずく。

「私のことが好きって言う男の子がいて、放課後に屋上に呼ばれたの」

          ☆ミ

 私はA・B組合同女子体育が終わり、
 女子更衣室で着替え終ってから教室に戻った。
 教室には男子生徒がまだ着替えているので廊下で待っていた。
 お友達の真奈ちゃんが来て廊下で話をしていると教室が開いた。
 そして私達女子が教室に入った。
 教室に入ると体操着や着替えた服をバッグに入れて、
 次の授業の教科書やノートを机から取り出そうとすると、
 机の手前の方に手紙が入っていた。

 名前を見てみると『安西ひろ』と書かれていた。
 私は座って太一と話をしている安西くんを見た。
 いつもおとなしくて一度も話をしたことが無い安西くんから
 手紙が来たことにちょっと驚いていた。
 手紙を開いてみると可愛い便箋に丸い感じの文字が書かれていた。

『僕は結さんのことが大好きです。
 お願いです、放課後に屋上に来てください』
 ラブレターのようでラブレターじゃない言葉だった。
 でも私にはもう付き合っている大好きな彼氏がいるので
 本当はまったく行く気は無かったけど、
 私がもうお付き合いしている彼氏がいるというのは、
 ごく少数の人しか知られていないので知らないんだろうな。
 私にはお付き合いしている人がいることを話をして、
 しっかりと『ごめんなさい』って言うべきだと私は思った。

 放課後に私は屋上に行った。
 安西君はもう屋上で待っていた。
「結さんのことが大好きです。僕と付き合ってください!」
 安西君は大きな声ではっきりと私に伝えた。
「もうお付き合いしている人がいます。ごめんなさい」と私が答えると、
 安西君の態度が急に変わった。
「結さんの彼氏ってあの二高のやつですか!
 僕の方が頭が良いし絶対に幸せに出来ます!」そのように言いながら、
 私の両肩を強く握って私を屋上に付けられている金網に押し付けた。
 とても強く両肩を握られて、いきなり強い力で金網に押し付けられて
 力強くて何も抵抗が出来なくて私はすごく怖くなった。
 手を胸のところに持ってきていて身を守ろうとしていた。
 私はすごく怯えてしまって安西君がなんて言ったのか判らなかった。
 すごく怒鳴っている感じで、そしてすごく怒っている感じで
 私に向かってくるように話をしてきて、とても怖く感じていた。
 私は自分の身体がひどく震えているのを感じた。

 右手で胸を隠していて左手で安西君を私は離れさせようとした。
 その私の左手首を強く掴んだ。掴み方が乱暴ですごく痛かった。
「安西君、だめ!本当にごめんなさい!」と私は声を出すと、
 誰かが私達のところに来て安西君を私から引き離してくれた。
 離れていくときに安西君の手が私の手首を強く握っていたので
 私の左手首が内側に強く曲げられたようで捻ってしまった。
 本当に怖くて身体中が震えていた。恐怖で足もガクガク震えていて、
 もう立っていれなくてその場に倒れ込んでしまった。
 ガクって倒れ込むように真下に急に落ちていく感覚がして、
 ひざが先に床に着いたようでひざもぶつけて怪我をしてしまった。

 私は男の人に強い力で掴まれて、怒鳴られてなにも出来なかった。
 まだ体が震えていたけど深呼吸をしてちょっと落ち着かせていたら、
 私を助けた人が大声で安西君と口論をしていた。
 私は声をする方向をゆっくりと見ると、
 安西君の上に太一が乗っていて安西君の顔を殴っていた。

「結は俺の大切な親友だ!てめー絶対に許さねえ!」
 太一の大声が私の耳に聞こえてきた。
 安西君に強く両肩を掴まれてすごく怖くて身の危険を感じていて、
 安西君の怒鳴り声は何を怒っていたのか良く判らなかったけど、
 今、大声で怒鳴っている太一の声は良く聞こえた。
(あの二人を止めなくちゃ……)
 私は太一の近くに行って、太一に殴ることをやめさせた。

「結!大丈夫か!」
 太一はすぐに私のところに来て優しく抱きしめてくれた。
 さっきの恐怖が嘘のようにちょっとづつだけど落ち着いてきて、
 すごく安心してしまったのか、私は太一の胸で大声を出して泣いた。
「結、どこか怪我とかしてないか?」
 私は泣きながら「手首を捻ったみたい」と言うと、
 太一はすぐに保健室に連れて行ってくれた。
 保健の先生が居て手首を見せると捻挫をしていると言われ、
 私の手首にシップを貼って包帯を巻いてくれた。
 そして「タイツがひざのところで破けてるけど見せて」と言われた。
 太一は「廊下で待ってる」と言って保健室から出てくれて、
 私はタイツを脱ぐとひざを擦り剥いて怪我をしていた。
 消毒液を付けてくれてガーゼを当ててくれてテープで止めてくれた。
「何があったの?」と保健の先生が言ってくれたけど、
 安西君のことは言わずにいたほうがいいと思って、
「ちょっと転んでしまって怪我をしてしまったんです」と答えた。
 そして太一と一緒に下校した。

          ☆ミ

 今日の放課後に私の身に起きた一連の事件を、
 その場に居た恭也や未来ちゃん、智くんに話した。
「本当にごめんな、結、恭也。
 あいつは結が転入してきたときから結のことが好きで、
 ずっと遠くから見ていただけだったからそのままにしていたんだ。
 まさかあいつがこんなことをするとは思わなかった。
 あいつと良く話をしていたらこんなことにはならなかったと思う。
 俺の責任だ。本当にごめん!」
 太一が急に謝罪してきた。
「太一のせいじゃないよ。逆に私を助けてくれて本当にありがとう。
 太一が来てくれなかったらどうなってたかと思う。
 金網に押し付けられたときすごく怖くて身動きも出来なくなってたの。
 なんか怒って怒鳴られていたし、体中が震えて本当に怖かった。」
 いまでもあのときのことを思い出すと怖くなってくる。
 私の横にいる恭也が私の肩に腕を回して私を引き寄せてくれた。
 優しい恭也の胸で私は涙を流してしまった。

「結にそういうことをするやつ絶対にゆるさねえ!」
 智くんの怒った声が聞こえていた。
「俺がお前らの分もまとめて殴ってやったさ」
 太一くんが智くんを宥めていた。
「こういうときに結ちゃんを守ってあげれないのが辛いね」
 未来ちゃんの一言が私の今一番辛い部分を言ってくれて
 私は涙が止まらなくなってしまっていた。
「恭也、学校の中では結は俺が守っていく。だから安心しろ」
 太一は私を本当に守ってくれてとても嬉しかった。

 恭也は私を優しく抱きしめてくれた。
「太一くん、結のこと守ってくれてありがとう。とても助かったよ。
 本当は僕が助けないといけないのに出来ないことが悔しいよ。」
 恭也の抱きしめる手が緩んだ、私を恭也から少し離した。
 そして私の包帯が巻かれている左手首を触った。
「結、まだ痛いよね。また僕が守れなくて本当にごめん」
 恭也はとても辛そうな顔をした。苦しそうな顔をした。
 もし逆に恭也の身に何かあったら私はどうなっていただろう。
 私も恭也のことを想うと、とても苦しい気持ちになるはずだ。

 私の心の奥には恭也が居てくれる。
 恭也の心の中にも私が居てくれている。
 愛し合うということはこういうことなんだ。

「恭也、私はこれからこういうことが絶対に起きないようにする。
 怪我もしないようにする。軽率な行動はしない。絶対に約束する。
 だから恭也、私のことで苦しまないでね。」
 恭也の辛そうな顔をもう絶対に見たくないよ。
 本当に恭也のことが大好きだから、とっても愛しているから、
 だから私もこういうことが二度と起きないように軽率な行動はしない。
 私は心からそう決めた。

「太一、本当に守ってくれてありがとう。」
 私は心から太一にお礼を言った。
「今日みたいなことがあったら俺に言うんだぞ。
 恭也も俺にとって大切な親友だ。結も大事な親友だ。
 俺の親友を傷つけるやつは絶対にゆるさねえ」

「お兄ちゃん、僕も第一高校に進学するよ。
 僕が入学しても結は高校三年になってるけど僕も結のこと守るんだ」
 智くんが自分の進学を決めていた。
「智、第一高校はすごく偏差値が高いぞ。もっと頑張らないと無理だ。
 智自身の進路だから自分のやりたいことを決めて高校を選ぶべきだ」
 恭也の厳しい言葉があった。

 私の正面に未来ちゃんが体育座りをしていた。
「未来ちゃん、ガラステーブルだから
 その座り方だとこっちからパンツが見えちゃうよ」
 私がそう言うと未来ちゃんが真っ赤な顔をして足を閉じ、
 スカートでパンツを慌てて隠した。

「恭也、なんか口数が少ないなって思っていたんだけど、
 彼女が怖い目にあって恭也の胸で泣いたりしてるのに、
 未来ちゃんのパンツを見ていたって言うことはないよね?」

「結、そんなことない!しっかりと結のこと考えていました!」
 恭也が慌てて私にそう答えた。
「慌ててるって言うことがすごく怪しい!恭也!すごくムカつく!」
「恭也、俺の彼女のパンツを見るとはいい度胸してるな。
 未来もパンツを軽々と見せびらかすな!」
「軽々と見せびらかすって私を痴女のような言い方するな!
 太一のエッチ、痴漢!」

「私、恭也の彼女で居られるのか心配になってきた」
 私はちょっと意地悪く言ってみた。
「僕は結のことが大好きです!浮気は絶対にしません!」
 恭也の言葉でみんな笑ってしまった。

 本当にこういうみんなとの関係いいな。
 恭也が彼氏で本当に良かったな。
 私は心からそう思った。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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