第二章;第十三話

文字数 2,313文字

 僕は未来と両想いの恋人同士になった。
 結や恭也に乗せられた感がありすぎるのだが、
 言わされた感があるのだが未来に告白した。

 あの後、未来から返事をもらったのだ。
 しかし恋人同士になったからといっても、
 なにかが変わるわけでもない。

 いつも僕の横には未来が居てくれる。
 僕も未来の横に居る。
 ただそれだけなのだ。
 でもその『ただそれだけの事』が、
 違うような気がしてくる。
 何が違っているのかと言われると、
 言葉で言い表すことが出来ないのだ。

 ずっと僕たちは傍に居続けていたせいで、
 自分たちで気付く事が出来なかった安心感が、
 お互いに言葉として伝え合うことで理解できた。
 単純なことだけど、その単純なことが判らなかったのだ。

「未来、今日は帰り一緒に帰るか?」
「うん。いつも通りに待ってるね」
 普段ならこの会話もなかった。
 言葉にすることのなかったことが、
 言葉で伝えることで未来の事を理解できる。
「言葉で言わなくても判るだろ?」
 このようなフレーズをよく聞くが、
「言葉で伝えなかったら、誰がお前の事なんて判るんだよ」

 言葉で伝えなければ判らない。
「知っているだろ」「判っているだろ」ではない。
 そんなことを言うやつには僕はこのように言いたい。
「知らねえよ」「判る訳ないだろ」だ。

 言葉で伝えることが出来た僕と未来は、
 お互いにお互いをさらに知ることが出来る。
 もっと親密になれるのだ。

 男は女の事がわからない。
 女も男の事がわからない。
 他人だからわかるわけがない。

 それならまず知ることから始めよう。
 知ってもらうことから始めてみよう。
 しっかりと口にして自分を表現してみよう。
 まずはそれからだと僕は思う。

 昨日、結と恭也が帰った後のことだ。
 僕と未来はしっかりと話し合った。

 こんな単純なことに気が付いていなかった自分を恥じた。
 そしていつも僕の傍に居てくれていた未来に
「ありがとう」と言った。
 そして未来に「好きだよ」と言った。

 未来は小さいときの夢を語りだした。
「私の最初の夢は『お嫁さん』だったの」
 僕が知っている未来の最初の夢は
『看護士さんになりたい』だった。

「最初の夢は『お嫁さん』、そして次が『看護士さん』なの。
 未来の傍に居てくれて、優しくて、いつも頼っていた
 太一のお嫁さんになりたいって思った。

 でも太一、覚えてるかな?
 幼稚園の年少のときに太一が怪我をしたときのこと。
 太一の足から血が出ていて、
 私はどうしたらいいのか判らずにアタフタしてた。
 でもすぐに病院に行って、
 看護士さんに手当てしてもらったでしょ。
 私が何も出来なかったのに、
 看護士さんはすぐに手当てをしたの。
 だから太一が怪我をしても
 私がすぐに治せる様になりたくて、
 小学校三年のときの夢は、
 『看護士さんになりたい』だった。」

 このときから未来は僕の事を見ていたのかと思った。
 幼稚園の年少のときってどんだけ昔の話だよ。
 怪我っていつのときの怪我だよ。
 男だから遊びまわって怪我くらいするさ。
 それで俺のために看護士になるって・・・。

「そして中学のときになると太一は、
 工場で働きたいって言うようになった。
 技術開発の道に進みたい。
 航空宇宙産業の道に進みたいって。

 だから太一がいつまででも健康で居て欲しいから、
 私は医者になりたいと思うようになったの。
 そんなに簡単なことじゃないって判ってる。
 医学の道はとても大変なことで厳しい道だって判ってる。
 でも太一の健康は誰が見るの?

 私は太一の性格をよく知っている。
 いつも無理をして、
 毎日、夜遅くまで勉強して、
 自分の気が済むまで勉強してるの。
 無理をするなとは言わない。
 私はそういう太一の事が好きだから。

 だからこそ、私はいつも太一の傍に居て、
 ずっと太一を診てあげないといけない。
 太一の健康は私が診ていくんだって思ったの」

 未来、お前って本当に馬鹿だよ。
 自分のことは何も考えなくて、
 僕の事を一番に考えてくれている。
 僕の健康を未来が見てくれるのなら、
 未来の健康は誰が見るんだよ。

「未来、いつもありがとう。

 こんなに僕の事を見てくれているのに、
 僕は未来の事を見てなかった。
 これからは未来の事を考えるよ。
 僕の事を想ってくれているのなら、
 僕も未来の事をいつまでも想っていくよ。
 本当にありがとう。
 
 好きだよ。未来、
 いつも本当にありがとう」

 未来は目に涙を浮かべながら、
「太一、ありがとう。
 私も大好きだよ。
 これからも一緒に居ようね」

 幼馴染がふとしたきっかけでお互いに愛し合う。
 アニメや漫画の世界でよくある話だ。

 僕はこんな夢物語あるわけないだろ。
 そのように想っていた。

「夢は寝ているときに見るものだ。」
 父からそう言われていた。
 でも夢物語いいじゃないか。
 将来の夢を持ってもいいじゃないか。

 未来は常に夢を持っていた女の子だ。
 僕のために、この僕のために夢を持っていた女の子だ。
 僕は未来のことが本当に好きだ。大好きだ。
 いつも夢見る女の子の未来のことが大好きだ。

昼間夢見る人は、
夜だけしか夢見ぬ人には見えない多くのことを知っている。
             エドガー・アラン・ポー

 このきっかけを作ってくれた結、恭也。
 本当にありがとう。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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