第二章;第八話

文字数 2,375文字

 時が過ぎていきこの時期がやってくる。
 一学期最後の期末テストを迎えるのだ。
 そして美耶の三浦結の評価が過大評価ではないと知る。

 1位から20位までは特進科が占めた。
 期末テストでは実に15人が全教科満点だった。
 残り5人の点数が一問間違えただけの点数で終わる。
 問題はその後の順位である。

 21位・普通科1年B組・三浦結
 22位・普通科1年A組・田端美耶
 23位・普通科1年B組・鈴木太一

 美耶に負けたことは、許すことは出来ないが
 美耶と話をしていてかなり優秀だと言うことは認めよう。
 しかし、あの三浦結に負けると言うのは許しがたい。
 しかもあの美耶より優秀だというのは考えられなかった。

 三浦結が編入学して来たことにより、
 僕はさらに一つ順位を落としたのだ。

 最終的に言うと僕は高校卒業するまでの間、
 一度も美耶にも三浦結にも勝つことは無かった。
 下を見ればいくらででも下に居るが、
 同様に上を見ればいくらででも上が居るものだ。

 特進科がある限り、僕は一位になれるわけではない。
 しかも目の前に居る美耶や三浦結にさえ負けるのだ。
 そして三浦結は、さらに偉業を成し遂げるのだ。
 第一高で初のアーチェリー部での県大会出場を果たすのだ。

 三浦由依先輩がバレー部とハンドボール部で
 初の県大会出場を成し遂げたのだが、
 バレー部員やハンドボール部員を引っ張っていったからだ。
 三浦由依先輩だけが特別な存在のように思えていた。
 その後を追うように三浦結も文武両道の模範となるのだ。
 しかも個人競技で県大会出場は一高では初快挙なのだ。

 三浦由依先輩の従妹。
 それだけでも注目され、期待をされる。
 それに答えるだけの度量が三浦結には備わっていたのだ。

「美耶の言う通り、あいつは天才だったな。
 何をやっても成績を出すことの出来る天才って居るんだな」
 僕は期末テストの結果に落ち込んでいた。
 美耶は僕を見てこう言った。
「三浦結が天才だったとして、それが太一君に関係あるの?」
 美耶の言うとおりだ。
 三浦結が文武両道で天才だったとして僕にとって何の関係も無い。
 僕は自分の事を棚に上げて、三浦結に嫉妬していたのだ。
 三浦結は自分の思い通りに何でも手に入れることが出来る。
 僕はいくら頑張っても努力をしても、
 手に入れることが出来ないことを、
 三浦結はあっさりと手に入れてしまった。
 僕はただ嫉妬をしていたのだ。

「負けとかよくわからない」
 三浦結が僕に言った言葉だ。
 あいつは最初から勝負をしていない。
 美耶も同じだ。
 最初から僕とは勝負なぞしていない。
 しかし僕は勝ち負けにこだわっていた。

 三浦結には絶対に負けない。
 美耶には勝つ。
 そうやって1人で勝手に勝負をしていただけだ。
 そして挙句の果てに嫉妬してるって何だよ。
 とてもかっこ悪い・・・。

「嫉妬はつねに他人との比較においてであり、
 比較のないところには嫉妬はない。」
「それって誰だっけ?」
「フランシス・べーコン」

「美耶、俺って嫉妬深いのかな?」
「嫉妬するから何?って私は思うけどね。
 嫉妬したい人はすればいい。
 私を憎みたいなら勝手に憎めばいい。
 私はそんな無意味なことをしたいと思わないから。
 嫉妬してる時間があったら、
 他にもやることがあるんじゃないのと思う。
 だから太一君が嫉妬深いのかという質問は、
 私にはどのように答えたらいいのか判らない。」

 僕は美耶の言葉で頭に浮かんだ言葉を口にする。

「敵に害を与えたいなら、自分が功徳を積むことだ。
 敵は嫉妬で心を焦がし、自分は福徳が増える」
「サキャ・パンディタ、宗教家ね」
「正解。よく知っているね」

「功徳ある人のところには、集めなくても人は集まってくる。
 香しい花は遠くにあっても、蜂が雲のように集まってくる。」
「同じサキャ・パンディタだね」
「私の好きな言葉」
 美耶がサキャ・パンディタを好きだと言うのは
 僕にはとても興味深かった。

「友達に好かれようなどと思わず、
 友達から孤立してもいいと腹をきめて、
 自分を貫いていけば、
 本当の意味でみんなに喜ばれる人間になれる。」
「岡本太郎」
 美耶は笑顔で答えた。
「やっぱり知っていたか。正解」
 美耶の笑顔に僕は笑って答えた。

          ☆彡

 校門の前で未来が三浦結と話をしている。
 僕は未来をみた。
 とても楽しそうに話をしている。
 あんなに楽しそうな未来を見たことが無いように思えた。
「太一、こっちだよ!」
 未来が僕を見つけて大声を出した。
 三浦結も僕を見てすぐに話をする。
「太一くん、あの特進科って何?
 全教科満点ってありえないと思わない?」
 僕はあっけにとられてしまう。
「お前って本当にすごいやつだよ」

「太一くん、どういう意味か判らない」
 三浦結が僕に言った。
「今まで思って居たんだよ。
 何故こんなにも三浦結が注目されるのか。
 そして何故こんなに期待をされるのか。
 俺は三浦由依先輩の従妹だから。
 ただそれだけでちやほやされるのだろうと思っていた。
 しかしそうじゃなかったんだな。
 常にしっかりと期待以上のことをしてきたんだな。
 そしてそれを他人に対して見せ付けることを絶対にしない。
 それに対して他人に威張ろうともしない。
 本当にお前はすごいやつだよ」

「太一、どういう意味?」
 未来は何のことかさっぱりわからない様子だった。
「こっちの話、さっさと帰るぞ未来。それじゃな」

「ごきげんよう。太一くん」
 結は笑顔でそう答えた。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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