第二章;第九話

文字数 2,497文字

 期末試験が終了したと言うことは、
 そう夏季休暇である。

 しかし夏休みだからといって浮かれている人は居ない。
 学校で実施してくれる夏期講習に僕は参加した。
 夏期講習に参加していない者は見たことが無い。
 連休の講習会では夏期講習と冬期講習がある。
 講習の参加は本人の意思に任せるとなっているも、
 不参加する生徒は1人も居ない。

 いつものように学校に行き、
 いつものように食堂で食事をして、
 いつものように勉強をして、
 いつものように放課後になり、
 いつものように帰宅するのだ。

 いつもと違うのは体育が無いことと、
 図書館が閉館していることだ。
 文芸部は連休中は活動しないのか?と言うと、
 実はそうではない。
 しっかりと活動をしている。
 文化棟の部室に来い。というのだ。
 部室と言うと狭苦しい小さい部屋のように思われるが
 文芸部は違う。
 学校設立当初の最初の図書室が僕らの部室なのだ。
 図書館が独立して一つの建屋として完成し、
 旧図書室が使われなくなり文芸部の部室とされた。
 第一高図書館ほど規模としては広くないが
 市営の図書館くらいの広さと、書籍の数はある。
 多少、文芸部OB達の趣味の本もあるが、
 空調設備も万全でとても過ごしやすい空間があるのだ。

 僕が図書室に行くとすでに美耶が本を読んでいる。
 夏期講習が終わったら一直線でここを目指したのであろう。
 本を選び美耶の正面に座ったのは言うまでも無かろう。

「美耶、講習お疲れさん」
 美耶はあんたもでしょという目で僕を見た。
「美耶、うちのクラスのフィリピン人君がさ、
 今度の日曜日にバーベキューやるってことで
 誘われたんだけど美耶も来ないか?」
「B組のフィリピン人って言うとジェームス君だっけ?
 私、A組だけど行ってもいいの?」
 お友達も連れてきていいよと言っていたし良いんじゃね?
 そして連絡したいからと言うことでスマホNoゲットした。
 もちろんメアドも教えてもらう。

「美耶って絶対にこういうものは教えないと思っていたのに、
 意外とあっさりと教えてくれるのな」
「いつまででも教えないと教えてって五月蝿(うるさ)いし、
 教えてからウザいと思えば着信拒否すればいいから」
 美耶に着信拒否された人物はどれくらい居るのだろうか。
 通話可能な数より着信拒否の数の方が多いのではないか?

「美耶に着信拒否されないように気をつけるよ・・・」
 僕にとってこの言葉は本音に近い。
 せっかく美耶とここまで仲良くなれたのだ。
 スマホ一つでこの友情を壊す気はない。
 美耶はどんなに友人関係を築こうが
 迷わずに着信拒否をすると思うのだ。

「三浦結が今日で講習は終わりって知ってた?
 アーチェリー部の合宿に入るそうよ。
 そしてあの二高君も一緒に行くらしいわ」
 あの二高君、なるほどね。
 校門で三浦結と一緒に帰ってるあいつか。

「学校処分まだ続いてるのかよ。いつまで処分させるんだ」
「これからずっと卒業するまでだそうよ」
 三浦結のファンは増え続けていると聞く。
 二高君、たしか三浦結が恭也と呼んでいたっけ。
 三浦結は恭也の事を友達だと言っていたが、
 恭也ってやつは三浦結のことをどう思ってるのだろうか。

 果たして男女間の友情は成り立つのだろうか?

「太一君もよく一緒に帰る第三女子の女の子が居るじゃん」
 三浦結に言われた言葉だ。
 確かに未来は女の子だ。幼馴染で妹のような存在だ。
 僕と未来がただの友情ではなく恋愛になってしまったら、
 兄と妹は恋愛対象になり得るのか?ということになってしまう。

 兄妹は恋愛関係になりえない。
 これが僕の持論だ。

 それなら美耶はどうなんだ。
 少しずつではあるが美耶とは打ち解けて来ている様に思う。
 しかし恋愛となると、これは意味が違って見える。
 やはりまだ友情は育ってきていると思うが、
 友人と呼ぶには、まだ程遠いと言わざる得ない。
 恋人と言うのは無理がある。

「雑草も花なんだよ、一度それと知り合いになるとね。」
 美耶が僕に言う。
「美耶・・・クマのプーさんの台詞だろ、それって・・・」
「何だ、クマのプーさんを馬鹿にするのか!」
 以外だ。とても以外だ。
 美耶がクマのプーさんを好きだったとは。

「そうか、太一くんってそういう人だったんだね」
 美耶はスマホを取り出す。
「着拒!」
「わ~!美耶ごめん!本当にごめん!プーさん最高!」
「判ればよろしい」
 美耶は着信拒否の解除をしてくれた。

 僕は美耶に最大にして最高な武器を
 送ってしまったのではなかろうか。

          ☆彡

 家に帰ると未来が僕の居間でくつろいでいた。
「三浦結さんに日曜日バーベキューに誘われちゃった。」
 ジェームス君は三浦結も誘っていたようだ。
 そして友達になった未来に連絡をし誘ったと言うわけだ。
 とても喜び、浮かれ気分の未来であった。
「僕も行くよ。美耶と一緒だ」
「太一は美耶さんと本当に仲が良いね」
 突然不機嫌になった未来が言う。
 先ほどまで浮かれ気分だったのが、
 僕の一言で一気に不機嫌になるとは。
 感情の変化が敏感すぎるだろう。

「明日からアーチェリー部の合宿で居ないのじゃなかったか?」
 美耶から聞いた情報だ。間違いが無い。
「よく知ってるね。長野県のすずらんって言うところらしいよ」
 長野県にすずらんという地名なぞもちろん無い。
 白樺高原の「民宿すずらん』というところに宿泊すると言うことだ。

「二校の恭也という人も一緒に行くんだろ?」
「たしか日曜日のバーベキューも一緒に来るみたいだよ。
 あの二人付き合っているのかな?」
 三浦結は友達だとはっきりと答えた。
 でも恭也と言う男のほうは三浦結のことをどう思っているのだろう。

「どうだろうね。あの二人の事はよく判らん」

 男女間の友情と言うのはどうなのだろうか?

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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