第二章;第六話

文字数 2,665文字

 僕の席の近くに居るから、とてもうざったるく感じる。
 なんのことかと言うと、ひろはすっかりと
 三浦結のことを惚れ込んでしまっているようだ。

 A組B組合同体育の時、バスケの試合である。
 女子チームで三浦結のチームが勝ったという。
 その話をクラスで散々聞かされた挙句、
 ひろからお悩み相談を受けることとなる。
『どうしたら三浦結と仲良くなれるのか』
 この僕がひろから相談をされるのだ。

 他人の恋愛相談なぞ知るか!と思いたいのだが、
 なぜ僕に相談してくるのかと思う。
「未来ちゃんと言う可愛い女の子と付き合っていて、
 学校では田端美耶とも付き合っている友人に、
 どのようにしたらそこまでモテるようになるのかを聞きたい」
 僕の事を二股かけている設定には
 勝手にしないでもらいたいと心から願いたいのだ。
 自分でもモテているとは思っていない。
 未来のことは幼馴染だと思っているし、
 美耶の事も(美耶のほうも)付き合っているとは思っていない。
 ただ部活が同じでよく話すようになったと言うだけの事だ。

「だからどうやって話すことが出来るんだよ」
 どうやってというのがよくわからない。
 普通に話をすればよかろう。
「それならひろと三浦結との共通点は無いのか?」
 言うだけ無駄だった。
 運動が得意で元気で明るい三浦結と、
 このひろとの間に共通点なぞあるわけも無い。

「それなら映画とか誘ってみたら?」
「いきなりデートに誘うのかよ」
 飛躍しすぎだ。
 友達関係を築く為に誘えと言っているのだ。
 それにしても何故ひろはここまで奥手すぎるのか。
「おはようでも何でもいいから、とりあえず言葉を交わしてみろ」
 そのように言うだけで僕には精一杯だった。
 めんどくせーやつだな本当に。

 三浦結の近くには多くの人が集まっている。
 そしてその中心でみんなと笑顔でしゃべっている。
 ひろもみんなと同じように三浦結の近くに行くのだが、
 全く話しかける様子も無い。
 時々、僕のほうをチラチラと見る。
 その度に行けよとジェスチャーをするが一向に話しかけない。
 そして無常にも休み時間が終わるのである。

「ひろ、あんなに人気者の子だ。
 他にも好きだと想っている人がいてもおかしくない。
 もっと積極的に話しかけないと後悔するのはお前だぞ」

          ☆彡

 しばらく時が経ち、しばらくというのはどのくらいだというと、
 A組B組の合同体育の一週間位してからの事だ。
 三浦結が学校を休んだ。
 朝礼のときに先生から大怪我をして入院したと聞かされる。

 そのときのひろの慌てぶりは相当なものであった。
 学校内でも三浦結のことは噂されるようになった。
「二高の生徒を守ろうとして大怪我を負った」
 どうでもいいと思っている僕の耳にまで入ってくるのだ。

 朝礼でクラス全員でお見舞いに行こうと提案がなされるも、
 担任に即この提案は却下される。
 そこで教育係の佐武と学級委員長と副委員長。
 あとは仲良しの友人の5名が選出される。

「ひろ、何で自分もお見舞いに行くと言わなかったんだ?」
 僕は聞くが何も言わない。
 ひろの恋愛はついに終了したか。

 そしてしばらくすると三浦結は退院し登校するようになった。
 朝礼で三浦結が前に出て、
 みんなに心配をかけたことへの謝罪をしていた。
 ひろも安心した様子だった。
 とても嬉しそうな表情をしていたが、
 ひろ、お前の恋愛はもうすでに終わっている。

 三浦結の処分は無いと言ってもよかった。
「通学の時は1人で帰らないこと」
 それだけであった。

 それから三浦結は由依先輩と通学するようになる。
 時々、二高の男子生徒が帰りに校門で待っているときもある。
 そして、二校の男子生徒と笑顔で帰る三浦結の姿を、
 遠くで見ているひろが居る。
 後悔してももう遅い。

          ☆彡

「三浦結が学校に来たようね」
 美耶も三浦結のことが心配だった様子だ。
 どこに行っても話題は三浦結の話ばかりだ。
 人気者の宿命なんだろうな。
 どこに行っても話題にされると言うのは、
 どういう気分なのだろうか。

 僕の顔を見て美耶が言った。

「自分をその人より優れているとも、
 偉大であるとも思わないこと。
 また、その人を自分より優れているとも、
 偉大であるとも思わないこと。
 そうした時、人と生きるのがたやすくなる」

「トルストイ」
「正解」

 美耶は僕の心を読んでいるのか?そう思っていると、
「太一君は思っていることが顔に出るから読みやすい」
 美耶はそう答えた。

「それで結局のところ駄目だったんだね」
 どこまで僕の心を読んでいるんだよ。
 しかし美耶の言うとおりだった。
 僕はひろに何もしてあげることが出来なかったと思う。
 その前になにも出来なかったと言うべきなのかもしれない。

「それで恋愛とはなにかということを私に聞きに来たの?」
 美耶に聞いても、答えが出ると思ってはいない。
 美耶も恋愛をしているのか判らなかったからだ。
 僕自身も恋愛というものがよく判らない。
 だから知りたいと思う。
 だからといって美耶に聞くのもおかしな話だ。

「確かに私に聞いても納得する答えは出ないと思う。
 私も恋愛をしているとは言えないから。
 でも人が人を愛すると言うことは、
 とても素晴らしいことだと言うことは知っている」
 頭で考えるのではなく心で感じることだ。
 恋愛に教科書と言うものは無い。
 そのように考えていくと僕より恋愛を楽しんだという、
 他人のことを心から愛することが出来た
 ひろの方が僕より一つ多くの経験をしたと言える。

「恋はまことに影法師、いくら追っても逃げていく。
 こちらが逃げれば追ってきて、
 こちらが追えば逃げていく」

「それは判らない。誰の言葉?」
「シェークスピア」

「恋をすることは苦しむことだ。
 苦しみたくないなら、恋をしてはいけない。
 でもそうすると、恋をしていないことで
 また苦しむことになる。」

「ウディ・アレンね。」
「正解」

 恋愛について多くの素晴らしい言葉があるが、
 僕たちは実際に経験をしてみないと判らない。
 そしてその恋が実るのか。
 それとも破局を迎えるのか。
 それもやってみなければ判らない。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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