第四章;第七話

文字数 2,991文字

 僕が結さんを待っていると智も第一高に来た。
 お兄ちゃんが結を待つなら俺も結の事をこれから待つというのだ。
 僕と智が校門の前で二人して話しながら結を待っていると、
「こんにちは恭也くん」と言われ、声をする方向を見ると第三女子の未来さんが来た。
 未来さんはいつものように太一くんを待つというのだった。
 第一高校の校門のところには第二高の僕、第三女子の未来さん、
 そして北浜中学の智という不思議な人達の集まりと化す。
 その可笑しな3人組を第一高の生徒がじっと見ていきながら、
 僕たちの前を通り過ぎ帰っていくと言う構図が出来上がった。
 僕や未来さんはほとんど毎日のように校門の前で待っているので、
 それほど不思議がる生徒は居なくなってきているのだが、
 小さい女の子に見える智が入ると状況が一変する。
 結さんは男の子ということは見抜いたが、
 中学生とは思わず小学生くらいと言っていた。
 結さんのお姉さんの由依さんは女の子に見間違えていた。
 お姉さんの見間違えは智を初めて見た人の普通の感想なのだが、
 今、第一高校の校門に新たに小学生の女の子が増えたと、
 なぜ小学生の女の子が高校で待っているんだろうと思ったであろう。
 それはここに居る未来さんも不思議に感じていた。

「えっと恭也くん、横に居るその女の子は誰なの?」
 僕も智と一緒に居ると確実に言われることなので、
 なぜかやっと気にしないようにすることが出来るようになってきた。
「僕の弟の智。市立北浜中学校の二年生だよ」
 僕が未来さんに言うと智が自己紹介をし始める。
 これもいつもの事だ。そして自己紹介された人は、
 今の未来さんのように目を丸くして智をじっと見つめる。
 この子が男の子?そして中学二年生?という目をする。
 次にごめんなさいと謝るか、可愛いと智に言うかだ。
「男の子だったんですね。本当にごめんなさい!」
 未来さんは智に謝り、頭を下げた。
「いいよ。いつもの事だし」
 これも智が謝られたときに言う言葉だ。
 僕はその言葉を聞くと胸が痛くなってくる。
 智は本当に今のままでいいのだろうか?

「恭也くんって弟さん居たんだね。ぜんぜん知らなかった。
 中2の男の子に可愛いって言ったらいけないかもだけどとっても可愛い!」
 そして未来さんは智を見てなにか気が付いた様子だった。
「恭也くん、結さんが言っていた小学生くらいの男の子って、もしかしてだけどこの子?」
「そうだよ。結さんに告白した小学生くらいの男の子は智だよ」
「兄弟揃って結さんに恋をして告白したって言うわけ?」
 未来さんにそれを言われると言葉も出ない。
 そして僕が結さんと登下校していると知り、智も来てしまったのだ。
 僕は結さんと登下校をして常に一緒に居ることで、
 結さんは他の男から告白できないだろうと思っていたのに、
 まさか弟の智が結さん告白してくるとは思っていなかったし、
 僕自身も兄弟揃って結さんに恋をするとは思っていなかった。

「結さんってファンが多いし、お付き合いしたいって人も多いでしょうし、
 兄弟揃って恋をすることもあることでしょうね」
 なぜか未来さんに言われてしまう。
「結さんファンがすごく多いって聞いていたけど、ここまですごいとは思ってなかった」
 いまや第一高校だけでなく第二高校にも第三女子にもファンがいて、
 智に聞くと中学校にもファン層が拡大していると聞く。
 そして僕の事は『結さんに付きまとっている男』として認識されている。
 せめて『あの横に居る男は彼氏なのかな?』って見られて欲しい。

 結さんが太一くんと一緒に歩いてきた。
 太一くんと笑顔で話す結さんの姿。
 同じクラスなのだからとても仲が良いのはわかるけど、
 太一くんが未来さんの彼氏だということは判っているが、
 やっぱり他の男と笑顔で歩く結さんをみると苦しくなる。
 そして太一くんが羨ましいと思ってしまう。
「太一。ここだよぉ!ねぇこの子見て」
 未来さんが智と手を繋いで一緒に前に出た。
 太一くんが目を丸くして足を止める。
 そして結さんからなにか言われ二人で笑い出した。
「未来!驚かすな。誰だと思ったぞ!」
「すっごい可愛いよね。太一、こういう子欲しいね」
 太一と結さんが僕たちのところに来ると未来さんが言った。

「太一くんと未来さんってもう子供の話をしてるの?」
 これはちょっと勘違いのような気がするが、
 結さんが太一くんと未来さんに聞くと二人は恥ずかしそうにしていた。
(なるほど、この二人はもうそこまで進んでいたか)
 本当に判りやすい二人だと思った。

「今日、みんな家に来ない?」
 結さんの一言で全員が結さんの家に行くことになった。
「へぇ。この二人もうやっちゃったんだね。気持ちよかった?」
 さすがに空気読み人知らずの智が、太一くんと未来さんにとどめを刺す。
「恭也。おまえの弟をぶちのめしていい?」
 太一、お願いだからそれだけはやめてくれ。
 あと、ぶちのめしているところを人に見られたら、
 小学生女の子を高校生男子がぶちのめしている図が出来て通報されるぞ。

 智の姿が見えないのであたりを見渡してみると、
 結さんと未来さんに挟まれて二人から手を繋がれ歩いている。
「太一くん、僕もなんか今すっごいムカついてきた」
「やっぱりそうおもうか」
 ここに恭也・太一同盟が結ばれた瞬間でもあった。

          ☆彡

 結さんの家に着くといつもの居間に通された。
 そして結さんは着替えに自室に向かった。
 僕たちはテーブルを囲み座った。
 未来さんと智は笑顔でなにか話をしている。
「なあ恭也。弟って聞いたけど女の子にしか見えんぞ」
 太一が僕に聞く。智については毎度の質問だ。
「小さいときから智は変らないんだよ。声変わりもせず背も止まってる。
 もともと可愛らしい女声だったのもそのままだし、髪ものばしてるし」
「憎たらしい性格だけが男の子だという証明になってるのか」
 太一もうまい事を言うものだと思った。
 確かにこの憎たらしい性格は男の子だな。
「憎たらしくないよ!すっごい可愛いもん。本当に子供っていいなぁ」
 未来さんが智を見て言った。
「太一くん、未来さんともうやったの?」
 僕は」太一くんにだけ聞こえる声で聞いた。
「そんなことどうでもいいだろ!」
 なるほど確実に未来さんとやったな。
「未来さんはお子さんが欲しいそうだ。太一くん、どうするの?」
 太一と未来さんはもう顔が真っ赤だ。
「恭也!てめえな。お前もさっさと結をものにしろよ。」
 太一がからかわれていることでちょっと怒り出した。
「お兄ちゃんには結は渡さねえよ。結は俺と付き合うんだ」
 智が言うと太一が固まった。
「あれ?この前、結が言っていたよな。小学生くらいの男の子に告られたって。
 もしかしてこの子も結の事が好きだとか?」
 太一が智を指差していう。太一くんには真実を言っていないようだ。
「その告白した小学生の男の子が智だよ」
 それを聞いて太一が笑った。
「お前ら、兄弟揃ってなにしてんだよ。」

 本当に何してるんだろうね・・・・・・。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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