最終章;第四話

文字数 3,871文字

「太一と未来ちゃんって付き合って何が変わった?」

 食事を終えてお茶を飲んで一休みをしているときだった。
 私は突然に太一と未来ちゃんに聞いてみた。
「突然に聞くなよ。こっちがびっくりするだろ!」
 太一が顔を赤くしながら言う。
「お兄ちゃん達ってもう付き合ってるんじゃなかったの?」
 智くんが恭也に聞いた。
「今まで恭也と一緒に居続けていたせいか、
 なんか付き合ってるという実感が無いの」
 私は思っていることを話した。
 登下校はもちろん一緒、買い物にも一緒に行く。
 部活の合宿にも一緒に居てくれていた。
 私の横にはいつも恭也が居てくれていた。

「私はずっと太一と一緒に居たんだけど、
 付き合うって言うことになったら何でも話すようになった。
 太一と私との間に共通な何かを得た気がするよ」
『共通な何か。』
 その気持ちがあることが付き合う言うことなんだろうか?
 付き合わないと共通な何かを得ることは無いんだろうか?

「そうだな、判ってるだろとか判れよじゃ無くて、
 お互いにお互いを判り合えるようにちゃんと話をする。
 いくら家がお隣同士で小さいときから一緒に居ても
 学校が違うから学校でこういうことがあったよとか、
 今回のように料理覚えたいなとか言って来る。
 料理なら結が出来るから教えてもらおうかと話す。
 そういう何気ない会話も良くするようになったよ。
 そうするとさ未来のことがわかってくるんだよ。
 悩んでいることとか、未来の感情や体調の状態とか。
 未来は俺のことをいつも見てくれる。
 未来のことは俺が見るんだと思っているから、
 共有し合うということが大切なんだと思ってるんだよ。
 だからコミュニケーションは欠かせないと思っている。
 どうでもいいやつにはそういう感情は無い。
 俺の好きな未来だからそういう感情があるように思うよ」
 太一と未来ちゃんは本当に仲が良いと思う。
 その秘密が会話をよくすること。
 本当にそれだけなの?
 私と恭也も同じように会話をしたら判るようになるのかな?

「お兄ちゃんは結のこと本当に好きだと思うよ。
 結もお兄ちゃんのことを好きだってすごく判るよ。
 家でも結のことで悩んでいるんだよ、結の悩みは何だろうって。
 いつか話をしてくれると思うから待っているとか言ってるんだ。
 お兄ちゃんを見ていてイライラする時があるんだよ。
『結に聞けよ!』って思いっきり怒鳴ったこともあるんだよ。
 本当に優しいんだよ。結と一緒に悩みたいんだよ。
 付き合うとはどういうことかと言ったらさ。
 そういう悩みを一緒に相談できる人が近くに居ることじゃない?
 結のお母さんやお姉さんとか、そういう家族だけじゃなくて、
 彼氏彼女として一緒に居てくれる人のことじゃないかな?」

 一緒に居てくれる家族と違った身近な存在。
 私はそういう存在を欲しがっていたのかな?
 恭也にそういう存在で居てほしいと願っていたのかな?

「結の悩みをひとつ教えてくれた気がして僕はうれしいよ。
 これからもこういう会話を結としていきたいと思う。
 合宿のときに僕は感じたことがあるんだけど言うね。
 クマのぬいぐるみを買いに行ったときのこと覚えてる?
 僕は宿のおじさんにお願いして車で買いに行った。
 そのとき結の傍から長い時間、僕は居なかった。
 結はそのときどうだったかな?僕は結に怒られたよね。
『私のマネージャーなら要らない』って言ったっけ。
 あのとき僕の存在は何だったのかな?
 付添人で一緒に行ったけど、僕はただの付添人だった?」
 あの時、恭也のことは大好きだった。
 いつも一緒に居てくれていつも横に居てくれて、
 試合に散々な結果で負けて悔しくて。
 恭也が居なくなると私は駄目な子になるのが辛く感じていた。
 付添人で一緒に来てくれた。
 でも私は恭也と一緒に居るのが嬉しかった。
 恭也を探しても居なくて、試合も酷く負けて、
 恭也が居たと思ったらニコニコ顔で飲み物を持ってきて、
 それが私には本当にムカついてきて、怒れてきて、
 恭也に八つ当たりして口も利きたくなかった。
 でも恭也が居なくなった理由を聞いてプレゼントをくれた。
 プレゼントのクマさんを抱きしめると思うことがある。

 -恭也はもうすでに私にとって、とっても大切な存在だった-

「私は恭也ともっと仲良くなりたいと思ってる。
 でもこれ以上仲良くなるってどうするんだろう?
 付き合いだしたら、もっと仲良くなりたいって意味がわかんない。
 付き合ってくださいと言われて、私も恭也と付き合いたくて。
 でも付き合ってみると付き合うってことが良くわからない。
 いつも一緒に居る、登下校も買い物にも一緒に居る。
 一緒にご飯も食べる。今までと何にも変わってない。
 変わったことと言ったら智くんや太一や未来ちゃんが居る。
 智くんも太一も未来ちゃんも好きだよ。でも恭也と違う。
 登下校のときに恭也と手を繋ぐようにした。
 恭也に結って言ってもらうようにした。でも何かが違うの。
 太一と未来ちゃんがセックスしたって知ったから
 付き合うって体の関係の違いなのかな?とも思った。
 でも体だけの違いだけだとは思いたくなかったの。
 それでずっと付き合うとはどういうことかを悩み中だった」
 太一、未来ちゃん、智くん、そして恭也。
 それぞれの恋愛感というものがある。
 太一と未来ちゃんはお互いを見ていくと言う考え方。
 私と恭也はどういう付き合い方をしていけばいいんだろう。

「太一兄ちゃんの言ったようにさ、
 お兄ちゃんと結がもっと話をすればいいんじゃないかな?
 判っているだろ?判ってくれよ。じゃ無いと思う。
 判っているだろ?は?知らないよ。
 判ってくれよ。何を?って言いたくなる。
 お兄ちゃんも家で悩んでないで聞けばいいんだよ。
『結が何か悩んでる。どうすればいいんだ。』
『結が言ってくれるまで僕は待つんだ。』
 見ていてこいつ馬鹿か?と思ってたよ。
 本当にイライラして『聞けよ!』って怒鳴ったし、
 結だってちゃんと話せよ!って言いたくなる。
 一人で悩んで解決しようとして長引かせてるの。
 結にとってお兄ちゃんはそこまで頼りないか?
 優しいお兄ちゃんだけどもっとしっかりして欲しいと思うし、
 結ももっとお兄ちゃんを頼って欲しいと思うよ。」

「ありがとう。智くん」
 中学生に言われて私は本当に情けないな。
 そうなんだよね。智くんの言う通りなんだよね。
 私は恭也にもっと頼っていいと思う。
 そしてもっと恭也と話をするべきだと思う。
 悩みだけじゃなくて太一と未来ちゃんのように
 私と恭也とは学校が違う。
 恭也の今の学校生活を聞いてみたい。
 恭也の家族のことも知りたい。
 弟の智くんが居ることしか知らない。
 ご両親は何をしているのかを聞いてみたい。
 よく考えてみれば恭也のことを良く知っていない。
『知っていると言うほどあなたのことを知らない』
 田端美耶さんの言葉だ。
 恭也はとっても優しくて、私のことをいつも見守ってくれている。
 私は恭也のことが大好きで、恭也も私のことが大好き。
 私が大輔という男時代のときの恭也は明るくて楽しくて、
 男の子ならエッチなことも好きだけど、
 普通のエッチじゃなくて恭也は二次元のエッチが好き。
 大輔のときから今の結のときまでの長い間、
 たったこれだけのことしか私は恭也のことを知っていない。
 恭也の優しさ。私のことを想う気持ち。
 いつも守ってくれていてとても大切な彼氏。
 もっと良く恭也のことを知らなくちゃ駄目だ。

「ねえ恭也。今度、恭也の家に行きたい。」
 恭也の家ってどういう家庭なのかな?
 恭也の部屋も見たい。いろいろと恭也のことを知りたい。

「それなら明日に僕の家に行きますか?」
「恭也の部屋も見たい」
 私の一言で全員が黙って私の方を一斉に見た。
「結ちゃん、それは駄目だよ」
 未来ちゃんが私にきつく言う。
「好きだからこそ一線を引くべきところはあると思う。
 好きだからすべて受け入れるのとは違うと思うし、
 後々問題になった場合のことを考えたほうがいいと思う。
 私も太一の部屋には入らないようにしてる。
 太一も私を部屋に入れないし入れさせようともしない。
 私達の親もそういうことはしっかりしていた。
 もし恭也君の部屋に行くのなら私達も連れて行って欲しい」

「確かに結が僕の家に一人で行ったとなれば大問題になります。
 みんなで僕の家に来てくれたら友達全員で集まったと言えます。
 特に結さんは付添人が必要という学校処分が下されています。
 その付添人のことで僕は第一高から目を付けられています。
 何も無くても付添人も危うくなるかもしれません。
 でも太一君や未来さんが居てくれたら安心して家に呼べます」
 もし恭也が付添人として相応しくないとなってしまったら、
 私は付添人が居なくなってしまう。
 付き合っているのに一緒に居てはいけないとなってしまう。
 問題事はとにかく避けなくてはいけない。

「恭也の言う通りにする。太一、未来ちゃん明日は大丈夫?」
 いろいろと多くの制限付きの私と恭也。
 付き合っていてもすべてを受け入れるのは違う。


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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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