最終章;第十三話

文字数 4,410文字

 私が朝、目を覚ますと真っ先に恭也を見た。
 恭也は眠っていた。
 昨日、恭也が目を覚ましたのは夢だったのか?
 私はそう思い始めた。
 しかし口のチューブが外れていた。
 昨日、ナースコールをして看護師さんたちが沢山来た。
 その時にしっかりと口のチューブを外したことを思い出す。
(恭也が意識を取り戻したのは嘘じゃないよね?)
 私は恭也の手を握った。そして手首に指を当てて脈をとった。
(大丈夫、恭也は生きてる)
 少なくとも昨日、恭也とのお話が最後の別れとはならない。
 そこから私は確認していきたいと思っていた。
 看護師さんが朝早くに病室に来て、
 今日の朝から食事が出るからと言われた。
 でもまだ恭也は眠っている。
 本当にただ眠っているだけだよね?
 また意識がないってことはないよね?
 私はとてつもない言い様のない不安が押し寄せてくる。
「恭也、朝だよ」
 時計を見ると朝の6時。
 朝の7時には食事が来ると言っていた。
 そして8時に病院の先生の回診がある。

 恭也はまだ眠っている。
 私の呼びかけにも答えてくれない。
 やっぱり昨日の夜のことは夢だったのかな?
 でもチューブが外れているし。
 私は恭也の顔に自分の顔を近づけてみた。
 恭也の呼吸音が聞こえてくる。
 恭也の顔がとても近くにある。
 そして私は恭也の唇にキスをした。
 恭也の唇はちょっとガサガサしている感じがした。
 私の唇の柔らかさとは全く違っていた。
(私、自分から恭也の唇に初キスしちゃった)
 私の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。
 私は自分の唇に指を当ててみた。そして指でなぞってみた。
 私の唇ってこんなにぷにぷにで柔らかかったっけ?
 唇を指でなぞってみると唇に触れる指の感覚が伝わってくる。
 そしてさっきの恭也の唇の感覚が残っていて感じてくる。
 女の子は唇も性感帯の一つと言われているが
 その意味が良く判る。こういうことなんだと思った。
 恭也は起きていないから、これはノーカウントで良いかな?
 私は恭也の唇を見た。また恭也とキスをしたいと思っていた。
 私は恭也の顔に近づけていく。
 そして「恭也おはよう」と言って目を瞑り恭也とキスをした。
 しかし、なぜかさっきのキスと違っているような感じだった。
 目を開けてみると恭也の目が開いている。
(あれ?)
 私は恭也からすぐに離れる。
「結、おはよう。まさかキスで起こされるとは思わなかった」
「え?あれ?恭也って寝ていたんじゃなかった?」
「なにか唇にすごく柔らかいものが当たっている感覚があって起きた」
 私は両手で唇を押さえた。
「えっと違うの。じゃ無いな。恭也とキスしちゃったのごめんなさい」
 私は凄く火照っていて熱くなっている。
 私の顔はすごいまっかっかな顔をしてるんだろうな。
「凄く嬉しいよ、結、本当にありがとう」
 なにか恭也にお礼を言われたような気がする。
「恭也、痛いところとか無い?」
「手足も動くし痛みもそんなに感じないかな」
 乗用車にはねられたんだからどこか痛いところはあるはずなのに、
 頭を打っていて3日も意識が無くなっていたのに、
 痛いところが無いってありえるのか?
「本当に痛いところが無いんだよ。起き上がってみようか?」
 これが昨日の夜まで意識が無かった人の言う言葉なのだろうか?
 しかし私は恭也の体にもしものことがあったら嫌だったので、
 私は恭也が起き上がることはさせたくなかった。
 恭也と話をしているうちに食事が運ばれてきた音がした。
「私が持ってくるから恭也は寝ててね」
 私は廊下に出て恭也の食事を持ってきてテーブルの上に置いた。
 ご飯はおじやのように柔らかくなっている。
 私はおじやのようにご飯が柔らかいものは大嫌い。
「恭也、おじやは食べれる?」
 私と恭也は好き嫌いが似ているので心配になっていた。
「ご飯の柔らかいのは嫌いだな」
 私はしょうゆを恭也に渡してあげた。
「ちょっとしょうゆをかければ食べれるようになるかも……」
 塩分のことを気にしないといけないのだが、
 恭也がそれ以前にご飯を食べないことの方が問題に思った。
 恭也はちょっとしょうゆをかけて全部食べきってくれた。
 食欲も十分で私は安心した。
 恭也がご飯を全部食べたので食器を廊下の台車の上に置いた。

 看護師さんが来て食事が食べれたかとか気分はどうか?と聞いて
「今日は精密検査があるので時間になったらまた来ますね」
 そう言って病室から出ていった。
「恭也、精密検査だって、どういうことをやるのかな?」
「怪我が無いのに意識が無かったところだろうね。もう大丈夫だけど」
「ちゃんと調べてもらって本当に絶対に大丈夫っていう安心がほしい」
 私は本当に恭也の身体は問題ないという確実な安心がほしかった。

 午前9時になると恭也は看護師さんに車椅子に乗せられ、
 看護師さんたちが恭也を検査に運んで行った。
 私は恭也の病室で自分の勉強と恭也の勉強をやっていた。
 休憩で給湯器からお湯を貰い、私はお茶を飲み始めた。
 ノートを沢山買い込んでおいたはずなのだけれども、
 もうすでにあと2冊しか残っていない。
 お茶を飲みゆっくりとしていると恭也が病室に戻ってきた。
「恭也、どうだった?」
「検査をしただけで結果はまだだよ」
 やっぱり恭也の検査結果が早く聞きたいと思った。

「結、ずっと僕に付き添っていてくれたの?」
「うん、ずっと恭也の傍に居たくて親達に土下座しちゃった」
 私はあの日のことを思い出していた。
 本気で人を愛すると私もあんな行動をしちゃうんだな。
 そして恭也が私の付添人になりたいと、
 お母さんやお姉ちゃんの前で土下座して居たことを思い出していた。
 あの時、恭也は私のことをこれほどまでに愛してくれていたんだと、
 今更ながら知ることとなった。
「恭也、私のこと好きになったのはいつからなの?」
「結と最初に出会った神社だよ。一目惚れだった」
 一目惚れだけでそこまで私のことが好きになるんだろうか?
「とても可愛くて、芯が強くて、頭が良くて。
 付き合っていったら料理も美味しくて、笑顔が可愛くって、
 僕は本気で結のことが大好きで誰にも渡したくなかった」
 今でも何故、私はここまで恭也が愛してくれるのかが判らない。
 でも、今は私の方が恭也のことを本気で愛している。

「ねえ恭也、私のことどう想ってる?」
「結のこと心から愛しています」
 私は恭也と本気キスをした。

          ☆ミ

 私は恋愛について何も知らない。何も判らない。
 付き合うと言うことがどういうものなのかを良く判っていない。
 でも私は色々と考えることをやめた。
 私には恭也という、とても愛している彼が居る。
 恭也も私のことをとても愛してくれている。
 それだけで良いんじゃないかと思うようになってきた。
 お互いにお互いを愛する。それ以上に何が必要なんだろう?
 私は自分の身体のことに悩み、男女間の友情のことに悩み、
 恋愛について悩み、付き合うということの意味について悩んでいた。
 しかし私は納得できる答えを見つけられることが出来なかった。
 それはなぜか?答えは初めから無いんじゃないかと思っている。

 人は恋をする。常に人を愛する生き物だと私は思う。
 多くの人と出会い友達、親友、恋人を得るものだと思う。
 得ると言う表現は間違っているのかもしれない。
 家族に助けられて生きていき、多くの友人に助けられていく。
 自分も成長をして多くの人を助けていくことになるのだろう。
 今の私ではまだ助けれるとは思わないが、出来るように頑張ろう。
 いつか私も結婚をして大切な子供を産むだろう。
 お母さんが私にとって、とても大切な存在の人であるように、
 私も自分の子供にとって、とても大切な存在の人になっていきたい。

          ☆ミ

 鈴木太一、四谷未来ちゃん。
 高校時代に私を支えてくれた大切な友人。
 そして私のこれからの人生で相談役になってくれる大切な人たち。
 太一と未来ちゃんは地元を離れ、愛知県の大学に入った。
 太一は工業系の大学で、未来ちゃんは商業系の大学に行った。
 大学卒業後、すぐに二人は結婚をした。
 太一は今現在、愛知県にある大手の企業に勤めている。
 小さいときからの夢である宇宙産業には入らず航空産業に入った。
 未来ちゃんは専業主婦になって毎日、太一の健康を守っている。

 恭也の弟の佐伯 智くんと私の教育係だった佐武真奈ちゃん。
 智くんは年下なのにしっかりしていて高校時代に助けてもらった。
 城北第一高校に合格し、希望通りの松浜医科大学に入った。
 ホルモン治療をせずにいて女の子のような容姿をしていて、
 今では凄く綺麗な大人の女性という雰囲気になっている。
 智くんは彼女が出来て現在お付き合い中。
 最初は、年上の彼女で結と同い年だよと言うことだけ聞いていた。
 そして智くんが彼女を連れてきたとき私はびっくりした。
 その彼女と言うのが佐武真奈ちゃんだったからだ。
 二人がどのような恋愛をしていくのか本当に楽しみです。
 
 田端美耶(みや)さん。
 高校時代では私とあまり絡んでいないのだけれども、
 私と同じ大学に行き高校教師になりたいとお互い助け合った。
 高校教職員免許を取得後、城北女子第三高校の先生になった。
 生徒達の悩み相談もしていて、生徒達に大人気となっているらしい。
 偉人たちの格言はいつまででも変わらず偉大な言葉なんだろう。
 
 佐伯(さえき)恭也と、私こと三浦 結。
 高校時代に私を守ってくれて常に一緒に居てくれた愛する人。
 私達はそれからもずっと変わらずにお互いに愛し続けている。
 恭也は工業系の大学を卒業後に地元の企業に就職をしている。
 私はお母さんと同じように高校教職員免許を取得し、
 私が過ごしてきた大切な母校、城北第一高校の教職員をしている。
 お互いに地元での就職なので私も恭也も自宅から通っていた。
 そして二人で将来について話し合い、私達は結婚をした。
 佐伯 結(さえき ゆう)、私の新しい名前だけどぜんぜん慣れない。

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   『あの人が私を愛してから、
        自分が自分にとって
     どれほど価値あるものになったことだろう』

                - ゲーテ -


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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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