第三章;第五話

文字数 3,285文字

 太一くんと話をしてみて僕は思う。
 男女間の友情関係をどう思っているのだろう。
 また聞いてみたいなって思うけど、
 太一くんの性格だと教えてくれないような気がする。
 もしかして意外とシャイな子なのかな?

 恭也は男女間の友情はどう思っているのかな?
 でもそれを聞いてどうなるのだろうと思うこともある。
 男の子だった女の子と男の子との友情関係。
 そんな奇天烈極まりない答えが
 本当に導き出せるのだろうか?

 僕はため息をつく。

「なに?結ちゃんどうしたの?」
 お母さんが僕の顔を見た。
「なにか悩み事?」
 悩み事というと僕はとても悩んでいる。
 恭也の事は僕にとって難題なのだ。

「男女間の友情についてお悩み中」
 お母さんは僕の前に座った。
「結ちゃん。本当のところは違うんでしょ?
 恭也くんのことを考えているんでしょ。」
 お母さんには隠せる気がしない。
 何でもお見通しなのだ。

「うん、恭也の事。僕は恭也の事が好きだと思う。
 でも、どうすればいいのかわかんないの。
 告白されたらどうしたらいいのだろう・・・」
 本当に悩む。
 どうしたらいいんだろう。
 でも答えが見つかるようにはとても思えない。
 お母さんは僕を抱きしめた。

「結ちゃんは確かに普通とは違った生まれ方をした。
 男の子が女の子になるなんて誰も想像できない。
 結ちゃんは女の子になったの。
 女の子として生きていかないといけないの。

 そして結ちゃんは好きな人と出会い、
 そして一緒になるの。幸せになっていくの。

 今は悩んでいくことかもしれない。
 人より違った悩みを持って生きていくかもしれない。
 今、人とは違った悩みを持っている。
 だけどお母さんは思うの。
 結ちゃんならきっと答えを見つけていく。
 そして誰よりも悩んだ分、誰よりも幸せになると思うの。

 だからね、結ちゃん。
 思いっきり悩んでいいのよ。
 たくさん悩みなさい。
 自分で答えを見つけなさい。
 そして思いっきり幸せになりなさい。
 
 結ちゃん、本当にごめんね。
 お母さんなのに、こんなことしか言えない。
 結ちゃんがとても悩んでいるのに何もしてあげられない。
 本当のことを言うとね。お母さんにもわからないの。
 男の子が急に女の子になるなんて、
 お母さんも初めての事だもの。
 男の子だったのに女の子になるってわかんないんだもの。
 
 本当にごめんね、辛い思いをさせてごめんね」

 お母さんも辛かったんだ。
 僕の事で辛い思いをしているんだ。
 僕も辛いよ。
 どうすればいいの。
 本当にわからない。

「お母さん、本当にごめんね。
 僕もどうしたら答えが見つかるのか
 本当にわからないよ・・・。」

 答えが見つからない。
 本当に答えがあるのだろうか。
 今はお母さんに抱きしめられて泣くしかない。
 お母さんもこんなに辛い思いをしてるんだ。
 今は一緒に泣くしかないんだ・・・。

          ☆彡

 悩んでばかりはいられない。
 僕には立ち向かうことが他にもある。
 アーチェリー部の大会に向けての試合がある。

 恭也に試合の日に一緒に来てもらうように話すと、快く引き受けてくれた。

「アーチェリーって初めて見ました。
 そして大会っていうからもっと騒がしいと思っていたけど、
 とても静かで緊張感があってすごかったです」
 恭也も大会を喜んでいるようだ。

 松浜市の大会を無事に終えて
 団体では二回戦負けと散々な結果だったが、
 70m個人で僕は優勝することが出来た。
 次は県大会に出場することが決まる。

 学校でも僕の松浜市大会優勝に盛り上がっている。
 次は県大会に向けて僕は練習する。
 県大会を6月末に行い、そして僕は県大会でも優勝する。

 そして全国大会が8月2~5日岐阜県に決まるのだった。
 アーチェリー部の合宿が8月1日から10日に決まる。
 合宿場所は長野県白樺高原に決まる。
 僕は全国大会出場が決まっているので、8月1日にみんなとは一緒に合宿に行かずに、
 顧問の先生と付添人と一緒に、8月1日から5日まで試合会場となる岐阜県に行く。
 5日に長野県に行き、みんなと合流して合宿をする。

 付添人である恭也にはまだ大会の岐阜県の事や、
 合宿の長野県の話をしていないけど、一緒に行ってくれないと僕は非常に困る。
 顧問の先生には付添人の恭也を一緒に連れて行くことを
 すでに了承済みで宿泊も許可してくれている。
 お母さんもお姉さんも恭也くんに任せると言ってくれている。
 あとは恭也の都合を聞くだけになっている。

 学校のフィリピン人の友人からバーベキューに誘われる。
 8月12日の日曜日だ。
 これはこれでとても楽しいと思うのだ。
 夏休みのスケジュールが次々と決まっていってしまう中、
 僕にはその前にさらに重要なことがあるのだ。

 もうすぐ一学期の期末試験だ。
 7月1日~7月4日と日程が決まっている。
 勉強が大嫌いな僕にとって問題だ。
 この試験に赤点を取ったら、追試験を受けるために講習をやる。
 普通の人達は夏期講習があるのだが、赤点追試者には他の夏期講習が用意されている。
 赤点追試日は8月13日月曜日だ。
 つまり赤点追試になると全国大会には出場できない。
 この期末試験が良い成績で終わってくれないと、
 僕はアーチェリーの全国大会に出場することができない。
 アーチェリー部の合宿にも行くことも出来ない。

 だからなのであろう、恭也には大会の事は伏せているのだ。
 期末試験が良い成績を収めることが出来たら、
 アーチェリー部の合宿や大会に行くことが決まったら、
 僕は恭也と一緒に岐阜県や長野県に行くことが出来る。
 そのときに話をしようと思っている。

 恭也には期末試験は絶対に良い点数を取ってねと
 私からのお願いとして言ってある。
 恭也が赤点をとっても付添人が居なくなるので
 合宿も大会にも行けれなくなるからだ。

 僕はお姉さんやお母さんの力を借りることとなるのだ。
「恭也くんも家に来て、一緒に勉強をしましょう」
 というお母さんの提案もあり、
 恭也も僕の家に来て勉強することになる。

 お母さんは第三女子の教師ということもあり、
 とても判りやすい授業だった。
 お姉さんも期末試験なのだが、
 僕の勉強に付き合ってくれた。
 恭也もよく付いて行った。

「第一高と第二高と第三女子って教科書が違うんだね」
 それには学校の方針だと言うことらしかった。

『・ 1対1の交際は望ましくない。
(まして男女2人で遠足や旅行をしたりするこ とは厳禁する。)
 ・男女間の交際は,公明正大で清潔な交際で なくてはならず,
  友情の域を脱してはいけない。
 ・男女の同室を極力避けること。』
 生徒手帳『男女交際事項』というところに書かれている。
 他にも男女交際の制限や禁止事項が沢山ある。
 城北女子第三高校はこの男女交際事項には特に厳しい。
 第三女子の生徒は他校との生徒と一緒に勉強が出来ないように、
 教科書は市内のどこの学校とも合わないようにしている。
 そして第一高も第三女子の考え方に習っているのだ。
 人為的に教科書が違っているように仕向けているのだった。

「それならさ、今のこの状況って非常にまずくない?
 恭也が僕の家に居ることは学校規定違反じゃないの?」
 僕は素朴な疑問を言ってみた。
「確実に規定違反だよ。でも結ちゃんのためさ」
 お母さんにもお姉さんにもお(とが)めが来ることは確実だ。
 でも僕のために行なってくれているんだ。

 僕は絶対に良い点数を取ろうと心に決めて勉強した。
 恭也、赤点とか取ったら絶対に許さないからな。
 赤点を取ったら恭也とは絶交だ。
 僕も頑張るから、恭也も頑張れ!


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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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