第二章;第七話

文字数 2,468文字

 ある日、僕が登校すると
 三浦結が僕のところに向かってくる。

 ひろは三浦結が来たことに緊張している様子だった。
「三浦さん、おはよう」
「安西君、おはようございます」
 やっと挨拶が出来るようになったひろであるが、
 三浦結のほうが一枚上手のように感じた。

「鈴木太一くん、おはようございます」
 僕は三浦結から挨拶されたことに
 なぜか違和感と言うものを感じた。

「三浦さん、おはよう。どうかしたの?」
「今日、鈴木君と私が日直なんだって。
 だから色々と教えてもらおうと思って来たの」
 さすがに男と喧嘩しただけのことはある、
 かなり度胸が座っている子に感じる。

「日直といってもたいしたことはやらないよ。
 今日一日、一緒にこなしていこうか」
 僕がそう言うと「ありがとう」という言葉とともに
 自分の席に戻って行った。
 本当に変な子だ。
 美耶は何故この子のことに興味があるのか判らない。
 ひろも何故ここまで好きになるのかも判らない。
 人の好みも十人十色というがまさにその通りだと思う。

 三浦結が去って行った後、
 ひろを見ると僕をとても恨めしいという顔をしていた。
 日直を決めたのは僕ではない。
 よってそこまで恨まれる筋合いは全く無い。

          ☆彡

 日直と言うのはあまりやることは無い。
 授業が終われば黒板を消す。
 放課後にはゴミ箱のゴミを捨てに行く。
 そして日直帳を書いて終わる。
 基本的にこれだけだ。
 このときにチョークが無くならない様に補充する。
 短いチョークは廃棄する。
 黒板消しを常に綺麗にする。
 などの細かなことは他にもあるのだが、
 多くを語るより実際にやってみればわかる。
 そういうものだ。

 そして日直を一緒にやってみてわかったことだが、
 三浦結は人に頼むと言うことをしない子だと言うことが判った。
 僕が黒板消しを綺麗にしようとすると自分から率先して始める。
 チョーク補充をしようとすると一緒に後から付いて来て、
 僕が何をしようとしているのか常に覚えようとする。

 放課後になりゴミ出しをするときも、
 ゴミ袋を取り出してゴミを袋に入れようとすると
 袋を広げてゴミを入れやすくしてくれる。
 とても気配りが出来る子だと言うことがわかった。

 ゴミ袋3個分のゴミが出来上がると、
 1人で3袋全部を持とうとする。

「一つ持って、俺が二つ持つから。全部を持とうとするな」
 僕が言うとちょっとむくれた感じになるが、
 言われたとおりにゴミ袋一つを持つ。
 一番ゴミが多く入っている重たいゴミ袋を持つのだ。

「やっぱりお前って変わってるな」
 僕が感じた三浦結の感想だ。
 そして一緒にゴミを捨てに行くのである。

「二校の男子生徒を(かば)ったんだって?」
「苛められていて嫌だったんだよ」
 とても正義感の強い子だ。
 でもそれで自分が大怪我を負っていたら意味が無い。

「みんなには心配かけてしまって本当に悪いって思ってる。
 でも苛められていて本当に嫌だったんだよ。
 もちろんそれで大怪我をして入院してたら駄目だと思う。
 でも僕には苛めと言う行為がとても許せなかったんだよ」
「判った。何も言わないよ」
 三浦結が僕っ子だったことは驚きだが可愛らしさがあった。
 僕たちはゴミ捨て場に来て、ゴミを捨てて教室に戻った。
 次に日直帳の書き方を教えた。

「太一君だったらどうしていた?」
 三浦結が聞いてきた。

「俺はそのときその場に居ないから判らない。
 どのように行動したらいいのかは判らない。
 でも軽率な行動はしないと思う。
 警備員を呼ぶとか、警察を呼ぶとか、
 一番楽で確実な方法を選ぶだろうよ」
 僕は一番無難な答えを言う。
 結局はどのようにするのが一番最善なのか。
 答えが無いように思えたからだ。

「でもそれで彼氏が出来たんだろ。
 結果的に良かったと言うことじゃないの」
 そして三浦結から「彼氏ってだれ?」と聞かれる。
「よく下校時刻になると一高の校門に居て、
 お前と一緒に帰る二高の男子生徒」と答えるのだが、
「恭也は、お友達だよ」と答えた。
 男女間の友達って成り立つのか?

「太一君もよく校門で待っていて一緒に帰る
 第三女子の女の子が居るじゃん」
「未来はお隣に住む幼馴染の子だ」
「男女間の友情は成り立つと思う?」
 僕の思っていたことをそっくりそのまま返しやがった。

「わかった、僕の負けだ」
「負けとかよくわからない」
 美耶の言うとおり、こいつは頭がよく働く。
 天才かどうかと言うのはまだ判らないが、
 とても頭が良いということはよくわかった。

「日直帳を担任に渡したら終わりだ」
「了解。今日はありがとう太一くん」

 さすがにあの三浦由依先輩の従妹と言うだけの事はある。
 頭がすごく働くし、機転も利く。
 とても明るくて笑顔も可愛い。
 よくしゃべるし、他人を思い遣る気遣いもある。
 ひろ、話すことも出来ないお前では無理だ。
 この子の手の平で踊らされるのがオチだ。
 そしてこの子はとてもモテると思う。
 好意を持っている人は大勢いるであろう。
 ひろ、もっとしっかりと話しかけることだな。
 上手くいけば友達にはなれるかもしれない。

          ☆彡

「今日、三浦結と日直だったんだって?」
 いつものように図書館に行くと美耶に話しかけられる。
 どこまで俺の事を知ってるんだよ。

「知っていると言うほど、あなたの事を知っていない」
 美耶はそう答えた。
 美耶が思っているほどすごい子だとは思わないんだよな。
 美耶がなぜここまで三浦結のことを評価しているのか。
 僕にはよくわからない。

「それならそれでいいんじゃないの?」
 そして僕は美耶の評価が過大評価でないことを
 後日になって身をもって体験することになるのだった。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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