最終章;第七話

文字数 4,686文字

 次の日の朝、
 私はいつも通りに起きて制服に着替えた。
 姿見で服装チェックをして髪型チェックをする。
 一階に降りて行き、朝ごはんを食べる。
「結ちゃん、体調はどう?」
 お姉ちゃんが心配をしてくれた。
 私は昨日の夜のことを思い出した。
 徐々に身体が火照ってくる感じに私は怖く感じた。
「今は大丈夫だよ。でもなんかこの身体は何が起きるのか判らなくて怖いよ」
 なにか色々な発作を起こすトリガーのようなものが私の体中にそこらじゅうに存在していて、
 なにかの要因で引き金が引かれていく気がした。
「それについても今夜にお話しようか。
 結ちゃんには女の子の身体について、教えておかないといけないのかもしれないわ」
 お母さんが話してくれた。
「女の子の身体って私はもう判ってる気がしていたけど、
 やっぱり謎が多すぎて教えてもらわないと駄目みたい」

 いつも通りに私は玄関を開ける。
 そして家の前で待っている恭也が居てくれるんだ。
 私はそのいつもの光景に安心感を覚えている。
 そしていつものようにドキドキするんだ。
「恭也、おはよう」「恭也くん、おはよう」
「結、由衣姉さん、おはようございます」
 私は恭也と手を繋いで歩き出す。
 そして私は門限が出来たことを恭也に話す。
 お姉ちゃんも恭也に門限が出来た経緯を話す。
 恭也は納得したようだ。物分かりが良すぎるんだよな。
 私は恭也にはもうちょっと反論して欲しかった。
「結ちゃんも絶対に守りなさいね。守らなかったらもっと厳しくなるよ。
 あとスマホの件は今日から使っても大丈夫だから。
 昨日の夜に連絡しておいてすでに許可されたからね」
 お姉ちゃんは本当に行動が早い。
『出来る出来ないは聞いてない。とにかくやれ。文句はやってから聞く』
 これがお姉ちゃんの強さの秘密だったな。

          ☆ミ

 学校に着いて教室に行くと何か騒がしかった。
「真奈ちゃん、なんか騒がしい様子だけど何かあったの?」
 真奈ちゃんが私の顔を見るとなにか慌てて話してくれた。
「鈴木太一君が暴力行為で担任に職員室に連れて行かれた」
 私が真奈ちゃんに詳しいことを聞いてみると、
 安西ひろくんを殴ったことが問題になっていると話してくれた。
 私を助けてくれたときの事件のことに違いないとおもった。
 私はすぐに職員室に向かって行った。
 そして職員室に行っているときにお姉ちゃんとお母さんに連絡をした。
「私も職員室に行くから職員室前で待ってて」
「お母さんもすぐに対策をするから時間を頂戴」
 二人の返事を聞くと私は職員室の前に着いた。
 すぐにお姉ちゃんも職員室に来てくれた。

「失礼します。鈴木太一君の件でお話しすることがあります」
 職員室の扉を開け、お姉さんが大きな声で言った。
「今、校長室に居るから許可できない」
 職員室に居た先生の声が響いた。
「鈴木太一君は私を助けてくれました。
 私に乱暴な行為をしようとした人を私から引き離してくれたのです。
 そのときに殴るという行為を行ったものです。
 私を助けてくれた行為によって処分されるのはおかしいと思います!」
 私は先生に立ち向かっていった。
「二人とも職員室の外で待機」
 そう言ってくれた先生が校長室の扉を叩いて入っていった。

 こういうとき時間の流れというものはとても長く感じる。
 先生が校長室に入ってからだいぶ時間が経っている気がした。
「結ちゃん、大丈夫だよ。深呼吸しよう」
 お姉ちゃんに言われて深呼吸をして落ち着かせた。
 校長室の扉が開いて先ほどの先生が出てきた。
「校長先生が事情を聞くと云われた。校長室の入室を許可する」
「先生!ありがとうございます!」
 まず第一関門突破だ!

 校長室に入ると部屋の中は意外と厳かな造りになっていた。
 窓側に大きなりっぱな机が置かれてあり、座り心地の良い椅子に中年男性が座っている。
 たぶんこの座っている人が校長先生なのだろう。
 その人の横で立っているおじさんっぽい人が居る。
 校長先生の次に偉い人というと教頭先生かな。

 校長先生の机の前に低いテーブルと長いソファーが2つ置いてあった。
 片方のソファーには安西君と横に知らないおばさんが座っていた。
 化粧の濃い割と中年っぽい人だ。校長室に化粧特有の臭いにおいが漂っていた。
 たぶん安西ひろくんの家族だろうな。私はそう感じた。
 その奥の壁側に太一が立っている。
 私は太一の横に並んで立った。そして私の横にお姉さんが立った。
 私からすべての人を見える感じになった。奥行きがあってちょっと怖い。
「どういう状況だったのか説明してくれるかな。三浦結さん」
 校長先生と思しき人から声を掛けられた。
 私はそのときの状況をこと細かく説明をした。

「私のひろちゃんがこんな子を相手にするわけがありませんわ」
 安西君の横に居た化粧の濃い人が奇声を上げた。
(わたしのひろちゃん?)
 もしかして親離れできない子供、子離れできない親の典型か?
「私の言ったことはその日に起きた出来事です。
 時間もわかります。太一くんが保健室に私を連れて行ってくれました、
 保健記録を見ればその時間の少し前に起きた事件です」
 私は食い下がる気は全く無かった。そして私は安西くんを睨み付けた。
 安西くんは私を見てすぐに顔を背けた。私はその行為にも怒りを感じていた。
「校長先生、こんな乱暴そうな子を私のひろちゃんが好意を持つわけありませんわ。
 この子の作り話に決まっていますわ。ねぇ、ひろちゃん」
 この親子を見てるとすごくムカついてくる。
 なんだこの気持ち悪い光景。もう高校生になってるんだろ?
 親に甘やかされすぎているから子供は愛し方を知らなくて、
 安西くんはあんな異常な行為・行動をすることでしか判らなくて、
 私に愛情表現をすることが出来なかったのか?

「校長先生、これは作り話ではありません。私が保証します」
 横に居たお姉ちゃんが急に話し出した。
「なに?この子は!」
 ヒステリー状態になったおばさんがさらに大声を出した。
「私の名前は三浦由衣。この子は私の妹の三浦結。ここに居る太一くんの親友になります」
 このお姉ちゃんの淡々と話す話し方に聞き覚えがある。
 なんかこの状態になったお姉ちゃんの姿を私は覚えている。
 私は横に居るお姉ちゃんを恐る恐る見てみた。

 少し微笑んでいる顔つきをしていた。
『氷の微笑』と呼ばれるその顔つきは決して笑っているわけでない。
 お姉ちゃんは本気で怒っている。背筋がゾクッと凍るような感覚。
 暖房で暖かな部屋の中に居ても恐怖で寒気を感じる感覚。
 お姉ちゃんの『氷の微笑』と云われる所以であったりする。
 ヒステリーおばさんにもこの空気を感じたようでおとなしくなっている。

 校長室の扉がノックされ先生が入ってきた。
「校長先生、第三女子から外線電話です。」
 第三女子からと聞いてお母さんから電話が来たとすぐに判った。
 私が驚いたのはそこからだった。
 立っている人が電話に出たのだった。そして電話で話を始めた。
「え?あれ?」私はつい言葉を出した。
「結ちゃんどうしたの?」
「椅子に座っている人が校長先生じゃないの?」
 太一もなにやら驚いている様子だった。
「あの人は教頭先生。今電話で話をしてる人が校長先生だよ」
 そういうフェイントみたいなものってあり?
 なんか私は気が抜けてしまっていた。

「今、電話の相手ってお母さんでいいよね?」
「たぶんお母さんからの電話で間違いは無いと思うよ、何か変?」
 あれ?お母さんって第三女子の二年生の担任教諭で合ってる筈、
 でもなにか校長先生の方が電話口で頭を下げている気がする。
「お母さんって一体何者?」
「第三女子の二年A組の担任でしょ」
「なんで校長先生が頭を下げて話をしているの?」
「あー、それについては私も良く判んない」
 私達が話をしていると校長先生の電話が終わる。

「事情はここに居る三浦結さんの話で間違いは無いようです」
 校長先生にしっかりと話が伝わったことに私は嬉しかった。
「女の子に暴力を振るった安西くんに非があることは判りましたが、
 安西くんに暴力を行った鈴木太一くんも非があります。
 鈴木太一くんの処分は今、三浦祥子先生から提案があり、
 私もその意見に賛成したいと思います」
 三浦祥子、お母さんの名前だ。お母さんからの電話に間違いがなかった。
「鈴木太一くんも三浦結さんの付添人をやりませんか?
 三浦結さんの学校生活を守っていくことは必要な措置であり、
 今回のような問題は絶対に起こしてはいけません。
 もちろん他の生徒も同様に守る必要がありますが、
 特にこの三浦結さんは当校の生徒からとても人気も高く、
 異性からも好かれることがとても多いように思います。
 今回の問題がまた起きるという可能性が十分にあります。
 鈴木太一君に付添人として三浦結さんを守って欲しいと思います」
 私も太一も何が起きたのか追い付いていけない状況になっていた。
 私と太一はお互いに顔を合わせて首をかしげていた。

「私からもその提案をお願いしたいと思っていました。
 校長先生の寛大なる措置(そち)ありがとうございます。」
 お姉さんが横から話し出す。そして私の腕を小突いた。
 少し状況説明が欲しいのだけれど、昨日の家族会議で決まったことだ。
「私も太一くんに守って頂けるのでしたら安心することが出来ます。
 校長先生の寛大なしょひ(噛んだ…)処置(しょち)ありがとうございます」
 私は太一の腕をお姉ちゃんと同じように小突いた。
「校長先生の寛大なる措置ありがとうございます。
 三浦結さんの学校生活を守るようしっかりと勤めさせて頂きます」

「それなら決定ということで。三人は教室に戻って授業を受けること」
 私達は校長室からすぐに退室した。
 校長室から出るとお姉ちゃんは急いで教室に向かっていった。
「おい結、お前のお母さんって一体何者だ?」
 やっぱり気になるよね。太一も私と同じ質問をした。
「第三女子の二年A組の担任の先生だけど」
「校長が電話で頭を下げて話してたぞ?普通の教師なわけ無いだろ」
 そんなことを私に言われても、お母さんとお仕事の話はしない。
 実のところ私にも良く知らないのが事実だったりする。
「あの校長ってここの城北第一高校から第二高校、女子第三高校の校長兼務だよね?」
「この第一高の校長室にずっと居るみたいだけどな。
 その3つの城北高校を作った謎の人物と言われている」
「どう考えてもあの校長の方が偉い人だよね?」
「当たり前だろ。椅子に座っているほうじゃなくて驚いたけど……」
「私も驚いた!何で校長室の立派な椅子に座ってる人が教頭先生なの?」
「そんなこと俺が知るかよ。本当に今日は一体何なんだよ!
 朝早くから校長室に呼ばれて暴力事件の主犯にされているし、
 由衣先輩はすごく怖かったし。朝から変な夢を見せられてる感じだぞ」
 私はなんか笑えてきてしまった。
「太一、本当に私を守ってくれてありがとう。これからもよろしくね」
「こちらこそありがとうな。とても助かったよ。」
 私達は急いで教室に向かっていった。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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