第二章;第十二話

文字数 3,424文字

 新学期が始まり開館した図書館に行く。
 美耶がいつもどおり本を読んでいた。

「三浦結との話は終わったの?」
 僕に何か発信機でも付けたのか。
 行動が筒抜けだった。
「僕が結と一緒に居たってよく判ったな」
「冗談だったのに、本当に一緒に居たんだ」
 今日の美耶はなぜか不機嫌だった。
 そしてとても意地悪だった。

「どうしたんだよ美耶、
 好きな女の子にちょっかい出す男の子のようだぞ」
 美耶は僕に怒鳴りつけるように言った。
「何にも無いわよ!馬鹿!」
 そして走って図書館から出て行った。

 図書館に居た生徒たちが僕を見る。
 僕は黙って目を瞑った。
(なんなんだよ一体、俺が何をしたって言うんだよ)
 目を開けて大きくため息をついた。
 そして僕は図書館から出て行くのだった。

 校門には未来の姿は無かった。
 こういうとき未来は居ないのな。
「太一くん、久しぶり」
 歩いていこうとすると恭也の姿があった。

「結ならもう帰ったと思うぞ」
「知ってるよ。さっき逢った。太一くんに用事があるんだよ」
 僕は歩き出した。
 そして後を付いてくるように恭也が歩き出した。
「結さんと話をしたんだね。結さんから聞いた」
 別に大した話もしていない。
 愚痴と言うほどの愚痴は言っていなかったし、
 判ったのは結がなにか悩みを抱えていることだけだ。

「結さんが悩んでいることは知ってる。
 僕が聞いても教えてくれないんだ。
 だから結さんが話してくれるまでそっとしておこうと思った」
 恭也に言わないことを、
 僕に話をしてくれるわけがない。
 それほど信用されているとも思っては居ない。

「太一くんと話をしようと思ったのは未来さんの事なんだ」
「未来のこと?」
 僕は立ち止まって恭也を見た。
 いつも来ているはずの未来が、
 今日に限って来ていないのはどういうことなんだ。
 未来の身になにかあったのか。
「やっぱり、太一くんは未来さんのことが心配なんだね」
「未来は小さいときから一緒に居るからな」
 未来の事が心配になっていた。
 そして早歩きで歩き出していた。
 すぐにでも未来の無事を確認したいと思ったからだ。
「大丈夫。未来さんは結さんと帰ったよ」
 恭也の一言で何が起きたのかを知った。

「未来に何を話した」
「誤解だよ。何も話していない。
 未来さんに怪我もさせないし、
 しっかりと無事に家まで届けるよ」
「当たり前だ。未来に何かあったら絶対に許さない」
 今は少しでも早く未来に会いたい。
 未来の無事を確認したい。
「お前と話をしてる暇はねえんだよ!どけや!」
 僕は走っていた。
 僕の頭のなかに笑顔の未来が居る。
 そして泣いている未来が居る。
 早く未来に会いたい。ただそれだけだ。
 僕の望むのは今、未来に会いたい。

 未来の家に行くが、まだ帰って居ないと言う。
 結のやつ未来をどこに連れて行ったんだ。

 近所を探してみるが見つからない。
 近くの公園、神社、そして高校。
 どこに行っても見つからなかった。

 未来はいつも如何(どう)していた?
 未来が行きたい場所はどこだ?
 考えても見つからない。
 未来はいつも僕の横に居た。
 いつも僕の横で笑っていてくれていた。
 いつも僕のところで・・・。

「いつも、僕の傍に居た・・・僕の傍で笑って」

 僕がいつもこの時間に居る場所。
「僕の家・・・。」

 僕は家に着いて玄関を開けた。
「おかえり。太一!今日は遅かったね」
 未来が笑顔で出迎えてくれた。
「太一くん、遅いよ。恭也からの連絡で、
 走って家に帰って行ったって言うのに何してるの?」
 結が居間から出てきた。

「おまえらずっと家にいたのか?」
「太一、何を言ってるの?」
 未来が僕の顔を見て心配そうにしている。

「未来ちゃんが太一くんにとってどういう人か判った?」
 結が僕にそう告げる。
「そういうことか、結。判ったよ。今、はっきりとな」
 本当にこの結は気に入らない。
 こんな簡単にだまされる俺も俺だが、
 結は僕の弱点を見抜いていたのだ。
 未来の身に何かあったように思わせ、
 未来が僕にとってどういう存在なのかを判らせたのだ。

 しばらくすると恭也が僕の家に来た。
「ひどいな、太一くん。
 未来さんに何もしないって言ったのに、
 ちゃんと無事に家まで届けると言ったのにな」
「うるせー。ここは俺の家で未来の家じゃねえ。
 よってお前はちゃんと家まで届けていない。」

「太一、一体なにがあったの?」
 未来は頭の上に大量の『?』が描かれている。
「なんでもないよ、未来。こっちの話」
「太一っていつも私だけそうやってのけ者にする~」
 未来が悲しい顔をする。
「わかった、後でしっかりと教えるから。
 今はこの結と恭也に言いたいことがあるんでな」
 僕は結と恭也をにらみつけた。
「なにも危害を加えるとは一言も言ってないでしょ?
 だまされるほうが悪いのよ」
 俺の弱点である未来を使うとは本当に卑怯だ。
 これについては断固抗議していきたい。

「太一くん、それで君にとって未来さんはどういう人かな」
 結の一言で全員が僕を見る。

「僕の一番大切な人だよ」

 未来が顔を赤らめる。そして泣き出した。
「あ~あ。未来ちゃんを泣かしちゃった!」
 恭也が僕をからかい始めた。
「うっせーよ!恭也も結の事をどう思ってるんだよ!」
「とても大切な人だ。そして僕の大好きな人だ」
 次に結が顔を赤らめていった。
「恭也、それは私もよく知ってる。でも今はごめん」

「結。お前も自分の気持ちは決まってるんだろ?
 何で素直に出来ないんだよ。
 頭が良いくせにさ。恭也の気持ちを知ってるのにさ。
 なんで自分の気持ちを素直に出来ないんだよ」

「これは私の問題だから。私自身の問題なの。」

「俺ははっきりしたよ。ムカつくけどお前らのおかげでさ。
 俺は未来の事が好きだ。大好きだよ。
 小さいときから一緒に居て、いつも傍に居てくれて。
 いつも心配してくれて、
 僕は未来の事を見守っていたつもりが、
 じつはいつも未来に見守られていたんだ。

 恭也の言葉も判ったよ。
 何で未来が看護士や医者を目指そうと思ったのか。
 俺のためだったんだろ?
 俺の健康を気にしてくれていたんだろ。
 不器用なくせにそういうところはしっかりと考えるからさ。

 でもさ。でも結さ。
 お前は何なんだよ。一体何のつもりだよ。
 人の事はよく知っていてさ。
 それで恭也のことは考えないのかよ。
 お前だって恭也の事が好きじゃん。
 好きなくせにさ」

 僕は未来に腕をつかまれた。
 未来を見ると、もうそれ以上言わないでと訴えていた。
「わかったよ、未来。もう言わない。
 言い過ぎた、本当にごめん。結、恭也」

「こちらこそごめんな。太一くん」
 恭也が度が過ぎていたことを謝った。
 そして結は下を向いて黙っていた。

「ごめんね太一くん。そしてありがとう。
 好きだと判っていても、
 どうすることも出来ないことがあるんだ。

 誰にも理解できないことが実際に起きると、
 それからどうしたらいいのか判らないんだ。
 恭也の事は太一くんの言う通り好きだよ。
 僕の事をいつも気にかけてくれて、
 誰よりも優しく接してくれる。
 お母さんやお姉さんの事が一番に大好きで、
 その次に恭也の事が大好きだよ。

 だからどうすることも出来ないんだよ。
 太一くんや未来ちゃんのように、
 普通な関係になれないんだよ。

 恭也からはとっくに告白されているんだよ、僕は。
 恭也はいつまででも待つって言ってくれている。
 でもいつまででも待たせるわけもいかない。
 いつか、はっきりとさせないといけない。
 でも僕にはどうすればいいのか判らないんだよ」

「ごめん、結。言い過ぎた。本当に謝る」
 辛くても、苦しくても泣くことをしない結が居る。
 そしていつも結の傍には恭也が居る。
 僕の傍にはいつも未来が居てくれるように
 ずっと付き添って一緒に歩いている。
 でも僕と未来の関係と、結と恭也の関係は違っていた。
 同じ男女の間柄なのに、結と恭也は違って見えた。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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