第三章;第十二話

文字数 2,239文字

 合宿も終わり県庁に行く。
 私は県知事さんから、ありがたいお話を聞くのかと思うとうんざりする。
 実際は知事さんからなんか表彰される。
 そしてその光景を新聞に載せるから写真を撮りにくる。
 私の体調がいいときにすればいいのに、僕の体調はよくなかった。
 何とか無事に合宿が終わり、帰ることとなった。

 みんなが合宿に来たときのバスが来る。
 観光バスのように大きなバスだ。
 男子女子合わせても20人しか居ないのに顧問の先生を入れても22人だよ。

 40人以上乗れる大型バスがお迎えに来るって学校もお金出したな・・・。
 それならさ、全国大会に出場してる僕にもさ、
 もうちょっと良い待遇をしてもいいと思わない?

 新幹線自由席に乗って、名古屋で降りたさ。
 そこから快速に乗り換えて電車に揺られていたさ。
 お尻は痛いし、行くだけで疲れたさね。

 全国大会で優勝したら、その日その晩はなんとかゆっくりできたさ。
 でも合宿の場所まで新幹線なんて無い。
 電車に揺られて時間掛かったのさ。
 腰は痛いし、お尻は痛いし、横にもなれず辛かった・・・

「三浦結は前の方に座って。恭也くんも一緒に横に座っていてね。」
 顧問から言われて前に座る。

「恭也、酔い止め持ってる?」
 僕は酔い止め薬をもらって飲んだ。
 ちょっと椅子を倒して寝ることにした。
 クマさんぬいぐるみは僕のひざの上に居る。
 足を動かすと『シャカシャカ』って音がする。
 足になにか入っているんだね。

 バスが動き出すと僕は寝てしまう。
 でもちょっと意識がある。
 恭也は僕になにか掛けてくれた。
 タオルかな・・・。

「結さん、県庁に着いたよ。」
 僕は恭也に起こされるがひどく調子が悪い。
 顧問の先生にすごく顔色が悪いことを伝えられる。
「もうしばらく頑張ってね」
 そして顔色の悪さをごまかすように薄く化粧をされるのだ。
 その匂いで気持ちが悪い・・・。

 県庁について県知事さんに、なぜか全国大会優勝報告なるものをする
 そして県知事さんに表彰される。
 大きな額に入った賞状。
 そしてそれを左右で県知事と僕が持ち、カメラの方に見せて僕と県知事がにこやかに笑う。
 シャッター音が聞こえてくる。

 そして他にもシャッター音。
 顧問の先生だ。
 学校提出でも言われているのか?

 もう作り笑いはイヤだ。
 横になりたい。汗が出てくる。
 熱い?寒い?
 なんか変な感じがする。
 寒気がするのかな。
 でも汗が出てくる。

 アーチェリー部全員での写真を撮りたいとみんなが集まる。
 僕と県知事を中心にして大きな額に入った賞状を持って、みんなが横に後ろにと並ぶ。
 そして僕の横に恭也が居る。そして顧問の先生が居る。
 全員で写真を撮ってから顧問の先生も一枚欲しいと言う。

 もう限界・・・。
 顧問が写真を撮り無事に終了。
 ありがとうございましたと挨拶をして僕はすぐにバスに乗る。
 横になりたい。
 恭也が僕の額に手を当てる。
 僕が覚えているのはそこまでだ。
 そこからどうなったのかは全く知らない。

          ☆彡

 起きると自分の部屋で寝ているのだった。
 頭を動かすとゴロゴロという音。
 僕が大好きな氷枕から聞こえてくる氷の音だ。
 額には冷えぴたが貼ってある。

「結ちゃん起きた?ちょっと待っててね」
 お姉さんは僕が起きたことを確認すると一階に降りていった。

 お母さんと恭也が部屋に入ってきた。
「結ちゃん、よかった。」
 まだ調子が悪かった。
 でもどうなったのかを聞いた。

 恭也は僕がすごい熱が出ていることを知った。
 そして顧問に解熱剤をもらおうとしたが僕はもうすでにダウンしていた。
 そして僕の家に電話をして僕の状態を言う。

 お母さんは僕が小さいときから出る熱だと言う。
 そして本当なら第一高校で解散なのだが、僕の家までバスが来て、
 そして僕は恭也に抱かれて部屋まで運ばれた。

 僕や恭也の荷物は部員たちが運んでくれた。
 簡単に言ってしまうとそういう経緯だ。

「あれ?僕のクマさん居ない」
 恭也が持って来てくれた。
「恭也、ありがとう」

「早く元気になれよ」

 僕は恭也から同じことを言われた気がする。
 たしか僕が入院していて、恭也がお見舞いに来てくれたときだ。
「うん、ごめんね。ちょっと辛いから寝る。クマさんありがとう。」

 部屋にはお姉さんが残った。
「可愛いクマさんだね。恭也くんからもらったの?」
「うん、全国大会優勝おめでとうって言ってくれた」
 僕はあのときの状況を思い出していた。
「恭也くんが謝っていたよ。
 こんなになるまで気が付かなくて本当にごめんなさいって」

「恭也のせいじゃないのにね。
 小さいときから僕はこうやって熱を出してたように思う。
 寝ると聞こえてくるんだ。なにかすごく騒がしくなっててさ。
 でも目を開けれないんだ。
 朝、起きるとお母さんが横に居るの。」
「うん、私も覚えてるよ。もう、おやすみ。ゆっくりと寝るんだよ」
「お姉ちゃん、ありがとう」

 僕は大好きな氷枕のごろごろという音と、
 クマさんを抱きしめながら寝てしまうのでした。

 すごく疲れたな。この身体になっても熱は出るんだ。
 そんなこと当たり前か。僕の身体なんだから・・・。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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