第三章;第一話
文字数 3,374文字
「結ちゃん!結ちゃん!恭也君が来たわよ!」
「はーい!今行く!」
僕の退院日が決まった時の事だった。
お姉さんから学校処分が決まったことを告げられた。
僕は停学は仕方がないものと思っていたのだが、
お姉さんと学校の話し合いの結果、なんとか停学処分は免れた。
しかし、卒業するまで1人で登下校禁止、
『必ず付添人と登下校すること』と決まった。
付添人は誰でも良いというわけではない。
『付添人は学校で許可された人のみとする』
という追加規定が盛り込まれていた。
そしてさらに追加規定として、
『その他外出についても同様とする』と書かれていた。
簡単に言ってしまうと、一人で外出するな。
登下校はもちろんの事、プライベートであっても、
外出するときには1人で出かけるな。
学校が認めた人と常に一緒に居るのだ。
それをしっかりと守るのであれば、今回の問題は不問とする。と言うものだった。
停学より厳しい処分のような気がするが、
女の子が喧嘩したのは、とても許せない行為だ。
このような女の子にはさらに問題を起こさないよう
しっかりと鎖をつけなくてはいけない。
と言うことなのであろう。
そして僕はその処分を受けなくてはいけないのだ。
まず両親は確実に付添人に認められるのだが、僕の家は母親のみであった。
そして高校教師という職業のため、高校の登下校の時間に間に合うことはない。
そこで付添人にはお姉さんが行うこととなったが、毎日、ずっと付添うわけには行かない。
しかもお姉さんは来年には大学受験があり、再来年には卒業していて居ないのだ。
私が卒業するまでという条件に満たされない。
そこで同年代の他の付添人が必要となり、家族と本人との話し合いの結果、
恭也が僕の付添人となり、一緒に登下校することになった。
恭也が付添人になることを学校側は難色を示した。
女子高校生と男子高校生が毎日登下校していいのか。
第二高校の生徒が第一校の生徒に付添っていいものか。
その男子高校生の素性はどのような生徒なんだ。
男女交際規約に反していないか。など多くの反対意見が出された。
しかし私の処分を決めたのは学校側だ。
そして僕の家庭事情では学校の処分には対処できない。
絶対に第三者が付添人となるしかないのだ。
そしてお母さん、お姉さん、恭也と三人で第一校を訪れ、
校長先生や生活・生徒指導の先生に納得してもらい、
恭也が僕の付添人として認められるのである。
第一高校と第二高校は徒歩で30分くらい離れている。
恭也も通学する第二高校に遅刻するわけには行かないので、
今までより早めに登校することになるのだった。
登校の時にはお姉さんも一緒に登校してくれることとなった。
僕にはお姉さんが居てくれることがとても心強い。
そして今日が僕の退院後の初登校でもあり、
久しぶりの学校でもあるので、僕も緊張している。
このドキドキするのは恭也と登校するからではない。
僕のひさしぶりの登校で緊張しているからだ。
・・・・・・たぶん、そうに違いない・・・・・・
僕には家族しか知らない秘密がある。
僕は男の子だった。
ある朝、目が覚めると女の子になっていたのだ。
絶対に起こるはずのないことが僕の身体で起きたのだ。
アニメや漫画や小説ではよくある話だが、
実際に現実として僕は女の子になってしまったのだ。
僕の男の子のときの名前は「三浦大輔」
県立城北第二高校の一年生だった。
今の僕の名前は「三浦結」
私立城北第一高校の一年生だ。
僕は女子高生として過ごしている。
「もう、恭也くんが待ってるよ。何やってるの?」
「だって今、服装チェックしてるの。髪もなんか変だし・・・」
鏡を何回も見て、チェックして、髪をいじり始める。
「ぜんぜんおかしくないよ。いつもと同じ可愛いから。早くしなさい」
もう、お母さんって本当に他人事だと思って・・・。
「結ちゃん、まだ?」
玄関でお姉さんが僕が来るのを待っていた。
「お姉ちゃん、服装チェックして。髪も直して。」
お姉さんの服装チェックと髪チェックを始める。
「うん、結ちゃん大丈夫だよ。早く行こう」
「本当?髪とか顔とか変じゃない?大丈夫?」
「大丈夫だよ。結ちゃん」
お姉さんが言うと安心して学校に向かう。
「お母さん、行ってきます」
お母さんは僕にハグしてくれた。
「今日も頑張ってきてね」
とても優しくて包み込まれる感覚を覚えて、僕は今日一日頑張ろうと決意する。
「恭也くん、おはようございます」
玄関を開けて外で待っている恭也に挨拶をする。
「結さん、由依さん、おはようございます」
『佐伯恭也』
県立城北第二高校一年生
僕が小学4年生のときに同じクラスになり友達になった。
僕が大輔としての最後に出会い、結として最初に出会った。
そして喧嘩の事件のとき、大怪我を負っている僕を助けてくれた恩人だ。
もちろん僕が大輔だったことは恭也は知らない。
誰にも知られるわけには行かないのだ。
僕の事は大輔の従妹だと思っている。
こうして今日、ここから僕たちの物語が始まる。
☆彡
学校に着いてから、始めにやることがある。
『職員室に行き、迷惑をかけたことの謝罪と、今回の寛大な処置のお礼』だ。
お姉さんも付き添ってくれて頭を下げた。
今までの人生の中で(と言ってもたった16年だが。)、
これほど頭を下げたことはないだろう。
朝の職員会議の前に校長先生に頭を下げ謝罪する。
教頭先生に謝罪する。生活・生徒指導の先生に謝罪する。
職員室には多くの先生が居る。
「もう大丈夫なの?」「いつ退院したの?」
「危ないことはもうしないでね」「顔とか傷は残ってない?」
「退院おめでとう」「馬鹿なことはもうするな」「軽率なことはしないように」
僕の顔を見るたびに声をかけてきて来る。
この先生方のありがたいお言葉も、
僕にとって最高の『苦行』の一つだ。
先生方の挨拶も済ませ、これで一安心できるかというと大きな間違いだ。
教室に行くとクラスメートからの更なる有難い『苦行』がある。
教室に行き僕の顔を見るなり人が集まってくるのだ。
「もう大丈夫なの?」「怪我はもう治ったの?」
「本当に良かった」「退院おめでとう」などの、
クラスメートから多くの暖かい言葉『洗礼』を受ける。
その洗礼を受けたら終わりと言うわけではない。
お昼休みになると食堂で違うクラスの友達から
また有難いお言葉という手厚い『洗礼』があるのだ。
そして放課後になれば部活動の先輩方から、
とても暖かいお言葉を頂く『洗礼』があるのだ。
たった一つの誤りに、どれだけ多くの人に謝るのか。
僕が関わっているすべての人が僕の顔を見て、僕に近づいてきて、そして声をかけてくる。
心配してくれているからこそのものなのだが、
知人友人に悪気はなく親切で言ってくれるのだが、
今の僕にとって本当にただの『苦行』でしかないのだ。
まだ職員室でのことなら良かった。
お姉さんが横に居てくれているからだ。
一年生の建屋『一号館』に来てからは僕1人なのだ。
1人対大勢の図式が成り立つのだ。
一時も気が休まるときが無く話しかけられる。
退院したばかりの身体には十分に堪えるのだ。
しかし僕は疲れ切った顔を見せるわけには行かない。
なぜならば下校時刻で帰ろうとすると、第一高の校門には恭也が待って居る。
弱いところを見せたくない。辛いと思われたくない。
恭也に心配をかけさせたくない。
だから笑顔を見せないといけない。
「結さんは自分の弱い所を人に見せないんだね」
だから恭也の言葉で私は気が付いた。
恭也はもう気が付いているんだ。
僕が疲れ切ってしまっていることを知っているんだ。
「うん、僕が弱いところは見せたくない」
「そっか」
そして僕と恭也は何も話さずに家まで帰るのだった。
「はーい!今行く!」
僕の退院日が決まった時の事だった。
お姉さんから学校処分が決まったことを告げられた。
僕は停学は仕方がないものと思っていたのだが、
お姉さんと学校の話し合いの結果、なんとか停学処分は免れた。
しかし、卒業するまで1人で登下校禁止、
『必ず付添人と登下校すること』と決まった。
付添人は誰でも良いというわけではない。
『付添人は学校で許可された人のみとする』
という追加規定が盛り込まれていた。
そしてさらに追加規定として、
『その他外出についても同様とする』と書かれていた。
簡単に言ってしまうと、一人で外出するな。
登下校はもちろんの事、プライベートであっても、
外出するときには1人で出かけるな。
学校が認めた人と常に一緒に居るのだ。
それをしっかりと守るのであれば、今回の問題は不問とする。と言うものだった。
停学より厳しい処分のような気がするが、
女の子が喧嘩したのは、とても許せない行為だ。
このような女の子にはさらに問題を起こさないよう
しっかりと鎖をつけなくてはいけない。
と言うことなのであろう。
そして僕はその処分を受けなくてはいけないのだ。
まず両親は確実に付添人に認められるのだが、僕の家は母親のみであった。
そして高校教師という職業のため、高校の登下校の時間に間に合うことはない。
そこで付添人にはお姉さんが行うこととなったが、毎日、ずっと付添うわけには行かない。
しかもお姉さんは来年には大学受験があり、再来年には卒業していて居ないのだ。
私が卒業するまでという条件に満たされない。
そこで同年代の他の付添人が必要となり、家族と本人との話し合いの結果、
恭也が僕の付添人となり、一緒に登下校することになった。
恭也が付添人になることを学校側は難色を示した。
女子高校生と男子高校生が毎日登下校していいのか。
第二高校の生徒が第一校の生徒に付添っていいものか。
その男子高校生の素性はどのような生徒なんだ。
男女交際規約に反していないか。など多くの反対意見が出された。
しかし私の処分を決めたのは学校側だ。
そして僕の家庭事情では学校の処分には対処できない。
絶対に第三者が付添人となるしかないのだ。
そしてお母さん、お姉さん、恭也と三人で第一校を訪れ、
校長先生や生活・生徒指導の先生に納得してもらい、
恭也が僕の付添人として認められるのである。
第一高校と第二高校は徒歩で30分くらい離れている。
恭也も通学する第二高校に遅刻するわけには行かないので、
今までより早めに登校することになるのだった。
登校の時にはお姉さんも一緒に登校してくれることとなった。
僕にはお姉さんが居てくれることがとても心強い。
そして今日が僕の退院後の初登校でもあり、
久しぶりの学校でもあるので、僕も緊張している。
このドキドキするのは恭也と登校するからではない。
僕のひさしぶりの登校で緊張しているからだ。
・・・・・・たぶん、そうに違いない・・・・・・
僕には家族しか知らない秘密がある。
僕は男の子だった。
ある朝、目が覚めると女の子になっていたのだ。
絶対に起こるはずのないことが僕の身体で起きたのだ。
アニメや漫画や小説ではよくある話だが、
実際に現実として僕は女の子になってしまったのだ。
僕の男の子のときの名前は「三浦大輔」
県立城北第二高校の一年生だった。
今の僕の名前は「三浦結」
私立城北第一高校の一年生だ。
僕は女子高生として過ごしている。
「もう、恭也くんが待ってるよ。何やってるの?」
「だって今、服装チェックしてるの。髪もなんか変だし・・・」
鏡を何回も見て、チェックして、髪をいじり始める。
「ぜんぜんおかしくないよ。いつもと同じ可愛いから。早くしなさい」
もう、お母さんって本当に他人事だと思って・・・。
「結ちゃん、まだ?」
玄関でお姉さんが僕が来るのを待っていた。
「お姉ちゃん、服装チェックして。髪も直して。」
お姉さんの服装チェックと髪チェックを始める。
「うん、結ちゃん大丈夫だよ。早く行こう」
「本当?髪とか顔とか変じゃない?大丈夫?」
「大丈夫だよ。結ちゃん」
お姉さんが言うと安心して学校に向かう。
「お母さん、行ってきます」
お母さんは僕にハグしてくれた。
「今日も頑張ってきてね」
とても優しくて包み込まれる感覚を覚えて、僕は今日一日頑張ろうと決意する。
「恭也くん、おはようございます」
玄関を開けて外で待っている恭也に挨拶をする。
「結さん、由依さん、おはようございます」
『佐伯恭也』
県立城北第二高校一年生
僕が小学4年生のときに同じクラスになり友達になった。
僕が大輔としての最後に出会い、結として最初に出会った。
そして喧嘩の事件のとき、大怪我を負っている僕を助けてくれた恩人だ。
もちろん僕が大輔だったことは恭也は知らない。
誰にも知られるわけには行かないのだ。
僕の事は大輔の従妹だと思っている。
こうして今日、ここから僕たちの物語が始まる。
☆彡
学校に着いてから、始めにやることがある。
『職員室に行き、迷惑をかけたことの謝罪と、今回の寛大な処置のお礼』だ。
お姉さんも付き添ってくれて頭を下げた。
今までの人生の中で(と言ってもたった16年だが。)、
これほど頭を下げたことはないだろう。
朝の職員会議の前に校長先生に頭を下げ謝罪する。
教頭先生に謝罪する。生活・生徒指導の先生に謝罪する。
職員室には多くの先生が居る。
「もう大丈夫なの?」「いつ退院したの?」
「危ないことはもうしないでね」「顔とか傷は残ってない?」
「退院おめでとう」「馬鹿なことはもうするな」「軽率なことはしないように」
僕の顔を見るたびに声をかけてきて来る。
この先生方のありがたいお言葉も、
僕にとって最高の『苦行』の一つだ。
先生方の挨拶も済ませ、これで一安心できるかというと大きな間違いだ。
教室に行くとクラスメートからの更なる有難い『苦行』がある。
教室に行き僕の顔を見るなり人が集まってくるのだ。
「もう大丈夫なの?」「怪我はもう治ったの?」
「本当に良かった」「退院おめでとう」などの、
クラスメートから多くの暖かい言葉『洗礼』を受ける。
その洗礼を受けたら終わりと言うわけではない。
お昼休みになると食堂で違うクラスの友達から
また有難いお言葉という手厚い『洗礼』があるのだ。
そして放課後になれば部活動の先輩方から、
とても暖かいお言葉を頂く『洗礼』があるのだ。
たった一つの誤りに、どれだけ多くの人に謝るのか。
僕が関わっているすべての人が僕の顔を見て、僕に近づいてきて、そして声をかけてくる。
心配してくれているからこそのものなのだが、
知人友人に悪気はなく親切で言ってくれるのだが、
今の僕にとって本当にただの『苦行』でしかないのだ。
まだ職員室でのことなら良かった。
お姉さんが横に居てくれているからだ。
一年生の建屋『一号館』に来てからは僕1人なのだ。
1人対大勢の図式が成り立つのだ。
一時も気が休まるときが無く話しかけられる。
退院したばかりの身体には十分に堪えるのだ。
しかし僕は疲れ切った顔を見せるわけには行かない。
なぜならば下校時刻で帰ろうとすると、第一高の校門には恭也が待って居る。
弱いところを見せたくない。辛いと思われたくない。
恭也に心配をかけさせたくない。
だから笑顔を見せないといけない。
「結さんは自分の弱い所を人に見せないんだね」
だから恭也の言葉で私は気が付いた。
恭也はもう気が付いているんだ。
僕が疲れ切ってしまっていることを知っているんだ。
「うん、僕が弱いところは見せたくない」
「そっか」
そして僕と恭也は何も話さずに家まで帰るのだった。