第四章;第十話

文字数 2,773文字

「みんな今日は夕ご飯は一緒に食べる?」
 未来さんに相談事を終えて一階に降りてきた結さんが言った。
「俺と未来は帰るよ。家に連絡してなかったから、
 親が食事を作って待っているからさ。今度、ご馳走になるよ」
 太一くんが言った。未来さんも太一くんと一緒に帰るという。
「そっか残念。未来ちゃん、相談してもらって本当にありがとうね」
 いつでも結さんの力になるからね。
 そう言って太一くんと未来さんは帰っていた。

「智くん、頭はまだ痛い?本当にごめんね。
 でも真剣なお話をしてるんだから静かに待ってないとダメでしょ」
 結さんは智の頭を撫でていた。
「うん、本当にごめんね。結。」
 やけに智が素直になったものだと思った。
 よほど結さん怒りモードが怖かったんだろうか。

「恭也は太一と何の話をしてたの?」
「いろいろだよ。主に結さんのことだけど。」
 隠す必要はなにも無い。
「恭也、明日は二人っきりで話は出来る?」
 僕も結さんと真剣に話をしたいと思っていた。
「もちろん出来るよ。結さんと真剣に話をしたいと思ってた。
 智は明日はそのまま家に帰ること。」
 智はなにかを言いたがったが黙っていた。

「智くん、本当にごめんね。
 僕は恭也と真剣に話さないといけないんだ。
 逃げることはしたくないからちゃんと話したいの。
 二人っきりでちゃんと話をしないといけないことなの。
 だから智くんは言うことを聞いてくれる?」
 なんか結さんは智の扱いがすごくうまくなっている気がする。
 明日か。結さんから何を言われるんだろうな。

 それにしても高校生の恋愛という気がしない。
 すごく重たい気がする。
 太一くんと未来さんを見てると僕たちとは違って見える。
 太一くんが言っていたっけ、
『下手したら一回も恋愛経験も無いように感じる。
 恭也が初めて好きになった男なんじゃないのか?』
 まさかね、僕の勝手な考えだけど、恋愛はしてるだろう。
 好きになった男の子は居ただろう。
 でもどうしたら良いのかわからなくて終わったんだろう。

「結さん、どうしても一つだけ聞きたいことがあるんだ。
 由衣お姉さんから聞いている話だけど、
 これを言ったら確実に僕の事を嫌うだろうと言われている。
 でもどうしても聞きたいことなんだ。知りたいことなんだ。
 明日、それを結さんに聞いてもいい?」
 これで本当に結さんに嫌われるかもしれない。
 もう二度と会えなくなるかもしれない。
 辛いことだけどしっかりと聞いておきたいと思う。

「お姉ちゃんから言われた?今、聞いても良いよ。
 たぶんだけどお姉ちゃんから何を聞いてるのか判るから。
 それを言っても僕は恭也の事を嫌いにならないよ。
 それは約束をする。だから大丈夫だよ。
 でもちょっと話すことがあるからちょっとだけ待ってね。」

結は智を見つめた。
なぜか智は肩の力が抜けたような気がして肩を落とした。
結は智の肩に手を置いて話した。

「智くん、僕の事を好きになってくれてありがとうね。
 でも本当にごめんね。僕は恭也の事が大好きだから、
 智くんの気持ちに答えることはできない。
 恭也の事を愛してるから他の人とは付き合うことは出来ない。
 智くん、本当にごめんなさい」

 智はたった一言「うん、判った」と言った。
 結さんは智の頭を撫でた。
 そして智を自分のほうに引き寄せて抱きしめた。
「本当にありがとう。智くん」

「結、お兄ちゃんの事よろしくな。
 優しすぎて頼りないけどさ、僕の大切なお兄ちゃんだからさ」
「それは明日に恭也と話しをするからそれまで約束は出来ない。
 でも僕にとっても恭也は大切な人だから」
「うん、わかった」
 智は結から離れた、そして僕の横に座った。
「俺は居ないほうがいいか?」
 智も結さんと出会ってから変ったな。
 すごく他人に気を遣うようになってきたと思う。
「私は大丈夫だよ、どうする?恭也」
「僕も大丈夫だよ。でも静かに座っていていいか?
 今から真剣な話をするから。明日もだけど」
 智を座らせておとなしくさせたのは良いけど、どう話を切り出そう。
 由衣お姉さんの言ったとおり嫌われるんじゃないかと思っていた。

「まずお姉さんもお母さんから僕に話しても良いということで、
 それで僕にお姉さんが口を開いたことだから、
 お母さんもお姉さんも悪くは無いからそれだけは言っておくね。
 そしてこの言葉を言うと確実に僕は嫌われるだろうと言われている。

 僕は結さんのことが大好きだ。本気で愛してる。
 結さんも僕の事を同じように想ってくれている。
 お互いにそういう気持ちなら確実に起きるであろうことを、お姉さんたちが予想してた。
 結さんの感情が決壊してしまって理性を失うことがあったら、
 その言葉を言うと確実に結さんは正気に戻ると言われた。
 その言葉は・・・・・・『大輔』
 結さんと大輔の間に何が起きたのかを知りたい」
 僕は結さんにその言葉を伝えたとき、結さんの顔が確かに変ったような気がした。
 寂しそうな?違うな、なんと言ったら良いのかわからない。
 でも確かに表情の変化が見られた。
 結さんと大輔の間に実際になにかがあったんだと思った。

「恭也、大輔が居なくなった日を覚えてる?5月31日だよ。
 私がここに来た日は6月1日の事だよ。
 大輔と僕はその日を境に変ったんだ。
 それでね。私は・・・・・・」
 結さんの言葉が詰まっていた。
 大輔が居なくなった日よく覚えているよ。
 僕と神社で漫画を読んでいた日だ。
 最後に大輔と別れた日だ。忘れるわけは無い。

 次の言葉を結さんが出そうとすると入り口のほうから声が聞こえた。
「はい。それ以上は私が言うから結ちゃんは黙っていてね」
 声の方を見ると由衣お姉さんが立っていた。
「お姉ちゃん。いつの間に帰っていたの?」
 結さんも驚いているとお母さんも出てきた。
「結ちゃん、私たちも話をさせて欲しいから入るよ。
 智くん今晩は。なんかいろいろと起きた感じね」
 お母さんが買い物袋を抱えて入ってきた。

「結ちゃん、あなたはみんなの食事を作っていなさい。」
 お母さんは結さんに買い物袋を渡した。
「私は恭也と真剣に話をしたい。お母さん、お願い」
 結さんはお母さんに言った。

「由衣ちゃん、食事の用意してくれる。ここは私と結ちゃんで話すから」
 由衣お姉さんは買い物袋を受け取った。
「智くん、一緒に手伝ってくれる?」
 由衣お姉さんが智に言い、智は台所に向かって行った。
 行くときに智が僕の顔を見た。
「頑張れ、お兄ちゃん」
 小さい声で僕に言った。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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