第三章;第四話

文字数 3,864文字

「当番といってもそんなにやることは無いよ。
 授業が終わったら黒板を消して綺麗にする。
 黒板消しも綺麗にすること」

 鈴木太一くんに当番のやり方を教わっていた。
 教師みたいな話し方をする人だなって思った。
 一つ一つの指示が的確で非常にスマートだ。
 僕は教えてもらったことを一つ一つこなしていった。

 太一くんが小さくなったチョークを廃棄した。
 そして新しいチョークを取りに行った。
 僕も太一くんのやっていることを覚えていこうと思った。

 お昼休みになり、僕は真奈ちゃんと一緒に食堂に向かった。
「今日の日直はどうだった?」
 心配してくれた真奈ちゃんが話しかけてくれた。

「最初は人を見下してる話し方で僕ははっきり言って気に入らなかったけど、
 日直を一緒にやってみて、人の事をよく見てる人だと思った。
 次はこれをやってみよう。出来たらこれをやってみようって、
 その人に合った教え方が出来る人なのかなって思った」

 太一くんって意外と良い奴?
 外見とか態度とかはっきりいうと気に入らないけど、
 話してみると実際は見た目とは違っていた。

「午後になったらゴミ捨てがあるから、もっと話してみたらどうかな?もっと判るかもよ?」
 話をしたところで、だから何?って言うものなんだけど、
 確かに悪い人じゃないなとは思う。

 午後の授業が終わり、そして放課後になるのだった。

 太一くんがゴミ袋を取り出していた。
 そしてゴミ袋を置き、ゴミ箱を持ってくる。
 この人ゴミ袋を広げなくて、ゴミ箱を持ってきてどうするんだろう。
 私はゴミ袋を広げた。
 太一くんはゴミ箱のゴミを袋に入れた。

 この教室にはいくつのゴミ箱があるのだろう。
 次々とゴミ箱が出てくる。教室中に置かれている。
 結局、大袋三枚を使ってやっとゴミが片付いた。
 僕はゴミを持とうとすると、
「一つ持って、俺が二つ持つから。全部を持とうとするな」
(何だこいつ・・・。)とムカついたが、
 僕はたくさん入っているゴミ袋を一つ持った。

「やっぱりお前って変わってるな」
 何が変わってるというのだろう?
 3つあって内2つを太一くんが持ってくれる、
 僕は1つだけを持っていくのだ。
 一番重たいものを持とうとするんじゃないの?
 僕の行動ってそんなにおかしいのかな?

 ゴミをゴミ捨て場に持っていくと、
「二校の男子生徒を(かば)ったんだって?」
 太一くんが口を開いた。
「苛められていて嫌だったんだよ」
 僕は太一くんに話した。

「みんなには心配かけてしまって本当に悪いって思ってる。
 でも苛められていて本当に嫌だったんだよ。
 もちろんそれで大怪我をして入院してたら駄目だと思う。
 でも僕には苛めと言う行為がとても許せなかったんだよ」

 あの時、僕は苛められている人を放っては置けなかった。
 僕の軽率な行動で多くの人に心配をかけてしまった。
 お母さんを泣かせてしまった。
 お姉さんに迷惑をかけてしまった。
 それは僕にとって反省するべきことだ。
 でも僕は嫌なものは嫌だったんだ。

「判った。何も言わないよ」
 太一くんは僕の事が本当に判ったのだろうか?
 どのように思われたのかは知らない。
 でもそれ以上は言うことは無いと思った。

 教室に帰って僕は日直帳の書き方を教えてくれた。
 しかし僕は気になっていた。
 僕の行動は本当にいけないことだったのだろうか?
 女の子が男三人に喧嘩をするという行為は、確かにとても許されることではない。
 力比べをして勝てるわけは無い。それは身をもって体験した。
 殴られて、蹴られて、なにも僕には出来なかった。
 大怪我をして、入院をして、僕は大勢の人に迷惑をかけた。
 心配をかけてしまったのだ。

「太一君だったらどうしていた?」
 僕は太一くんならどのように行動するのかを知りたいと思った。
 女の子としての行動としては僕の判断は間違った判断だったと思う。
 それなら男の子としてなら、僕の判断は正しかったのかを知りたかった。

「俺はそのときその場に居ないから判らない。
 どのように行動したらいいのかは判らない。
 でも軽率な行動はしないと思う。
 警備員を呼ぶとか、警察を呼ぶとか、一番楽で確実な方法を選ぶだろうよ」

 恭也と同じ事を言う。
 警備員を呼ぶとか、警察を呼ぶとか。
 自分で解決をしようとはせずに人を呼ぶこと。
 太一くんもそのような考え方だった。

(やっぱり僕の行動は軽率な行動だったのか)
 たしかにそのような行動をすれば被害はなかった。
 病院に担ぎ込まれて入院をすることも無かった。

「でもそれで彼氏が出来たんだろ。結果的に良かったと言うことじゃないの」
 太一くんが続けて言った。
 彼氏が出来た?何を言ってるんだろう。

「彼氏ってだれ?」
 僕は太一くんに尋ねた。

「よく下校時刻になると一高の校門に居て、
 お前と一緒に帰る二高の男子生徒」
 恭也の事を言っているんだ。
 恭也と一緒に帰ることになったのは学校の規則だからだ。
 僕に課せられた処分だからだ。
 付添人に恭也がなってくれた。
 そして付添人と一緒に帰るように言われているからだ。

「恭也は、お友達だよ」
 僕が太一くんに言うとなぜか不思議そうな顔をした。
 第二高の生徒が第一高に来て、私と一緒に帰っていたら、
 付き合っているように見えてしまうのだろうか?
 僕は女の子になっているし、女の子として学校に通っている。
 実際に身体は女の子だ。でも僕は男の子だった。

『結ちゃんの心の中に男の子だという気持ちがあるから?』
 今朝、お姉さんに言われたことを思い出した。
 僕には確かに男の子だという心がある。
 実際に僕は男の子だった。
 起きたら女の子になっていた。
 子供が産める身体になっていた。
 ありえないことが僕の身体で実際に起きたのだ。
 身体が女の子になったからといっても、
 僕は僕だ。男の子だった僕だ。これも事実だ。

 男の子と女の子の友情があるのかもしれない。
 友情というものが無くて恋愛になるのかもしれない。
 その答えが僕にはよく判らない。
『男の子と女の子との友情はありえるのだろうか?』
 その答えが出ないまま、僕には更なる問題があるのだ。

『男の子だった女の子と、男の子の友情はあるのか?』
 とても複雑な感情になるのも当然の事だと言えよう。
 そしてその次に僕が考えないといけないことがある。
『男の子だった女の子と、男の子との恋愛関係』
 本当にこの答えというものはあるのだろうか。
 僕にこの問題を解くことはできるのだろうか。

「太一君もよく校門で待っていて一緒に帰る第三女子の女の子が居るじゃん」
 僕は太一くんと第三女子の女の子の事を言ってみた。
 太一くんは男の子と女の子の友情はあると
 思っているのだろうか?どうだろうか?
 答えを出してくれるのだろうか?

「未来はお隣に住む幼馴染の子だ」
 第三女子の女の子の名前は未来(みく)っていうのか。
 太一くんのお隣に住む女の子。
 小さいときから一緒に過ごしてきたんだろうな。
 そして一緒に居ることが当たり前に思っているんだろうな。

「男女間の友情は成り立つと思う?」
 僕はさらに疑問をぶつけてみた。
 幼馴染でお隣に住む女の子。
 いつも一緒に過ごしていて自分達は高校生になる。
 その女の子と恋愛感情は芽生えることは無かったのか?

「わかった、僕の負けだ」
 突然、太一くんが言う。
 負けってなに?
「負けとかよくわからない」
 本当に意味がわからない。
 何が負けなの?
 どういう意味なんだろう・・・。

「日直帳を担任に渡したら終わりだ」
 話が急に終わった。
 なにか悪いことでも言っちゃったのかな?
 もうちょっと太一くんと話してみたかったな。

 男の子と女の子との友情は成り立つのか。
 その答えがわかったとき、
 僕には次の問題に直面できる気がするのだ。
 その問題にぶつかっていける気がするのだ。

『男の子だった女の子と男の子との友情関係』
 僕に課せられた問題だ。
 これは僕にしか解決は出来ないのだ。
 僕と同じように女の子になった人が居たら、手を上げて僕に教えて欲しい。
 そしてその答えを一緒に考えて欲しい。

「了解。今日はありがとう太一くん」
 今日、一日が終わった。
 部活動は無かった。
 アーチェリー部も武道部居合道も無い。
 僕は太一くんと日直帳を職員室に持って行った。
 そして教室に戻り、帰る支度をした。

「それではごきげんよう。太一くん」
「おつかれさま。」
 僕と太一くんは挨拶をした。

 僕は急いで校門に行く。
 そこで待っている恭也と出会う。

「恭也くん、ごめんね。待ってくれてありがとう」
「結さん、日直お疲れさま」
 僕と恭也は一緒に歩き出した。
 僕と歩調を合わせてくれている。
 僕の歩くスピードに合わせてくれている。
 一緒に歩いてくれていることを僕は感じている。

 僕は恭也の事は好きだと思う。
 恭也も僕の事を好きだと思う。
『もし恭也くんが告白してきたらどうするの?』
 お姉さん、どうすればいい?
 本当に僕には判らないよ・・・。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み