最終章;第一話

文字数 2,566文字

 私と恭也が付き合い始めて一週間が経った。

 12月に入り、地方特有の冷たい乾燥した強い風が吹いているためか
 一日一日と日を増すごとに徐々に寒くなってきている。

 私もお姉ちゃんもスカートのみではつらいのでタイツを履き始めた。
 私は今年の6月に女性になったばかりだが、
 もう半年も女性をやってきている訳で女性の服を着ることに慣れた。
 最初は付ける事に抵抗があったブラジャーも今では付けているし、
 下着も自分で買いに行くことが出来るようになった。
 自分の好きな下着の色もあるし、可愛い服を着るようにもなった。
 初めての生理を体験して、最初はとても重くてすごく辛くて寝込んだ。
 これも女性の体だからと感じて毎月生理を体験している。
 昔に比べて私も女性らしさを身に付いてきていると感じている。
 私は初めから女性だったんじゃないか?そう思うようになっていて、
 逆に男性時代のときのことが夢のように感じてしまうくらいだった。

 しかし私には未だにまだ慣れないものがある。
 恭也とはどう付きあったらいいのかわからない。
 今日も恭也と一緒に学校に行く。そしていつものように一緒に帰る。
 学校に内緒のことなのだが私の部活の人たちもよくしてくれている。
 校門でいつまででも待っているのは酷だとおもうということで、
 女子アーチェリー部や武道部居合道の練習のときは
 学校に入って見学していても良いと言われた。
 だから私が部活動があるときは恭也が座って私を見ている。
 帰りに買い物に行くときも一緒に居てくれる。
 休日も私が出かけるときも付添人で一緒に居てくれる。
 毎日一緒に居てくれるので私は嬉しいけど、
 付き合うようになってもそれは何も変わっていない。

『お付き合いするってどういうことなんだろう。』

 私の考えている課題(テーマ)になっている。
 お付き合いする前とお付き合いした後で何も変わっていない。
 恭也と一緒に居るときの胸の高鳴りも付き合い始める前からあった。
 そして恭也と一緒に居る今も胸の鼓動が早くなっている。
 好きな人が私の真横に居て、一緒に手を繋いで歩いている。

 恭也が私に『付き合ってください』って言われたときは本当に悩んだ。
 元男の子の私なんかが男の子とお付き合いできないと思ったし、
 自分が男だったらこんな女の子は絶対にイヤだと思っていたからだ。
 恭也にはもっと相応しい人が出来て幸せになってほしいと思う。
 それでも恭也は私と付き合いたいと言ってくれた。
 恭也から付き合ってくださいと言われたときは本当に嬉しかった。
 しかしこんな私の何処が好きなんだろう。恭也がよく判らない。

 私は恭也をチラッと見る。
 恭也も私を見ていた。
 目が合うとすごく恥ずかしいよ。

「今日は一段と寒くなってきてるね」
 ずっと黙って歩いていたが、恭也が話しかけてきた。
「もう12月だもんね。今日はお鍋にしようかな」
「鍋って温まるからこの時期は良いですね」
 私と恭也はスーパーに入った。

「恭也はどういうお鍋が好きなの?」
「お鍋ならなんでも好きだよ。でもさっぱりしたお鍋が良いかな」
 ポン酢に付けて食べるお鍋は私も大好きだ。
 昆布でお出汁をとってお肉は鶏肉が良いな。
 白菜とか糸こんにゃくも入れて、しいたけも入れて、
 豆腐も入れて、ポカポカ温まりたいな。
「智くんも家に来るかな?一緒に食べたいね」
「智も呼べば喜んで来ると思うよ」
 もう恭也は完全に頭数に入れている。
「5人だから沢山買って行こうね」

 家に着くと私は着替えに部屋に行く。
 そして鍋の準備を始める。
 そのうちに智くんが家に来る。
 お姉さんもお母さんもじきに帰ってくる。
 家族でお鍋を囲んで食べる。
 その変わらないいつもの光景に私は心から思う。

『お付き合いしていくって本当にどういうことなんだろう』

 私と恭也は常に一緒に行動をしていて、
 お付き合いを始めても何も変わっていないように感じている。
 私の傍には恭也が居ることはもう当たり前になっている。
 実際には何も変わっていないのかというと、厳密に言うとそうではない。
 一緒に歩いているときに手を繋いで歩いている。
 しかし手を繋いで歩いていというだけで、
 だからその人たちは付き合っているとは言えないと思う。
 それなら手を繋いで歩いて幼稚園や学校に通っている子供たちは、
 みんな付き合っていることになってしまう。
 それなら付き合うとはキスをすること?セックスをすること?
 そうするとまだ体験をしたことが無い私と恭也は、
 まだ付き合っていないということになってしまう。
 お互いに好きで愛していてお付き合いをしましょうとなったら、
 ほかの人たちはどうしているのかな?

 いつもと変わらない生活。
 いつも二人で一緒に居る生活。
 そのような生活に私は慣れてしまったのだろうか?
 慣れたのなら恭也と一緒に居るときの恥ずかしい気持ちは何?
 恭也に見つめられてしまうと心臓の鼓動が高まるのは何故?
 恭也の目に惹きこまれそうになる気持ちは何?
 恭也の優しさや頼もしさや逞しさに惚れてしまっている私は何?
 恥ずかしさ、高まる鼓動、これは慣れるということはないの?

 まだお付き合いを始めたばかりで私にはわからない。
 お付き合いというものをしたことがない恋愛初心者の私なのに、
『恋愛とはどういうことなのか?』なんて判る訳がない。
 私は恭也とどう付きあったら良いのか判らない。
 この私の気持ちが判る人ってどれだけ居るんだろう?
 女性になって一年も満たない私だけが判っていないだけかもしれない。
 初めから女性なら、私のような気持ちは感じないのかもしれない。
 お付き合いしていくってどういうことなのかな?
 こんなことで私は恭也の彼女としてやっていけるのかな?
 でも私は恭也の彼女だ。
 たった言葉ひとつで付添人の恭也から私の彼氏の恭也に変わった。
 あの告白の日から一週間が経った。
 この一週間、私はずっと悩み続けている。
 私って本当に恭也の彼女に相応しいんだろうか?


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み