第三章;第六話

文字数 4,245文字

 期末試験が終わり、そして結果発表が出た。
 結果順位が中央館、職員室廊下の壁に張り出された。

 一年生が、二年生が、三年生が大移動するかのように、
 全校生徒が一気に中央館の職員室前廊下に集まる。
 そして大喜びする者、泣く者、悔しがっている者。
 まるでテレビでよく放送されているような、大学入学試験の様子を再現している気分になる。

 僕は一年生の結果を見てみた。1位から20位までは特進科が占めた。
 期末テストでは実に15人が全教科満点だった。
 残り5人の点数が一問間違えただけの点数で終わる。
 問題はその後の順位である。

 21位・普通科1年B組・三浦 結
 22位・普通科1年A組・田端美耶
 23位・普通科1年B組・鈴木太一

「え?あれ?うそ・・・」
 僕には信じられない結果だった。
 他の学校と違いテストの返却は結果発表の後に来る。だから僕は自分のテストの点数を知らない。
 そして特進科という訳の判らない科以外で、僕が居る普通科の中では結果一位になっているのだ。

 お姉ちゃんの結果は?
 僕は隣に張り出されている二年生の結果を見る。
 特進科5人に上位を独占されていたが、

 6位・普通科2年C組・三浦由依

 普通科の首位をキープしていた。
 僕の責任でお姉さんの成績が落ちたとは言われたくなかった。
 だからお姉さんが普通科でまだ首位で居たことに安堵した。

 特進科は恐るべしだった。
 去年から作られたと聞いていたが、二年や一年でも上位キープされている。
 完全能力主義集団。期末で全教科満点ってどういうこと?
 ほんと意味がわかんない。

 それにしても、1年A組の田端美耶という人は知らないけど、
 でもその次に鈴木太一の名前が入っている。
 真奈ちゃんから頭の良い人とは聞いていたがその通りだ。
 太一くんが人を見下すのはこれが原因なのか?と思った。

 クラスに帰ると先生が居た。
 そして僕のアーチェリーの県大会優勝と、全国大会出場をみんなに言うのだった。
 僕も今日は恭也に家に来てもらい、全国大会の岐阜県と合宿の長野県にちゃんとお願いしよう。
 頭を下げてしっかりとお願いしようと心に決めるのだ。

           ☆彡

 帰りにスマホを見るとお母さんからお祝いのメールが届いていた。
『恭也くんも呼んでお祝いしよう。お買い物よろしくね。
 ・お肉(豚肉・牛肉)
 ・お野菜(にんじん、ピーマン、糸こんにゃく)
 ・牛乳』
『恭也と一緒に行って来るね。』と返信した。

 校門の前で第三女子の女の子が居る。
「ごきげんよう。太一くんを待っているの?」
 僕はその女の子と話す。
「こんにちは。はい、太一を待っています。三浦結さんですよね、私、四谷未来と言います。」
 未来さんは私に話しかけられていて、とても喜んでいた。
 なにをそんなにこの子は嬉しいんだろう?
 第三女子、お母さんの学校だ。お母さんのクラスなのかな?

「太一くんから誘われるとは思うけど、8月12日の日曜日にバーベキューがあるの。
 クラスメートに誘われているんだけど一緒に行かない?」

「三浦結さんから私を誘ってくれるんですか。すごく嬉しいです!絶対に行きます!」
 とても喜んでくれた。
「それなら私のスマホNoとメアド教えておくね。」
 私はスマホを取り出し未来さんと交換した。
「本当にありがとうございます。夢みたいです!」
 ここまで喜ばれると僕も本当に嬉しい。

「あ!太一、こっちだよ!」
 未来さんが突然に大声を出した。
 後ろを見ると太一くんが居た。
 この子、私を見ていたんじゃないのか?
 太一くんが近づいてきたので、僕は太一くんに聞いてみた。
「太一くん、あの特進科って何?全教科満点ってありえないと思わない?」

「お前って本当にすごいやつだよ」
 太一は僕を見てそう答えた。
 本当にこの太一くんは意味がよく判らない。
 僕は太一くんから特進科の事を聞こうと思ったのに、予想をしていない違った反応をしてきた。
 僕の欲しい答えが返って来なかった。
「太一くん、どういう意味か判らない」
 僕の何がすごいのだろう?
 太一くんだってとても成績が良かったじゃん。

「今まで思って居たんだよ。何故こんなにも三浦結が注目されるのか。
 そして何故こんなに期待をされるのか。
 俺は三浦由依先輩の従妹だから。ただそれだけでちやほやされるのだろうと思っていた。
 しかしそうじゃなかったんだな。常にしっかりと期待以上のことをしてきたんだな。
 そしてそれを他人に対して見せ付けることを絶対にしない。
 それに対して他人に威張ろうともしない。本当にお前はすごいやつだよ」

 太一くんから僕はそのように思われていたのか。
 太一くんが本音を言ってくれたことで、すべてが理解できたように思う。
 由依姉さんの従妹だからチヤホヤされていると思っていたのか。
 だから僕の事を見下したように話していたのか。
 やっぱりちゃんと聞いてみないと判らないものなんだな。

「太一、どういう意味?」
 未来さんは何のことかさっぱりわからない様子だった。
「こっちの話、さっさと帰るぞ未来。それじゃな」

「ごきげんよう。太一くん」
 僕は太一くんがどのように思っていたのか判った気がする。
 僕に対してどう考えていたのか判った気がする。
 私の聞いたことにしっかりと答えをくれたわけじゃないけど、
 太一くんはいろいろと考えているんだなってことが判った。
「恭也、一緒に買い物に行こう。」
 僕は恭也と買い物に行くのだった。

          ☆彡

「それで恭也はテストの結果どうだった?」
 恭也のテスト結果が心配だった。
 私の結果はとても良かった。しかし恭也の成績が悪かったら大会に行けれない。

「信じられないことが起きたんです!この僕が学年首位でした。本当にありがとう」
「やった~!」
 僕は恭也に抱きついた。
 とても嬉しくて本当に嬉しくて堪らなかったのだ!
 全国大会に行けれる!合宿に行けれるんだ!

「恭也、お願いがあるの!夏休みの事なんだけど、一緒に岐阜県と長野県に行って欲しいの!」
「岐阜県と長野県ですか?どうしてですか?」
 僕はアーチェリーの全国大会の事と合宿の事を話した。
「夏休みも結さんと一緒に居れるなんて僕は幸せです!」

「岐阜県は8月1日から5日までで、5日に長野県に移動して、10日まで合宿だからね。
 12日にはクラスメートのバーベキューがあるから行こうね。」
 僕はすごく嬉しかった。

「全国大会頑張るぞ!」
 僕は優勝を目指すんだ!絶対に優勝だ!

 興奮が冷めぬままスーパーに着いた。
「恭也、今日は僕の家でお祝いを一緒にやろうね。」
「結さんって、本当にいきなり誘うんですね。」
 恭也は笑っていた。

「恭也、こんな僕は嫌い?」
 つい興奮して恭也に聞いてしまった。
「結さんのことは大好きです」
 恭也は僕をみて真剣な顔で答えた。
「そうだよね、やっぱりそう答えるよね」
 僕は恭也の気持ちは知っていた。十分に感じていたのだ。
 だけど僕には恭也の気持ちに答えてあげることはできない。
 答えられないんだ・・・ごめんね、恭也。

 僕は買い物を早くしようとスーパーの中に入っていった。
 カートを使って買い物カゴを置いて買い物をする。
 恭也がカートで僕の後に付いてきてくれた。

「お肉、お肉♪」
 豚肉と牛肉を買っていく。
 こっちの方が量が多いかな。
 お母さん、お姉ちゃん、私に恭也くんだから沢山欲しいな。
「いいお肉ないなぁ・・・。」
 こっちは赤身が多いな。色も良いし新鮮。値段も手ごろだし。
 これを3パック買おう。
 牛肉は・・・。高いなぁ・・・これならいいかな。
「恭也くん、こっちとこっちどっちがいいと思う?」
「こっちの方が安いかな。でもこれって期限が短いですね」
「そうなんだよね。そうなるとこっちの方がいいよね」
 牛肉を四パックをカゴに入れる。

 あとは、にんじんとピーマンと糸こんにゃくっと。
 あれ?白菜とかキャベツは要らないのかな?
 この材料でお母さんは何を作る予定なのかな?
 カレー?シチュー?ピーマンは使わないし糸こんにゃくも使わない。
 鍋?にんじんとピーマンは使わないか。
 糸こんにゃくとピーマンとにんじんを使う料理って何?

「恭也は嫌いな食べ物ある?ピーマンとか大丈夫?」
「僕は野菜も大好きですよ。嫌いなものは『らっきょう』です」
「あ!私もらっきょう大嫌い。桜でんぷは?」
「あのピンク色のものですか?あまり好きじゃないです」
「私はね、桜海老も駄目なの。殻を食べてる食感が駄目。」
「結さんって僕と好き嫌いが同じじゃないですか。」
 僕は驚いた。嫌いな食べ物は他の人と合うことがないからだ。
 恭也と好き嫌いが同じとは思わなかった。
「恭也と僕って似てるんだね。よかった♪」

 あれ?味ポンあったかな?少なかったと思うから味ポン買っておこう。
 卵は・・・あ!特売してるじゃん!安くなってる。
「恭也、卵を買おうよ!」
「結さん、これでいいですか?」
「うん、ありがとう。」

 あとは・・・「恭也ってドレッシング派?」
「サラダにはドレッシングを使いますよ。」
「恭也の使ってるドレッシングってどれ?」
 恭也がいつも使っているドレッシングを買った。

 あとは牛乳かな。
「恭也が飲んでいる牛乳ってどれ?」
「僕が飲んでいる牛乳・・・どれだろ?思い出せないです」
 それならこの牛乳にしよう。
「お茶2Lのペットボトルが120円?!安いね。」
「買いましょうか」

 レジを待って会計を済ました。
 荷物が沢山・・・買いすぎたかな。
「やばい、持てるかな」
「僕が持つので大丈夫ですよ。結さんはそれを持ってください。」
 恭也は両手いっぱいに袋を持った。
 僕は牛乳と卵などのぶつけたらやばめのものを持つ。

(恭也って力があるな・・・。優しいし、かっこいいし)
 恭也を見惚れてしまう僕が居た。

 やっぱり僕は恭也の事は好きだ。
 でもこれはどうすることも出来ないのだ。

 恭也と一緒に僕は家に帰った。


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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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