第三章;第三話

文字数 2,985文字

 次の日、僕は制服に着替えて髪をブラシでといた。
 恭也はもうすでに家の前で待っている。
「結ちゃん、恭也くんが待ってるよ。早くしなさい!」
 僕は鏡に映る自分の姿を見た。
 服装はいいんだけど、まだ髪が気に入らない。

「結ちゃん、私がチェックしてあげるから降りてきなさい」
 僕はお姉さんチェックをしてもらいに一階に行く。
 お姉さんチェックをしてもらうのだ。
「結ちゃん、問題なし。今日も可愛いよ」
「でもなぜか髪が気になるの・・・。」
「大丈夫だよ。恭也くんにもチェックしてもらう?」
「お姉ちゃんのイジワル!」
 僕が言うとお姉さんが笑っていた。

「お母さん行ってきます」
 僕はお母さんに抱きしめられて柔らかな気持ちになる。
「結ちゃん、行ってらっしゃい。頑張ってね」
「うん。お母さん、頑張ってくる」
 そして外に出て恭也と会うのだ。
「結さん、由依さん。おはようございます!」
 恭也がいつものように挨拶をする。
「ねえ恭也くん、今日の結ちゃんはどう?」
 恭也が赤い顔になり答える。
「とっても可愛いです」
 恭也の言葉で僕の心臓の鼓動が早くなる。
 顔も身体も熱くなってくる。
「えっと・・・。恭也くん、ありがとう・・・。」
 とても恥ずかしい。
 お母さんやお姉さんにも可愛いよって言われるけど、
 恭也から言われるのとは違って感じてしまう。

「結ちゃん、顔真っ赤。可愛い」
 お姉さんが僕を見て茶化すのだ。
「お姉ちゃん、もう本当に怒るよ」
 お姉さんは笑っていた。
「そろそろ行きましょうか」
 恭也は顔を赤くしながら言った。

「今日は結さんは日直でしたね。頑張ってきてください」
 一高の前で僕は恭也と別れて、
 お姉さんと一緒に学校に入った。

「本当に恭也くんって良い子だね」
 お姉さんが僕に言う。
「うん、判ってる。恭也は良い奴だよ。
 僕は恭也の気持ちも気付いてる。
 でもどうしてもそういう気になれないんだ」

「結ちゃんの心の中に男の子だという気持ちがあるから?」
 僕はどう答えたらいいのか迷ってしまった。
 僕が最初から女の子として産まれてきたら?
 そうしたら恭也と出会うことは無いだろう。
 女の子として育ち、女の子として暮らすのだ。
 恭也と出会ったのは僕が男の子だったからだ。
 もし僕が女の子として生まれ、小学校四年生に恭也と出会ったら?
 それでも僕が恭也と仲良くなるとは思えない。

「女の子として育っていても、恭也と付き合うとは思えない」
 僕の考えた結論を話した。
「本当にそうなのかな?もしこの世に運命があったら、
 違う人生を歩んでいても出会っていると思うよ」

 運命か・・・。
 運命というものは僕は信じていない。
 しかし、僕が恭也と出会い友人になっていた。
 女性になった僕にも恭也と出会い、友人になっている。
 もし本当に運命というものがあるとしたら、
 恭也は運命の人だということになるだろう。
 それなら僕の心の中に男だったという思いがあるからなのか。
 だから僕は恭也の気持ちを知っていても、
 わざと知らぬふり、気付かないふりをしているのか。

「男だったという思いはあるかもしれない。
 僕は男だった。そして恭也と親友だった。
 女性になっても僕は恭也を友人としか見れない」

 これは僕の今の本音なのかもしれない。
 身体は女の子になってしまったのかもしれない。
 しかし元々は僕は男の子だ。
 男の子と付き合うことは絶対に出来ない。

「もし恭也くんが告白してきたらどうするの?」
 お姉さんはさらに僕に無理難題を突きつけてきた。
「わからない。でもそうなるとは限らないから」
 僕は本当に判らない。
 そして恭也が僕に告白してくるのは無いと思いたい。
「しっかり考えたほうがいいよ。遠い未来の話じゃないと思う」
 お姉さんは僕にそう言って登校ゲートをくぐり、
 二年生の二号館に向かった。

「遠い未来の話じゃない。か・・・」
 僕も登校ゲートをくぐって一年生の一号館に行った。

          ☆彡

 今日の当番表を見ると、鈴木太一、三浦結』と書かれている。
 鈴木太一くん?誰だろ?
 僕は教室を見渡したが判らない。

「真奈ちゃん、おはよう。今日、私が当番なんだけど鈴木太一くんってどなた?」
「結ちゃん、おはよう。鈴木くんなら・・・。」
 真奈ちゃんが窓際の席を見るが居ない様子で、さらに教室を見渡していた。
 そして今、教室に入ってきた男の子を指差した。
「あの人が鈴木太一くんだよ。とても頭が良い人かな」

 鈴木太一くんが自分の席に座ると、隣にいる男の子と話をしていた。
「お隣の子ってなんていう子?」
 僕は真奈ちゃんに聞いた。
「お隣の人は、安西ひろくん。おとなしい子で鈴木くんのお友達みたい」
 僕はまだクラスの人達の名前を覚えていない。
 真奈ちゃんはまだ覚えていない僕に名前と特徴を言うのだ。
 真奈ちゃんの教え方はとても判りやすい。
 真奈ちゃんが僕の教育係で本当に良かったと思っている。

「さてとそれなら鈴木太一くんのところに行きますか」
 僕は深呼吸をして歩き出した。
 僕は初対面の人とは上手く話すことが出来ない。
 とても人見知りなのだ。
 今の僕は編入したクラスなのだから全員が初対面だ。
 人見知りだが僕は自分でも頑張ったほうだと思う。

 真奈ちゃんと話をするようになり、仲良くなり、
 クラスの人達が僕のところに来て話をしてくれる。
 みんなとよく打ち解けるようになったと思う。
 しかし僕にはまだ話をしたことが無い人がいる。
 その中の人達の中に鈴木太一くんと安西ひろくんがいる。
 安西くんは時々だが僕の周りにきたことがある。
 話をしたことは一度も無いけど見た事はある。
 何をしたいのかわからない一言も話さない謎の人だ。

 鈴木太一くんも一回も話したことは無く、私に近づいたことも無い。
 でも帰るときに校門の前で第三女子の女の子と一緒に帰っているのはよく見かける。
 安西くんとは違う意味で謎の人だ。

 僕が鈴木くんの近くに行くと安西くんが挨拶をしてきた。
 僕は安西くんが話しかけてきたことに驚いた。
 しかし、驚いた様子も見せないようにして安西くんに挨拶した。
 そして鈴木くんに今日の当番の事を告げて、どうやったらいいのかを聞いた。
 ちょっと怖かったけど挨拶は済ませた。

 自分の席に着くと真奈ちゃんが声をかけてきた。
「結ちゃん、大丈夫だった?」
「ちょっと怖かったけど、なんとか無事に挨拶はしてきた。
 今日一日一緒にこなして行こうって言われちゃった」
 やっぱり初対面の人と話をするのは緊張する。
 とくにあの鈴木太一って言う人は、他人を見下してるような気がする。
 だからなのかな話をしていてなんか嫌な感じがした。

「悪い人じゃないとは思うけど、私もあまり話したことが無いからよくわかんない」
 真奈ちゃんの感じた意見だ。
 確かに悪い人じゃないとは思う。でも見下してる感じで言われるのは気に入らない。

 今日一日あの人と日直を一緒にやるのか・・・。
 僕は不安でしかなかった。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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