最終章;第二話

文字数 3,570文字

 私は太一と未来ちゃんに聞きたいと思うことがある。
 家がお隣同士で小さいときからいつも一緒に居て、
 でもしっかりとお互いに認め合ってお付き合いが出来ている。
 小さいときからずっと一緒だったんだから、
 付き合おうとなっても付き合い方が変わるとは思わない。
 太一と未来ちゃんはどのように変わったのかを知りたかった。
 でもどう聞いたらいいのかがよくわからない。
『未来ちゃんとのお付き合いはどう?』と太一に聞いても、
『いつもと変わらないよ』と答える。
 そのいつもということがどういうことなのかを聞きたいのだが、
 太一は多くを語ることはしてくれない。
「結、おまえ恭也と付き合うことになったんだって?」
 いつの間にそういう情報が流れたのかは知らないが、
 私は恭也とのお付き合いを始めたので付き合ってるよと答える。
 太一も未来ちゃんもとても喜んでくれているのだけど、
 お付き合い初心者の私にとって心から喜べない。
 私の悩みは今までのものより大きくなっていった気がする。

「結、お前の悩みは解決したのか?」
 私が悩んでいることも太一は知っていた。
「私のもともとの悩みはぜんぜん解決はしてないんだけれど、
 私と恭也とお付き合いするようになってからというもの
 今までとは違った悩みが増えていったように思う」
 私は本音を太一に話した。
「お前の悩みって絶対に解決しないと言っていたやつが居てな。
 だからそっとしておこうと未来と話をしたことがあるんだ」
 私のことをそこまで見抜いている人がいる。
 もしかしたら私の過去のことを知っている人がいるようで怖かった。
「田端美耶って知ってるか?成績順位で結のすぐ下に居る子。
 夏のバーベキューのときにメガネを掛けた無表情の女の子だよ」
 田端美耶さんという名前を見たことがあった。
 そしてバーベキューのときのメガネを掛けた女の子で私は判った。
「美耶は本当にすごいんだよ。今度紹介しようか?
 もしかしたらお前の相談にも頼りになると思うよ」
 太一のその言葉で私は田端美耶さんと会うことになった。

 数日後、太一が田端美耶さんに話してくれて、
 私と田端美耶さんと初めてお話しすることとなった。
 とても物静かな感じで無表情の女の子だった。
「ごきげんよう、三浦結さん」田端さんと私の最初の挨拶となった。
「ごきげんよう、田端美耶さん。今回は会ってくれてありがとうね」
「太一くんにも言ったことなんだけれど、
 たぶんあなたには伝わっていないと思うけど、
 私は知っているというほどあなたのことは知らない。
 それで私に相談事があると言われても答えれるかどうか判らない。
 それを知った上で私に相談事を言うのならかまわない」
 私もこの田端美耶さんのことは知らない。
(実際にはバーベキューで出会っているけど)初めてお話をする。
 初めて話す人に相談事ってするものなのかな?

「初めて話をする人に相談事って難しいよね。
 でもどうしてもいろいろな人の意見を聞きたいと思っているの。
 田端さんのひとつの意見としても聞いてみたいと思う。
 もちろん他の人はどう考えているのだろうって聞いてみるよ。
 田端さんはどう考えているのかという意見を聞かせて欲しい」
 私は本音を言えたような気がする。
 田端美耶さんって不思議な人だと思った。
 解決する意見は私の問題から導くことは出来ないと思う。
 でも田端さんの言葉は問題の本質を見抜いて来る気がする。
 そう感じさせる人に思えていた。
 だから私は田端さんに本気で語り合いたいと思っていた。

「壁というのは、できる人にしかやってこない。
 超えられる可能性がある人にしかやってこない。
 だから、壁がある時はチャンスだと思っている。」

 いきなり田端さんが語りだした。
 急に話したので私は驚いてしまっていた。
「それは田端さんの言葉?」
「違う。イチローさんの言葉」

「私に超えられると思う?」
「どうだろうね、でも壁を作るのはあなた自身だと思うし、
 その壁を超えないといけないことも、
 あなたならわかっているんじゃない?
 そしてその壁を越えたとき、
 あなたはひとつ大人になれると思う。」
 太一の言う通りなのかも知れない。
 なんか私のことを見透かされているようだ。
「それで私に何の相談事なの?」
 相談事も話していないのに、さっきの言葉はなんだったんだろう?
「えっとね。実は私は恋愛初心者なのね。
 今回初めてお付き合いすることになったんだけど、
 付き合うとはどういうことなのか知りたいと思ったの。
 異性とのお付き合いというものがわからないの。
 他の人の恋愛感というものを知ったら判るかなって思ったの」

「お付き合いを始めたって言うのはあの二高くんのことかな?」
 恭也のことを二高くんと言われたことが怒れてきた。
「二高くんなんて呼ばないで!恭也という名前があるから」
「そうあの人の名前は恭也くんというのね。ごめんなさい」
 田端さんはすぐに謝った。
 名前を知らなかったから名前で呼ぶことが出来なかった。
 それは当たり前のことだった。
「結さん、私がその人を二高くんと呼ばれてどう思った?」
 すぐに私に質問をしてきた。
「とても腹が立った。心の奥から怒れてきた。
 でも田端さんは恭也の名前を知らなかったんだから
 そのように呼ぶしかなかったんだと思った。ごめんなさい」

「なんで結さんはそういう気持ちになったのかな?」
「好きな人を馬鹿にされたような気がしたから。」

「本当にそれだけなのかな?本当にそれだけのことで怒れたのかな?
 そこに本当の意味を見つければ良いんじゃない?」

 恭也のことを二高くんと言われてすごく嫌な気持ちになった。
 心の奥から怒りが沸いてきたようだった。
 好きな人だから、私が大好きな人だから蔑んだ呼び方は嫌だった。
 第二高校は確かに偏差値の低い学校かもしれない。
 第一高校はとても偏差値が高く有名進学高校。
 だから二高という呼び方は絶対に嫌だと思った。
 私の恭也は確かに二高に通っている。
 その恭也のことを二高くんと呼ばれることは絶対に嫌だ。
 私の大好きな恭也を蔑んだ呼び方は絶対に嫌だ。
 好きだから、とても大好きな人だからこそそう思う。

「本当にそれだけってどういう意味なの?」
「もしあなたの関係の無い男の子のことを二高くんと呼んだら、
 あなたは同じように感じて思うのかしらね」
「恭也のことを悪く言う人が許せなく思った」
「大好きだからでしょ?結さんは本気で恭也君のことを愛している。
 本気で愛しているからこそ結さんは私に怒れたんでしょ。
 相手のことを想う気持ちって大切だと思う。
 相手のことを想うからこそ恋愛は成立できると思う。
 これが私の恋愛感なのだけれどこれで良い?」

 私は身を持って田端さんの恋愛感を体験させられたと言う訳か。
 言葉だけを語るわけではなかった。
 実際にその身を持って体験しなさいということか。

「田端さん、私が私だけの恋愛感って持つことが出来ると思う?」

「私はこれまでの人生でずっと
『私は愛されない人間なんだ』と思ってきたの。
 でも私の人生には
 それよりもっと悪いことがあったと、
 はじめて気がついたの。
 私自身、心から人を愛そうとしなかったのよ。」

「誰の言葉?」
「マリリンモンロー」

「結さんは恋愛初心者だからというけど、私には良い事だと思う。
 その人を心から愛していると言う事実があるから。
 だからあなた自身の恋愛感は持てるとおもう」
 私は田端さんの言葉一つ一つが勇気をくれていると感じている。
 私にはつい半年前まで男だったんだ。
 そして今は完全な女性になっている。
 だから私は人とは違った恋愛感を持つことは当たり前なんだ。
 そして私だけの恋愛感を持てると言われてとても嬉しかった。

「多くの女性を愛した人間よりも、
 たった一人の女性だけを愛した人間のほうが、
 はるかに深く女というものを知っている。」

「それは誰の言葉なの?」
「トルストイ ロシアの小説家だよ」

「また相談事があったら聞いてもいい?」
「私にすべてを答えれるとは思わないけど、相談事があったらどうぞ」

 田端美耶さんのようになりたいな。
 いろいろな本をこれから読みたいと思った。
 多くの知識がそこにあるような気がした。

「ありがとう。田端さん」
「どういたしまして」
 私は田端さんと別れた。
 田端さんは自分の手にした本を読み始めた。


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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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