最終章;第十一話

文字数 4,315文字

 目が覚めるとお姉ちゃんが来ていた。
「おはよう。すごく良く眠ってたよ」
 起きて見るともうすっかり夜になっていた。
 太一、未来ちゃん、智くんが
 恭也の寝ているベッドの横に座っている。

「結、ぐっすりと寝れたみたいだな」
 太一に言われて私は時計を見た。
「は?もう午後8時なの?」
 太一たちが来た時刻は午後3時ころだ。
 単純計算で私は5時間も寝ていたことになる。
「結、一人ですべてを抱えようとするなよ。
 そのための家族や親友じゃないのか?」
 智くんが私に言う。
「でも私は……」
「『でも』も、『だって』も禁止!」
 未来ちゃんが私の言葉を遮り言った。
「私達は結ちゃんのことがすごく心配なの!
 恭也くんのことも心配だけど結ちゃんのことも心配なの。
 私達はとっても結ちゃんのことが好きだから心配なの。
 恭也くんが無事に目が覚めてよかったと思っていたら、
 次は結ちゃんが倒れたら意味ないでしょ!」
「うん。ごめんね未来ちゃん。
 でも好きだからこそ大好きだからこそ、
 私は恭也の傍に居たいという気持ちも判ってほしい」
「未来の言うことも判ってやってくれ。
 俺達も結のことが好きだからこそ大好きだからこそ、
 結のことを心配しているんだよ」
「うん、本当にありがとう。みんな」
 私にもみんなの気持ちは判っているよ。
 判っているけど私は恭也の傍に居たいんだ。

「もう面会時間は終わるから私達は帰るね。
 結ちゃん後はよろしくね。
 それと着替えを持ってきたからシャワーを浴びなさい。
 明日また来るときに持っていくからね。
 あとお弁当を持ってきたからちゃんと食べなさい。
 食べ終わったら袋の中に入れておいてね。」
 お姉ちゃんがそう言ってくれてみんなを連れて帰っていった。

「恭也、私シャワーを浴びてくるね」
 そう言って恭也の頬にキスをした。
 シャワーを浴び着替えてから、着ていた服を袋の中に入れた。
 そして給湯室でお湯を急須に入れてお茶を入れた。
 お弁当箱が徐々に大きくなっていく気がした。
 このサイズって男性用のお弁当箱じゃないかな?
 スチール製の大きい弁当箱、
 開けてみるとご飯やおかずがぎっしりと入っている。
 いくらなんでも女の子が食べきれる量じゃない。
 食べきれるところまで食べて、やっぱり残してしまった。
 私はまた恭也の手を握った。
「恭也、いつまで寝てるの。恭也とお話したいよ」
 そう言って恭也の手を握り締めながら眠りに落ちていった。

 恭也が入院して三日目の朝を迎える。
 まだ恭也は目覚めていない。
 私は午前中に真奈ちゃんの書いてくれたノートを見ながら、
 授業でこう言っていただろうなと予想をしながら勉強をしていた。
 二高の恭也の友達から借りたノートを見ながら、
 二高の授業の進み具合や三学期の学年末テストの予想をした。
(恭也が目覚めたときに私が恭也に教えていくんだ。)
 私はそう思っていた。
 お昼になり未来ちゃんから貰った大量のバランス栄養食を食べて、
 休憩をしてお茶を飲み、恭也の隣に私は居続けた。
 私は絶対に恭也の傍から離れたくなかったからだ。
 午後二時になり面会時間の開始になった。
 太一と未来ちゃん、智くんが来てくれた。
「結、自分のところの勉強だけでなく二高の勉強もしてるのかよ」
 太一が机の上に乗っているノートを見ながら言う。
「恭也が目覚めたときに、勉強の遅れを取り戻させるように、
 私がしっかりと教えていかないといけないからから」
「程々にな、勉強が嫌で目覚めたくないって言うかもしれんぞ」

「結、俺マジで第一高校に入りたいんだ。
 だから結、俺に勉強を教えてほしい」
 智くんが私に言う。
「智くんはなぜ第一高校に入りたいの?」
「俺、医者になりたい。松浜医科大学に行きたい」
「なんで医者になりたいと思ったの?医科はどこを目指すの?」
「俺は内科医になりたい。」
「智くんがそこまで考えているなら判った。
 明日から一緒に勉強を始めていこうか。
 学校が終わったら私のところに来てね」
「きっちりと教えてくれよ。結」

「結はお母さんと一緒で教師を目指すのか?」
 太一の言葉で私は驚いた。
「私?私は将来のことは決めてないよ?」
「恭也に勉強を教えると言ったり、智の勉強に付き合ったり、
 結はそういうことが好きなのかなと思った」
「私も智くんと一緒にいる姿を見ると、
 結ちゃんは教師に向いてるような気がするし、
 私も結ちゃんに勉強を教えてもらいたいなって思う」
「私は将来のこととか考えてないもん。まだ未定です」
「恭也の奥さんになること以外未定なんだろ?」
 太一に言われて気が付く。
 将来のことなんてまだ決めていないけど、
 一つだけこれだけは言えることがある。

 -私はいつまででもずーっと恭也の傍に居たい-

 お姉ちゃんが来てくれてお弁当が多すぎることを言う。
 結ちゃんは一日中なにも食べてないんだから、
 それくらいの量は食べなさいと逆に怒られた。
 そしてお昼ご飯と夕ご飯分のお弁当を持ってきてくれた。
 私はお昼ご飯を食べた。
「これは今日の着替え、今からシャワーに入っちゃいなさい」
 まだ病室にはみんながいる。
「いいから早く行きなさい。恭也くんは私達で見ているから」
 私はお姉ちゃんに言われたとおりにして、
 シャワーを浴びて頭と身体を洗った。
 身体を拭いてからパイル地のヘアバンドで髪を纏めた。

「結って本当にお兄ちゃんにはもったいないよな」
「いつか結はお前のお姉ちゃんになる人だぞ。
 その邪な心を捨て去れよ」
 智くんと太一の声が聞こえてくる。
(そっか恭也と一緒になると私は智くんのお姉ちゃんになるのか)
 私には恭也とのことを考えるようになっていった。
 まだ高校生だし、高校卒業してから色々と考えていこう。

 私はお姉ちゃんに着替えた服や下着が入った袋を渡した。
「はやく恭也くんの目が覚めたらいいね」
 お姉ちゃんの言葉に私は涙が溢れてきた。
「結ちゃん、大丈夫だよ。恭也くんは絶対に戻ってくるからね。
 恭也くんは頑張っているんだから結ちゃんもしっかりね」
 未来ちゃんの言葉で私は泣き出した。
 未来ちゃんは私を抱きしめて耳元でささやいてくれた。
「大丈夫だからね。絶対に大丈夫だから」

 みんなが帰って行き、私と恭也の二人きりになった。
 私はまたいつものように恭也の手を握り締めた。
『コンコン』と病室の扉を叩く音が聞こえた。
「はい、どうぞ」というと病室の扉が開き、恭也の両親が入ってきた。
 私は立ち上がり恭也の両親を迎えた。
「三浦結さん、いつも恭也のことをありがとう」
 恭也のお父さんが私に言う。
「恭也はいつもどのような生活をしていますか?」
 恭也のお母さんから私にそう言ったときは驚いた。
「恭也はいつも優しくて私に笑顔で接してくれて、
 私にとって、とても大切な人です」
 私がそう言うと両親は安心した顔つきをした。
「仕事柄いつも恭也や智には寂しい思いをさせてきました。
 しかしここ最近の恭也と智は明るく楽しそうにしている。
 恭也は三浦結さんとお付き合いをして、
 智ともしっかりと優しく接してくれている。
 いつか私達は三浦結さんと逢ってお話がしたいと思っていました。
 こういう形でお会いすることとなるとは思ってはいませんでしたが、
 私達はあなたに会えてとてもうれしく思っています。
 そして恭也と智の面倒を見てくれてありがとう」
「恭也くんは家ではどのような感じなのでしょうか?
 私は恭也とお付き合いしていて恭也のことを知らないのです。
 もっと良く知りたくてお話とかしていきたくて、
 でも急にこういうことになって、お話ができなくなって、
 私は恭也のことが大好きです、とても愛してます。
 だから私はもっと恭也のことを知って行きたいです」
 私は恭也の両親に私の考えていること思っていることを伝えた。
 ご両親はちょっと戸惑っているような気がした。
「実は私達も恭也や智のことはよく知らないのです。
 ここの病院で外科をしていて妻はここの病院で看護師長をしています。
 私達は地元の医科大で知り合い、そして結婚をしました。
 恭也が生まれ私達は幸せでした。
 しかし仕事が忙しく恭也にかまっていることが出来ませんでした。
 そして智が生まれ、恭也は智の面倒を見るようになりました。
 智が成長期不全となったときも恭也にまかせっきりでした。
 私達は親でありながら子供との会話を行っていない。
 しっかりと子育てが出来ない親の典型となっていきました。
 恭也や智の父兄参観にさえも出席できない。
 本当に恥ずかしい話ですが、私達は名ばかりの親というものです。
 しかし三浦結さんとの出会いから恭也は変わっていきました。
 とても明るく話をしてくれるようになりました。
 いつしか智も変わっていきました。
 自分というものをしっかり持ち始めたと思います。
 家での会話も結さん一色です。
 結の家でご飯を食べた。とても美味しかった。
 結さんは怒るとすごい怖かった。結さんが。結さんが。
 恭也や智の成績も上がっていきました。
 私達家族にとって三浦結という女性の存在が大きくなっていきました。
 恭也が事故をして意識が戻らない。
 しかしいつも恭也のために一生懸命になって見守ってくれている。
 三浦結さん、私達からお願いがあります。
 これからも恭也と智のことをよろしくお願いできませんでしょうか?」
 恭也のご両親から私にお願いされた。
 恭也と智くんのことをよろしくって。
「私は恭也とお付き合いをしています。大切な私の彼氏です。
 智くんも私にとって大切な親友です。
 私に出来ることならもちろんです。ありがとうございます。
 恭也のことも智くんのことも任されました」
 なんか宣戦布告のような感じの言葉だ。
 でもどう言ったらいいのかわからないからこのような返事になっている。
 私の大好きな彼氏のご両親から彼氏のことをお願いしますと言われて
 どのように答えたらいいの?
 彼女に彼氏のことをお願いしますとご両親直々にお願いされるんだよ。
 家族公認のお付き合いということで良いの?

「三浦結さん、あなたが恭也の彼女さんでよかった」
 そう言ってご両親は病室から出て行きました。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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