第二章;第二話

文字数 2,110文字

「あれ?今日は未来ちゃんは居ないのか?」
 同じクラスメートの安西ひろが言った。

「ひろ、俺と未来をペアにするのはやめてくれんか。」
 僕と未来は違う高校に通うことで、
 一緒に居る時間が無くなった。
 しかし時々ではあるが、未来が第一高校に来て、
 僕の帰りを待っていることがある。
 第三女子の女の子が校門の前で待っているのだから
 とても人目に付く。
 第一高も共学なので、もちろんのこと女子は居るのだが、
 第三女子はというと全員がお嬢様というイメージが強く、
 第一高の女子よりやはり第三女子の女の子の方が
 とても知的で可愛らしく(しと)やかだという感があるのだ。

 その第三女子の女の子が校門の前に立っていて
 僕と一緒に帰るのだ。
 僕はちょっとした優越感を感じずには居られない。

「未来さ、将来は何になりたいのか決めたか?」
 高校一年でまださすがに将来の事を考えていないだろうと
 僕はそう思っていたが未来は違っていた。

「小さいときは看護士さんになりたいって思っていたけど、
 もっと上を目指そうと思うの。」
 看護士さんに上があったのか?という疑問が湧いていると、
「病院の先生になろうかなって思ってるの」
 看護士の上にお医者さんが居るという考え方は
 絶対に間違っていると思うが、
 未来にはすでに将来の目標というものが出来ていた。

「俺は技術開発の道に進みたいな。」
 僕にはやはり工業の道に進みたいという思いがあったのだ。
 どういうものを作ろうと思うのかわからない。
 出来たら航空宇宙産業に入って行きたかった。

 僕は航空機が好きだ。
 そして小さいときにテレビで見たロケットの打ち上げ。
 宇宙望遠鏡の写真。GPSなどの人工衛星。
 火星探査ロボットなど、とても魅力的な世界だった。
 もちろんこれは夢で終わる気は全く無い。
 絶対に自分の手で作ってやる!
 そして僕は日本にある大手メーカーに目をつけた。
 その会社に入る!これが僕の目標だ。

「太一くんって本当に変わってないね」
 未来が僕の話を聞いて微笑んでいた。

「未来も病院の先生って言っても沢山あるじゃん。
 何科の先生になりたいんだ?」
「私のは夢だもん。そこまで細かく考えてないよ」

 未来は小さいときから夢見る女の子だった。
 夢見る女の子と言っても、
 医学の道に進むことには変わりは無いんだよな。
 小さいときは看護士さんになりたい。だったと思う。
 そして今は病院の先生になりたい。

 そこまでして何故、医学の道に進みたいのかわからない。
 でも未来ならやり遂げる気がした。

 未来を見るとペットボトルの蓋が開けれなくて苦戦している。
 前言を撤回する。
 未来は看護士も病院の先生も出来ないような気がする。
 血液検査のときに、
 採血針を血管ではなく違うところに刺しそうで怖い。

          ☆彡

 第一高校に入り初めての中間テストが行われた。
 このエリート高校でも僕は学年一位を目指していた。
 点数も絶対に上位に食い込める自身があったが
 結果は散々たるもので学年22位だった。
 去年から出来たとされる特進科の連中が上位を占めた。

 特進科。完全能力主義のエリート中のエリートだ。
「特進科の連中に勝てねえ・・・。」
 僕が嘆いているとひろが言う。
「特進科に勝てるやつは特進科の連中だけだ。」
 絶対に勝てないという意味だ。

 特進科に入る能力があれば、
 学校から特進科への編入を言われる。
 完全能力主義のエリートと認められるのだ。

 順位を見てみると1位から12位まで全教科満点になっている。
 13位から20位まで一問から二問を間違えた感じだ。
 そこから大きく点数が減り、
 21位・普通科1年A組 田端美耶
 22位・普通科1年B組 鈴木太一となっている。

 誰だよ田端美耶というやつは。
 ひろに聞いてみるが「そんなやつ知らねえ」という、
 A組B組合同体育でも田端美耶というやつは見ない。

 そもそも美耶って名前は男なのか女なのかもわからない。
 A組B組合同体育で居ないということは、
 美耶という人物は女性ではないかと思い始めていた。
 一体どういうやつなのかとても気になっていた。

 次の日、ひろが僕のところに慌ててやってきた。
「太一、田端美耶を見つけた!」
 ひろの言葉で僕はひろに付いて行った。

「A組の窓側の後ろから3番目の席の女の子」
 ひろに言われた席に座っている人を見た。
 ヘアゴムで髪をうしろでまとめている、
 茶色の太い縁のメガネをかけた女の子が座っていた。
 小説だろうか。なにか本を真剣に読んでいる。
 誰1人として、その女の子に声をかけようとしない。

 小説は本当に読んでいるのだろうか。
 ページをめくるスピードが早い気がする。
(もしかしたらあの本は、話しかけられないようにするため)

 他人との接点を自ら絶とうとしているのではないか。
 僕にはそのように思えてならないのであった。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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