最終章;第九話

文字数 4,266文字

 私達が家に帰るときのこと。
 私は恭也に太一も付添人に決まったことを告げた。
 恭也はちょっと悲しい顔をした。
「恭也、結の学校内での生活を守ることで決まったことだ。
 登下校や休日は恭也が結を守っていくことは変わらない」
 太一の言葉に恭也は納得しようとしているのがわかった。
「恭也、本当にごめんね。私がもっとしっかりしていたら、
 こういうことにはならなかったのに。本当にごめんね」
「結が謝ることはないよ。僕が結と一緒に居たいだけだから」
 恭也の言葉に私はうれしく思っていた。

 交差点を渡ろうと信号待ちをしていると
 交差点で乗用車同士の衝突事故があった。
 そしてぶつけられた乗用車がこちらに向かってきた。
(あれ?なんでこっちに向かってくるの?)と思い、
 私がぼうっと立っていると、
 恭也は私の腕を掴みその場から投げ飛ばしていた。
 私は何が起きたのか突然の出来事で判らなくなっていた。
「きゃー」という悲鳴のようなものが聞こえてきた。
 私が最初に居た場所には人が集まり始めていた。
 私は立ち上がって歩き出した。
 人ごみを掻き分けて歩いていく。

 車が交差点の私達の居たところにあった。
 そしてそこから離れた場所に恭也が倒れている。
「恭也?」私は恭也のところに駆けつけた。
 恭也は全く動かない。
 恭也の横に私は座り、恭也を起き上がらせようとする。
「動かすな!恭也を死なせたいのか!」
 声がした方向を見ると太一が私に怒鳴っていた。
「恭也、ねえ恭也!」
 恭也が動こうとしない。
「未来!結を恭也から離せ!」
 未来ちゃんが私のところに駆け寄り私と恭也を引き離した。
 太一はスマホでなにか話をしている。
「恭也、ねえ恭也!」
 私が恭也に近づこうとするが未来ちゃんに阻まれる。
 未来ちゃんは涙を流していた。

 しばらくすると救急車が来た。
 救急隊員が恭也を見ている。
 そして担架に乗せられて救急車の中に運ばれた。
「私もいきます。私は救急車に乗った」
「未来も一緒に行け。俺はここで警察の人と話しをする」
 太一に言われて未来ちゃんも救急車に乗った。
 そしてサイレンが聞こえ病院に搬送されていく。
 救急隊員が恭也に処置を行っている。
「結ちゃん、恭也くんは絶対に大丈夫だからね」
 未来ちゃんの言葉が耳元で聞こえる。
 恭也が居なくなるなんてそんなことはありえない。
 居なくなることは今まで無かったんだ。
 だから恭也、目を覚ましてよ。

 病院に着くと恭也はすぐに運ばれていった。
 私と未来ちゃんは待合の椅子に座らされていた。
 とても長い時間だった。
 待っているとお姉ちゃんが病院に来る。
 次に智くんが病院に来る。
 そしてお母さんが病院に来る。
 かなり遅れて恭也の両親が病院に来た。
 太一は警察と状況をお話でもしているのかな。まだ来ない。
 しばらくすると病院の先生が来た。
 恭也の両親と智くんが先生と話し始めていた。
 安心した顔をして先生に頭を下げている。
 智くんが私のところに来た。
「お兄ちゃんは無事だってさ。でもまだ意識はないって」
 私は安心してしまったのか泣き崩れてしまった。
 すぐに未来ちゃんが私のところにきて抱きしめてくれた。
「結ちゃん、恭也くんは大丈夫だから」
 恭也は集中治療室に運ばれるものと思っていたが、
 個室の入院部屋に運ばれていた。
 私達は恭也の病室に入った。
 口からチューブが出ていて、右腕には点滴が付けられている。
 顔とか腕には細かな傷が付いていて血が固まっている。
 私は恭也の左手を握った。
「恭也。恭也」
 呼びかけても答えてくれない。何も動かない。
 私の頭には恭也の笑顔が浮かんでいる。
「結ちゃん、もう遅いから今日は帰りましょう」
 お母さんが私に言う。
「お母さん、お願い!恭也と一緒に居させて!」
「結ちゃん、わがまま言わないの。帰るよ」
 お姉ちゃんが私に強い口調で言う。
「お母さん!お姉ちゃんお願い。恭也と一緒に居させて!」
 私は床に跪き、そして土下座をしてお願いをした。
「お母さん、お父さん、俺からもお願いします。
 結をお兄ちゃんの傍に居させてあげて下さい!」
 智くんが私の横に土下座をしてお願いをした。
「私からもお願いします。
 結ちゃんを恭也くんの傍に居させてあげて下さい」
 未来ちゃんが私の右横に来て土下座を始めた。
 しばらく時間が流れた。
「お願いします!お願いします!」
 未来ちゃんと智くんが何度も言っていた。
 私は涙が止まらなかった。

「佐伯さんのご両親どうでしょう。
 うちの結をここに居させてあげてくれませんでしょうか?」
 お母さんの言葉が聞こえてきた。
「判りました。結さん、恭也のことお願いします。」
「ありがとうございます!」
 智くんと未来ちゃんが私に抱きついてきた。
「智くん、未来ちゃんありがとう」
「明日、結ちゃんの着替えとか必要なものを持ってくるから」
 お姉ちゃんが言ってくれた。
「お姉ちゃんありがとう。お母さん本当にありがとう。」
「他の人は今日はもう遅いから帰ろう」
「結、お兄ちゃんのことよろしくな」
「うん、智くんありがとう」
 そしてみんなは帰っていった。

 病室に私と恭也の二人きり。
 私は恭也の左手を祈るような感じで握った。
「恭也、お願いだから目を覚まして。
 私はここに居るよ。ずっと恭也と一緒に居るよ」
 でも恭也は動かない。
 私はずっと恭也の手を握り続けていた。

 私の肩をコンコンと優しく叩かれている気がした。
「三浦結さん、寝るのならソファーで寝れますよ」
 声が聞こえて私はビクッとなって起きた。
 看護師さんが来ていたのだった。
「ごめんなさい、ついウトウトとしてました」
「毛布、持ってきたので使ってくださいね」
「ありがとうございます」
 そして看護師さんは病室から出て行った。
 私は恭也の手を離したくなかった。
 そしてまたウトウトとして寝てしまった。

 朝起きると私に毛布が掛けられていた。
 恭也を見ると動いた感じがしなかった。
「恭也、朝だよ。おはよう」
 私は掴んでいる左手にキスをした。

 その日は検査も無く先生の検診で終わっていた。
 看護師さんが定期的に見に来てくれていた。
 午後になりお姉ちゃんが私の着替えとか
 入院していたときに使った急須や湯飲みとか
 沢山のタオルとか持ってきてくれた。
「結ちゃんも清潔にしなさい。シャワーも使えばいいからね。
 恭也くんが目覚めたとき困るのは結ちゃんだからね」
 そういえばここの病室って見覚えがある。
 個室で広くてユニットバスがあってトイレも付いている。
 給湯器も完備されている。
 そういえば昨日の夜のこと、
 看護師さんが私のこと三浦結さんって言った。
「お姉ちゃん、この病室って見覚えがあるんだけど
 私が入院したときと同じ作りなの?」
「見覚えあるって当たり前でしょ。
 結ちゃんが入院した病室はここだよ」
 私が入院したときと同じ病室に、今度は恭也が入院している。
「今、シャワー浴びてきなさい。恭也くんは私が見ていてあげるから」
 私はお姉ちゃんの言われた通りにシャワーを浴びた。
 お姉ちゃんはシャンプーやコンディショナーまで持ってきてくれていた。
 身体を洗うものも石鹸もちゃんと準備がされていた。

 私は身体を拭き、ヘアバンドをして髪を束ねた。
「着替えたものはこの袋に入れて、家に持っていって洗うから。」
 私は着ていた制服や下着を袋の中に入れた。
「お姉ちゃん、色々とありがとう」
「お母さんも恭也くんの両親にお礼を言っていたよ。
 うちの娘のわがままを許してくれてありがとうございますって」
 お母さんにも迷惑を掛けてしまったな。
「お母さんがこれを結ちゃんに渡してくれって言ってた。
 あとご飯を食べてないでしょ。ご飯を持ってきたから食べなさい」
 私はテーブルのところに言ってご飯を食べた。
 そういえば今日これが私の最初の食事だった。
 私はお弁当を食べ終わり片付けた。
 お姉ちゃんはお弁当箱を袋の中に入れた。
「明日も私が持ってくるからしっかり食べなさい。
 恭也くんが倒れて結ちゃんが倒れたら意味ないでしょ。
 恭也くんが目覚めたら結ちゃんが倒れてたって洒落にならないからね」
「学校の方はどうなってるの?」
「お母さんが学校に連絡してくれたよ。
 結ちゃんの体調不良でお休みと言ってある」
 さすがに彼氏が交通事故で入院したから付き添ってるとは言えないか。
 しばらくすると智くん、未来ちゃん、太一が病室に来た。
「それじゃ私は帰るね。後はお願いね」
 お姉ちゃんが帰っていった。
「太一、あの後はどうしたの?」
 あの後、警察が来て現場検証を行い運転手は連れて行かれた。
 太一は事故の一部始終を見ていた人として、
 警察に色々と聞かれていたそうだった。
「これが今日渡されているプリント、あと佐武からこれを渡された」
 今日の授業のノートだった。細かく重要なところにマーカーがされていた。
 そういえば第二高校に友人が居ない。
 恭也の授業がどこまで進んでいるのかわからない。
「智くん、恭也の学校の教科書とかノートを持ってきてくれない?
 恭也が目覚めたとき学校の授業に遅れていたらいけないから」
「お兄ちゃんの教科書やノートなら部屋にあると思うから明日持ってくる」
「うん、ありがとう。智くん」
「結ちゃん、昨日は寝ていないでしょ。食事もしっかりと摂っていないね。
 バランス栄養食を持ってきたからきちんと食べてね。
 それとしっかりと睡眠をとることだよ。わかった?」
「うん。未来ちゃんありがとう。でも私は恭也と一緒に居たいんだよ」
「でも…」
 未来ちゃんが言いかけたときに横から太一が止めた。
「結、無理だけはするなよ」
「うん、ありがとう、太一」
「なにか欲しいものはないか?」
「今のところ大丈夫だよ。ありがとう」
「明日、また来るから連絡くれよな。いくぞ智、未来」
 太一が二人を連れて行った。
 そして私と恭也と二人っきりになった。
「恭也、早く起きてね。みんな心配してるよ。お願いだから起きてね」
 恭也の手を握って私は涙を流しながら話した。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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