第三章;第十話

文字数 3,226文字

 8月6日 僕の合宿初日。
 朝のランニングから始まる。
「僕も運動したいので」ということで恭也も僕と一緒に合宿をしている。

「三浦結。お前は試合形式をするように。」
 男子女子問わずに僕と試合をする。
「三浦結に負けたら罰としてあの木までダッシュ」
 全員と試合しろと?
「僕は何試合で休憩なんですか?」
 5試合やったらランニングして休憩10分、それの連続をするという。
 この顧問以外に鬼だな・・・。

 ランニングをして休憩すると恭也の姿が見当たらない。
「恭也が居ない。どこに行ったのか知ってますか?」
 聞いてみるも誰も知らないと言われてしまう。

「三浦結、何やってる。早く試合しろ」
 顧問の先生に言われるも気になる。
 恭也どこに行ったんだ・・・。
 僕の集中が途切れていく。そこからは思うように出来なかった。
「三浦結、走って来い!」
 僕は言われたとおりにランニングをした。
 ずっとずっと僕は走っていた。

「結さん、飲み物を買ってきました」
 僕は恭也の顔を見た。
 僕は安心するとともに自分の情けなさに腹が立った。

「僕のマネージャーならいらない。」
 僕はそう言ってその場から立ち去った。

 僕はそれから恭也と口をきかなかった。
 食事のときも僕は恭也と話をすることは無かった。

 食事を終えて僕は部屋に行った。
「恭也くんと喧嘩中?」
 先輩から言われてしまう。
「喧嘩はしてません。マネージャーなら要らないって言ったんです」
「喧嘩してるじゃん」
「僕、お風呂に行って来ます。失礼します」
 僕は部屋から出てお風呂場に向かった。

 自分でも判ってる。集中できないのは僕のせいであって恭也のせいじゃない。
 恭也が居なくなると、とたんに何も出来なくなる。
 酷い負け方したな・・・。僕って本当にまだ餓鬼だな。

 頭を洗い、身体を洗い、僕はゆっくりと湯船に浸かった。

「結ちゃん、入るよ」
 先輩がお風呂に来た。
「やっぱり、結ちゃん後悔してるんだ。」
「後悔はしていません。まだ自分は餓鬼だなって思っていただけです」
「やっぱり後悔してるじゃん」

「先輩は僕を慰めに来たんですか?」
「私が?まさか。お風呂に入りに来ただけだよ。
 結ちゃんの慰めにくるって大それたこと出来る人が居ると思う?
 正義感が強くて、無鉄砲で、あぶなったらしくて。
 第二の男子を助けに行って、自分が大怪我するような子に
 私なんかが役に立つと思うの?」

 やっぱり先輩はイジワルだ
『それが出来る子は一人しか居ないんじゃないの?』
 先輩はそう言っているような気がする。。
 私が質問をしても答えをくれることは無い。

「結ちゃんならどうするべきなのか知っているんでしょ。そのように行動しなさい。
 結ちゃんの行動って、危ないけど間違ったことはしないから。
 ここのお湯って熱いね。私はもう出るわ。
 考えることは良いことだけど、のぼせないようにね。」

 私の思ったとおりに行動しなさい。か・・・。

 僕はお風呂から出た。そして恭也の居る男子アーチェリー部の部屋に行った。
「恭也を呼んでくださいませんか。」
 部屋に入ろうとした男子部員の先輩に声をかけた。

「恭也くん、廊下で姫がお待ちだ。早く行って来い!」
 恭也が突き飛ばされたように廊下に出てきた。
「恭也、大丈夫?」

「大丈夫だよ」
「恭也、話があるんだけど良い?」
 僕たちは民宿の食堂に行った。
 外で話をしたかったけど、さすがに顧問が許してくれない。
 見つかって怒られたくないからだ。

「結さん、今日は本当にごめん。
 どうしても行かないといけないところがあって、民宿のおじさんと出かけて居たんだ」
「それならちゃんと言ってくれないと心配する」
「今日、負けたって聞いた。本当にごめん」
 なんかそれを言われるとムカついてくる。
「恭也のせいじゃないから、私の問題だから」
 そう僕が弱かったから負けたんだ。
 集中できないのは恭也の責任じゃないんだ。
 だから恭也に謝れられるのは嫌だ。

「結さん、僕は何もしてあげれないんだ。
 それがすごく辛いんだよ。
 結さんの悩みにも一緒に考えることが出来ない。
 結さんの力になにもなってあげられないんだ。
 結さんに辛いことがあるように、僕も辛いんだ。
 だから少しでも何かをしてあげたいんだ。
 でも俺って馬鹿だからさ。判らないんだよ。
 結さんにとってなにが出来るのかわからないんだよ」

 恭也が僕にできること。
 何があるんだろう。
 何考えてるんだ、それって決まってることじゃないか。
 恭也に出来ることって一つしかないじゃないか。

「それなら恭也、一つだけお願いしていい?」

 恭也は僕を真剣に見た。
 僕の言葉を待っている。

「恭也、僕から離れないこと。用事があるならちゃんと言って欲しい」

 恭也はなんでこんな僕の事をここまで想うんだろうね
 僕が男だったらこんな女は大嫌いなんだけど。

 男だったら・・・か・・・。

「結さん、ちょっと一緒に来てもらっていいですか?」
 僕は恭也の後を付いていく。男子アーチェリー部員の部屋?

「そういえばさっき聞こえたんだけど、
 私の事、『姫』って呼ばれてるの?」
「あ~・・・。そこは・・・。そういうことは無いですよ」
 なんとも歯切れの悪い話し方だ。

「ここで待っていてください。」
 はぁ? 恭也の奴、なんなんだ?

「今日、用事があって抜けたこと本当にごめん。
 これからはちゃんと結さんに言うから。
 でも、どうしても行かないといけないことがあったんです。」
 はい。それはさっき聞きました。
 二度も言わないでよろしいです。

「全国大会 優勝おめでとう。結さん!」

 恭也は大きな可愛らしい袋を僕の前に差し出した。
 一体、どういうこと?
 いきなりの事で全くといっていいほど、今の僕には現状把握が出来ない。

「えっと・・・これってプレゼントって事?」
 とても大きい袋だ、ものすごく膨らんでいる。
「これを買いに行ったの?」
「はい、受け取ってください」
「えっと・・・。ありがとう」
 僕は袋を受け取った。ちょっと重たい。
 あれ?ものすごい恥ずかしいんですけど・・・。
「えっと・・・。恭也。ありがとう。明日、おやすみなさい」
 自分でも言っていることがおかしいとは思うけど、とても恥ずかしいのだ。
 その場から立ち去りたいという一心な気持ちなのだ。

「結さん、お疲れ様です。おやすみなさい」
 恭也から言われると僕は胸のところでバイバイって手を振った。
 そしてすぐに女子アーチェリー部の部屋に行く。

「恭也くんからのプレゼント?」
 なぜ恭也からって判るのだ?
「今、会ってきたんでしょ。仲直りできてよかったね」
 そして僕のプレゼントはなにかを見に集まってくる。
「結ちゃん、はやく見せてよ」
 先輩たちや同じ一年生の部員からせがまれる。

 本当にこんな大きなものってなんだろ?
 僕は袋を開けると大きなクマのぬいぐるみが入っていた。
「かわいい!」
 部屋中に響く大きな声が一切に上がる。
 ものすごい大きなクマさんだ。
「テディーベアじゃないこれ?すごく大きい」
 袋に入っているときは足を折り曲げられ首を前に曲げられて、
 すごい可愛そうな格好になっていたが、
 袋から出すと可愛らしさ全開で僕の前に現れる。

「結ちゃんさ、どうやって恭也くんをGETしたのさ?」
 何でだろうね?僕にもよくわからない。
「こんな男と格闘する女の子が、こんな優しい恭也くんと上手くいくって魔法?」
 魔法使いでもなければ、魔術師でも無い。

 本当になんでなんだろうね?
 世の中は本当に不思議だ。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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