最終章;第三話

文字数 2,557文字

 田端さんとのお話も終わり帰ろうとしたとき、
 太一と未来ちゃんが校門の前で恭也と話をしていた。
「恭也、遅くなって本当にごめんね」
「たった今、太一君から聞きました。
 相談事があって田端美耶さんとお話ししていると。
 結さんのお話はもう大丈夫ですか?」
「恭也、結さんって言った!」
 いつになったら恭也は私のこと結って言ってくれるんだろう。
 やっぱりちょっと不満。
「結、恭也に呼び捨てを強要しても無理だよ。
 恭也の性格からして、さん付けくん付けだからさ」
 確かに太一の言う通りだけどそういうことはちゃんとしたい。
「でもなんか他人行儀って言うのかな。
 いつまで経ってもさん付けだと、それ以上の仲になれない気がするの」
「ごめん結。これからしっかりと呼ぶようにするよ」
 恭也は慌てて私のことを結と呼んでくれた。

「本当にこの二人は。未来、結に毒されないように気をつけろよ」
「私は結ちゃんのようになりたいとは思うかな。
 だってもうしっかりと恭也くんの首に縄をつけてるもん」
 縄を付けてるって……。そういうつもりはまったく無いんですけど。
「結ちゃん、お願いがあるんだけど、お料理を教えてくれる?
 私って料理したこと無いから本気で覚えたいの」
「え!未来ちゃん、私なんかでいいの?私も料理はまだまだだよ」
 突然に私に料理を教えてほしいと言われてとても驚いた。
「結、未来さんに教えてあげてもいいんじゃないかな。
 結の料理はとても美味しいし、智も好きな味だって言ってたよ」
 智くんが私の味が好きだって言ってくれているとは思わなかった。
「さてそれじゃ今から買出しに行きますか!」
 太一の一言で私はさらに驚いた。
「え?教えてほしいって今日のことなの?」

 いつものスーパーに行く。
 恭也と私はいつも来るスーパーなのだけれど、今日は太一と未来ちゃんが居る。
 4人で来ることは初めてだ。
「未来ちゃんはどういう料理が作りたいのかな?
 お鍋?煮付け?煮物?焼き魚もいいと思うけどお肉もいいかな?」
 当たり前のようだが作りたい料理によって買う食材が違う。
 お肉料理にお魚を買い込む人は居ない。
 私は恭也と一緒に買い物をするときは恭也の食べたいものを聞く。
 でも時々私の意見も言ったりしてすぐに食べたいものが決まる。
 この前のお鍋の時もそうだった。
 とても寒くてポカポカあった買い物が食べたいな。お鍋にしよう。
 どういうお鍋がいいかな?恭也がさっぱりしたお鍋と言う。
 ポン酢で食べるのがいいね。それにしよう。決定!となった。
 でも今日は太一と未来ちゃんが居て、しかも未来ちゃんに料理を教えることになった。
 私と恭也のいつもの決め方とは違っている。
 未来ちゃんに今日のメニューを考えてもらおうと思っている。
 ご飯は何がいいかな?と考えているこの時から料理は始まっている。

「出来たら簡単なものから始めて行きたいと思うかな」
 未来ちゃんの言うことはもっともなのだが、どれも似たようなものだったりする。
 焼くか煮るか煮込むか。フライパンを使うのかお鍋を使うか。土鍋を使うか。
 味付けは濃く作るのか薄く作るのか、だしのとり方は?
 作り方を変えるだけで同じ食材でも違う料理になる。

「簡単って言うなら鍋がいいのかな。出汁とって食材入れて煮込むだけ」
 この寒い時期になるとお鍋はいいと思う。
 それと今日は人数が多い。一品ごとにひとつの皿を全員に出すのは嫌だ。
 あと全員にお皿を出していたら洗うのがめんどくさい。

「えっと太一、未来ちゃん、恭也、智くん、お母さんにお姉ちゃんに私っと。
 全員で7人になるかな。ちょっとお母さんに連絡しておくね。」
「おっと!智も人数に入っているから智も結の家に行くように連絡しとく」
 恭也もスマホを取り出して電話をし始めた。
「未来、なんかすごいことになりそうだけど大丈夫か?」
「うん、なんか頑張る!」

          ☆ミ

「白菜、にんじん、白ねぎっと。恭也、お魚がいいかな?お肉の方がいい?」
「お魚だと身が崩れちゃいそうですね」
「この人数分のお魚だとやっぱ大変だよね。鶏肉にしちゃおう」
 なぜかいつものように私と恭也の二人だけの会話になってしまっている気がする。
「未来ちゃんも会話に参加。献立を決めるところから料理は始まるんだから」
 私がそう言うものの、さすがにどう話しをしたらいいのか判らないで居る。
「未来ちゃん、今日は土鍋で料理を作るのね。大根おろしとポン酢で食べる。
 あ!恭也、大根を持ってきてくれる?」
 恭也はすぐに野菜売り場に向かって行った。
「それでイメージするの、具は何がいいかな?とか頭に浮かんだものを買うの
 あ!太一はしらたき持ってきてくれる?」
 太一が「しらたき!?」と言いながら走っていった。
 未来ちゃんがその姿を見て笑った。
「未来ちゃんはどういうお鍋が浮かんだ?」
「えのきとかきのこが入ったお鍋かな。あと水菜が入っているお鍋」
「よし、えのき茸と水菜も買おう」
「恭也、ってあれ?居ない。」
 未来ちゃんが野菜売り場の方向を指差した。
 そういえば大根を取りに行かせたんだった。
「私たちも野菜売り場に行って水菜を買ってこようか?」
 でも私たちが今の場所から離れると今度は太一が迷子になる。
 男性陣に行かせたのはまずかったか……。
 しばらくしたら恭也が帰ってきた。大根と他に何か持ってる。
「水菜も入れたら美味しいと思って持ってきました」
 私と未来ちゃんが顔を合わせ、つい二人して笑ってしまった。
「恭也君すごいね。結ちゃんと心が繋がってるみたい」
「恭也、今それを買いに行こうと未来ちゃんと話していたところだったの」
 もう本当に面白い。笑っていたら太一が帰ってきた。
「結、しらたき持ってきた。あとさこれも入れないか?」
 そう言って太一がえのき茸を持ってきた。
「未来ちゃんと太一も心が繋がってるみたい」
 お買い物でこんなに楽しくなるとは思ってもいなかった。
「お買い物って本当に楽しいですね」
 未来ちゃんの言葉に私は笑ってうなずいた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み