第四章;第六話

文字数 3,066文字

「結ちゃん、恭也くん。ただいま。」
 結さんのお母さんとお姉さんが帰ってきた。
 そして居間に来て智を見る。

「可愛い子、恭也くんの妹?」
「由依ちゃん、この子は男の子じゃないの?」
 母親の言葉にお姉さんがとても驚いた様子で智を見ていた。

「僕の弟の智って言います。連れて来ちゃいました」
 僕がそういうと智が挨拶をした。
 これが智を見て自己紹介したときの普通の反応だ。
 それにしても結さんのお母さんもよく男の子だと判ったと思う。
「智くん、本当にごめんね。」
 お姉さんが智に謝っていた。
「大丈夫です。いつものことですから」

 いつものこと、智の言葉がなぜか僕には辛いと思う。
 兄としてやっぱりなにかをしてあげるべきなんだと思うけど、
 何もできないことが僕には辛く感じる。
(やっぱり智が思っているように、男の子として見られるようにしてあげたほうがいいのだろうか。)

「ねえ恭也。智くんは自分を女の子と見せることで心を癒してるんでしょ
 癒しているっていう表現はおかしいのかもしれないけど、
 だからといって男の子に見せるのは間違っているようにおもうよ。
 智くんの思ったとおりに、自分に素直に生きさせてあげるべきだと思うよ」
 結さんにそのように言われるが、僕は本当にそれでいいのかなと思っている。

「このまま大人になっていったとして問題が起きるのかな?
 身体に負担がかかってきてホルモン治療が必要になるってある?」
「それはこれからどうしていくかを決めていくってことになってるよ。
 ホルモン不足で更年期障害に似た症状になる可能性を言われてる。
 そうなったらホルモン治療に頼るしかないって聞いてるよ」
 医者もどうなっていくのかわからないのだ。
 男の子であるという事実なのだが、成長障害なのだろうと言われている。
 ホルモン量を調べているのだが男性ホルモン量が少ないことが判っている。
 そこでホルモン治療をということなのだが智は拒否している。
 将来、智の身体がどうなっていくのかは未知の世界なのだ。

「もしさ智くんが『女の子になりたい』って言ってきたらどうするの?
 男性ホルモンは嫌だ。女性ホルモンならいいよって言ってきたらどうする?」
 どうするのかはそのときになってみないとわからない。
 でもこのままホルモン分泌がされずにいたら、ホルモン治療が必要になる。
 本人の意思に任せるというしかない。
 智が将来、どう考えているのかは僕にはわからない。
 でも男であるという意思ならば、男性ホルモン治療をさせるべきだと思う。
 しかし女の子になりたいという意思なら本人に任せるとしかいえないからだ。

「智が決めることだと思う。本人の意思を尊重するよ」
「そっか」
 智を見つめる結さんの姿があった。

          ☆彡

「結ちゃん、お母さんのお手伝いね。恭也くんの事は任せてね」
 お姉さんが来た。智も結さんについて行って居間には僕とお姉さんの二人っきりになった。
「恭也くん、結ちゃんとのその後はどう?」
 僕が前にお姉さんから聞いていることだった。
 結さんはとても悩んでいる。自身の事も恭也君の事も悩んでいる。
 その後についてどう思っているのか。結さんのことをどのように思っているのかだ。
「僕はやっぱり結さんのことが好きです。この気持ちは絶対に変りません。
 悩みも一緒に考えて行きたいけど教えてくれません。
 僕の気持ちは伝えてあります。結さんからは待って欲しいと言われてます。だから僕は待ちます」
「結ちゃんね。恭也君から貰ったクマさんのぬいぐるみとても大事にしてる。
 すごく可愛がっていていつも一緒に寝てるよ。
 前のようにとがった感じもなくて優しくなった様に思えるよ。
 恭也くんのおかげかな。本当にありがとう。
 結ちゃんもね、恭也君の事が大好きなことも知ってる。
 大好きだから結ちゃんはとても苦しくなってるんだよ。
 でもいつかは結ちゃんは恭也君の事が好きになりすぎて、
 何かの拍子に決壊が崩れるように自分をコントロールできなくなると思う。
 そのとき恭也くんはどうする?結ちゃんと共にしちゃうかな?
 高校生だからそのときになったら恭也君に任せるよ。
 もし恭也君が結ちゃんとセックスをやるとしても普通の事だと思う。
 お互いに好き同士だからね。欲望をとめることは出来ないから。
 でももし結ちゃんを止めるのなら、正気に戻すのなら、ある一言を言って欲しい。
 もちろんこれを言ったら恭也くんは結ちゃんから嫌われるかもしれない。
 でも確実に結ちゃんは正気に戻すことが出来るよ。
 その言葉は・・・・・・・・・」

 僕はお姉さんから聞かされた言葉を聞いて苦しくなった。
 なぜこの言葉で結さんが正気に戻るのかも不思議だった。
 そして僕は絶対にその言葉を言いたくは無いと思っていた。

「理由は絶対に聞かないでね。でもこれを言ったら結ちゃんは正気に戻る。
 そして恭也くんは確実に嫌われてしまう。絶対にね。
 だからその言葉は最終手段として聞いておいてね。
 お母さんにも恭也君に伝えて良いと言われてるから言った」

 結さんの悩みとは、なにかとても辛い過去があるのだろうか?
 家族みんなで結さんを守っている。
 そのなかに僕も入れてくれているそれだけで十分だった。今までは。
 付添人に僕を選んでくれていつも僕は結さんのそばに居れるんだから。
 最終手段の言葉。僕は絶対に使わないで居たいとおもう。
 でも結さんがもし感情の決壊が崩れてしまったら、どうするんだろう。

「僕には結さんがそのようになるとは思わないです。」
「それはどうだろうね、本当に好きだからこそ、男と女の本当の姿が見えるんじゃない?」
 人は理性を保って生きている。
 しかしお互いに好きな人が傍にいたらどうなるのか。
 男と女の本当の姿とは。とても簡単な話だ。
 人は愛し合いそして繁栄してきた。愛したから繁栄するのではない。
 愛する人と身体を重ねて子孫を増やしていったからだ。
 僕と結さんは愛し合っている。そうなればいつかはセックスをするだろう。
 高校生だからという問題ではない。高校生ともなればしっかりと男と女になっている。
 男と女の身体だ。そして男は女性としたいと思っている。
 しかし逆に言うと『まだ』高校生でもある。
 自分たちで生活基盤が出来ない。大人でもあり子供でもあるという時期だ。
 やっぱり親というものは必要な時期でもあるのだ。
 だからといって愛し合う男女だからセックスも時間の問題でもあるのだ。

 お姉さんは僕に釘をさしてきたのだろうか。
 好きだからといってもしっかりと考えて行動しなさい。
 結さんがもし僕の事が好きで決壊が崩れて迫ってきたら、
 絶対に僕も結さんとしたくて絶対にセックスするだろうな・・・。
 愛する女性から迫られてきてセックスをやらない男って居るのだろうか。

          ☆彡

「智、今日はどうだった?」
 智との会話も久しぶりに思う。
「結の家族って本当にいいね。とても暖かい家族だった。
 しっかりと僕を僕と認めてくれる場所だったよ。嬉しかった。」

「また一緒に行こうな」
「うん、でも次は結を家に招待したいよ」

 結さんを家にか・・・。
 智と同じく僕もいつか結さんに来て欲しいと思った。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み