第四章;第十一話

文字数 2,953文字

「恭也くん、結ちゃんの事は本気で好きなんだね。
 とても嬉しいけど結ちゃんには誰にも言えない秘密があるの。
 そのことはしっかりと頭に入れておいてくれる?
 それと大輔の事だけど、もう二度と戻ってこないと思う。」
 お母さんの言葉に僕は寂しかった。
 もう二度と大輔と会うことが出来ない。
 僕の一番の親友だった。会えないのはとても辛いことだった。
「大輔に何があったんですか?」
 僕はその一言が聞きたいと思った。
「大輔は結が来たから、もう二度と会えなくなったの。
 恭也くん、一つ聞いていい?
 大輔に会うのなら結ちゃんとは二度と会えなくなる。
 結ちゃんと一緒に居たいのなら大輔とは二度と会えなくなる。
 必ずどっちかを選ばないといけないとしたら、恭也くんはどっちを選ぶのかな?」
 こんなときに最悪の究極の選択かよ。
 両方とも必ず辛い別れがあるじゃないかよ。
 大輔にも結さんにも一緒に居て欲しいよ。
 この最悪な究極の選択。必ずどちらかを選べというのかよ。
 僕は悩んだ。悩んだ結果、僕が出した答えだ。

「僕は愛する結さんを選びます。でも本音は二人とも居て欲しいです」

「恭也くんはなぜ結ちゃんを選んだの?」
「大親友と愛する人のどちらかを選ぶのか。そこで愛する人を選びました」
 究極の選択、大親友と愛する人のどちらかを選ぶ。
 とても苦しい選択だ。とても辛い選択だった。

「結ちゃん、恭也君の気持ちを知った上でどう?」

「明日、恭也に話をしようと思ってたんだけど、
 私も恭也の事を愛してます。もういまさらの事だけどね。
 私は常に大輔の事が頭の中にあるの。
 詳しくは言えないけど、大輔が来たら結は消える。
 私が居る限り大輔は居ない。二人同時に居ることはできないの。
 私は恭也の事は本気で好きだよ。でも大輔が来たら私は居なくなるんだよ。
 そのとき恭也はどうなるの?それを考えたらすごく辛いの。
 なぜ恭也は私の事を愛したの?なんで大輔じゃなく私を選んだの?
 こんなに我儘(わがまま)で自分勝手でいつも恭也を困らせるのに、
 なんでこんなに私の事を愛しているの?
 私はこんな女の子は絶対に嫌いだよ。絶対に付き合いたくないよ。
 いろいろと振り回されて問題を起こして、
 好きな人に我儘を言い放題で、だから私は思うんだよ。
 こんな女の子と付き合うって無理だと思うよ。

 でも恭也はそんな私の事が好きって意味がわからないよ。
 恭也の事は大好きだよ。とっても愛してるよ。
 だからこそこんな僕の事を嫌いになって欲しいって思ってるんだよ。
 とっても優しくて頼ってしまう。一緒に居たいっておもう。
 本気で好きだからこそ、本気で愛しているからこそ思うんだよ。
 恭也にはもっと良い人と付き合って欲しいんだよ。
 恭也に本当に幸せになって欲しいんだよ。」

 なぜ結さんが居たら大輔が居なくなるのか。
 大輔が居たら結さんが居なくなるのかわからない。
 そこは太一の言っていた絶対に解決をしない問題なのだろう。
 でも結さんの本当の苦しみは僕の事だったことに驚いていた。
 僕の事を本気で想っているからこそ僕から離れたかった。
 しかし、結さんは僕の事を本気で好きだからこそ離れられない。
 別れなくてはいけないけど別れたくない。
 それなら何故別れなくてはいけないんだ?
 自分が男の子ならこんな女の子と付き合いたくない?
 だから僕とは別れなければいけない?
 そうしないと僕の幸せは無いからだと?
 なんで僕が結さんを愛したのだと?

「結さん、僕は結さんが好きなんだよ。結さんだけを愛しているんだよ。
 智が言ったよね。恋愛は理屈じゃないって。
 僕は結さんのことが大好きだ。結さんは誰が好きなの?
 そういうことじゃないの?ただそれだけじゃないの?
 僕は結さんと神社で初めて出会った。僕は一目惚れしたんだ。
 結さんと一緒に居て結さんの事が判ってきた。
 絶対に人に弱みを見せたくないという結さんが好きだよ。
 我儘だって他人に見せないよね?僕だけに見せてくれてるよね?
 結さんは僕だけには本当の事を言ってくれていたし、
 誰にも見せない顔を僕だけに見せてくれたよね?
 なんでこんな素敵な子を嫌いになれるの?
 嫌いになって欲しいって無理だよ。だって本気で愛してるから。
 一緒に居たいと思っているってそれは結さんの本音だよね?
 なんで結さんは本心や本音に従わないの?
 結さんは自分に自信が無いだけじゃないの?
 僕にもっと良い人と付き合って欲しい?僕に本当に幸せになって欲しい?
 それならはっきり言うよ。結さん、僕と付き合ってください。」

 絶対に人前で泣いた事の無い結さんが涙を流している。
 目を瞑り、時々目を開けては僕を見る。
 僕の言葉から一体どれだけ時間が流れたのだろう。
 短いようですごく長く感じる時が流れている。
 時々、結さんの息遣いが聞こえる。すごく悩んでいるのがわかる。
 話そうとして言葉を飲み込む。その繰り返しを結さんはしていた。
 僕は黙って結さんを見つめている。
 僕から話すことは無い。結さんからの答えを待つだけだ。
 
「恭也、私も愛しています。これからもよろしくお願いします」

 僕は手を差し出した。
 僕の手を結さんが掴んだ。
 結さんが大粒の涙を流していた。

「僕のほうこそ、よろしくお願いします」
 僕は結さんの手をしっかりと握った。
 やべえ、マジですごく嬉しいよ。
 彼女が出来るってこんなに嬉しいものだったか?
 それは違う、彼女が結さんだからこそ嬉しいんだ。
 本気で好きな人に愛してもらえて、
 ただの一目惚れの片思いだと思っていて、
 それが両想いになって、でも付き合うことが出来なくて、
 お互いに好きなのに付き合うことが出来なくて、
 やっとの想いで付き合うことが出来たんだ。
 本当に愛する人と付き合うことが出来たんだ。
 だから本当に僕は嬉しい。

 こういうときにお母さんが目の前に居るのな。
 結さんとキスしたいのに出来ないという辛さ。
 本当に結さんって家族に守られているんだよな。

「結さん、何で明日に話そうって気になったの?
 実際には今日になったんだけど、未来さんとなにか話したの?」
「恭也、結さんじゃなくて結でいいよ。
 みんなそう言ってるし恭也にもそう言って欲しい。
 未来ちゃんとはいろいろと聞いたかな。
 付き合ったら何が変わるの?とかいろいろと聞いてたよ」
「結。やっぱ慣れないな。結、本当にありがとう」
 いきなり結と呼んで欲しいって言われても恥ずかしいものがある。
 やっぱりいろいろと変わることがあるんだな。
 結と僕と二人で頑張っていこうとおもう。

「恭也、私こそありがとう。これから頑張って行こうね」
 結さんと目が合うとやっぱり恥ずかしく思う。

「恭也くん、結ちゃん本当におめでとう。
 これからいろいろと変っていくわよ。頑張ってね」
 お母さんの言葉になにか重さを感じてしまう。

 ここからやっと僕たち二人のスタートが始まるんだ。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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