最終章;第十二話

文字数 2,827文字

 面会時間も終わり、私は今日の出来事を思い出していた。
 特に恭也の両親のお話を思い出している。
 恭也のご両親はお仕事が忙しくて、
 子供達にあまり愛情を注ぐことはしていかなかった。
 とくにお父さんは医科大卒で外科の先生、
 お母さんは婦人科の先生で今は看護師長。
 とても優秀なご両親でどういう気持ちだったんだろう?
 そして恭也に智くんという弟が出来ると、
 恭也は智くんの面倒を良く見るようになった。
(そういえば智くんは恭也にとてもべったりだったな)
 でも私が合宿のとき智くんはどうしていたんだろう?
 恭也は8月1日から10日までずっと私の傍に居てくれた。
 このとき智くんはどういう生活だったんだろう?

 そういえば智くんが私とお姉ちゃんを病院で見たとき、
 お母さんと一緒に病院に来ていたと言っていた。
 そして家での会話は私の話一色だと言っていた。
 恭也が生まれて智くんが生まれてしばらくの間は、
 ご両親は二人の子供にかまってあげれなかったけれど、
 今はちゃんと向き合えているってことなんじゃないのかなと思った。
 私が結となったのは今年の6月1日のことで半年しか経っていない。
 智くんとの出会いは12月からじゃなかっただろうか?

 私の親は母親しか居ない。
 父親は私が幼稚園のときに事故で亡くなったと聞いている。
 だからお母さんのことを私はとても大切に思う。
 とっても大切な私の大好きなお母さん。
 そして成績優秀でスポーツ万能のお姉ちゃん。
 私は結としてお姉ちゃんになりたいと思って頑張っているように思う。
 合宿のときに恭也が言ったっけ。
「すごく無理をしているように思う」って。
 暑くて熱気にやられていても私は無理をしてランニングをしていた。
「頑張らないとお姉ちゃんに追い付かないよ」
 私は恭也にそう言ったっけ。
 結局無理がたたって、いつものように熱が出て寝込んだ気がする。
 恭也が私の傍に居てくれたからよかったと思うことが沢山ある。

 私が苛められて居る男子生徒を助けに行って、
 結局、私がボコられて居るときも、
 恭也が助けてくれて病院連れて行ってくれた。
 付添人が必要なときも私の家族の前で土下座してお願いしてたっけ。
 それから毎日ずっと私の横に居続けてずっと私を守ってくれた。
 私は絶対にお付き合いは出来ないって意地を張っていたときも、
 恭也はずっと私のことを待ち続けていてくれた。
 そして私への告白。
 恭也とお付き合いを始めてからというもの、
 私は付き合うというのは、一体どういうことなのか悩んでいた。
 でも悩むことは無かったんだよね。
 もう私達はお互いにとっても大切な存在になっていたんだから。
 私の心の中には恭也が居て、恭也の心の中には私が居る。
 相手の心の中に自分の居場所と言うものがある。
 大好きでとっても大切な人。
 愛していてとっても必要な人。
 お互いにお互いががそのように想い合っていたら、
 もう私達はとっくに付き合っていたんだと言うことを知った。
 とっくに付き合ってて、付き合っていると言う自覚が無くて、
 言葉で付き合うというようになっていたから、
 私には付き合うと言う意味がわからなかった。

 -私達はすでに愛し合っていて、お付き合いを始めていたんだ-

「恭也、私は恭也のこと本気で愛しています。
 いつまででも一緒に居たいよ。恭也の笑顔が見たいよ。
 恭也の声が聞きたいよ、本当に大好きだよ、恭也」
 私は恭也の頬にキスをした。
 恭也はひげが生えていた。
 もう3日も横になって動いていないんだ。
 私は恭也の胸に頭を置いた。
 恭也の心臓の鼓動が聞こえてくる。
 ちゃんとしっかり動いているのにな。
 意識が戻らないって何でなのかな?
 恭也は私ともう会いたくないのかな?
 そう思ったときなんか動いたように感じた。
 私は驚いて頭を上げた。
(いま、恭也が動いた気がした)
 私が恭也の耳元で話しかける。
「恭也。恭也。聞こえる?私だよ、結だよ」
 でも目を覚まさない。
「恭也、私だよ、結だよ。聞こえてる?聞こえてるのなら目を開けて」
 私は恭也の左手を握った。
「恭也、私が手を握っているのが判る?」
 まぶたがちょっと動いた気がする。
 私は恭也の頬にキスをした。
「恭也、私だよ、結だよ」
 徐々に恭也のまぶたが開き始めて、そして目を開ける。
「恭也、ちょっと待っていてね。今、看護師さんを呼ぶからね」
 私は急いでナースコールのボタンを押した。
「恭也、私が判る?判ったらうなずいてくれる?」
 恭也は上下に頭を動かした。
 看護師さんたちが病室に入ってきた。
「恭也が目を覚ました!」
 その声に驚き、恭也のところに看護師さんが集まり出す。
 恭也に呼びかける看護師さんや、
 口のチューブを取る看護師さんも居た。
 看護師さんたちが恭也の周りに集まってきたので、
 私は立ち入り口のところまで離れた。

 私は涙が止まらなくなってしまっていた。
 看護師さんの一人が来て私に言う。
「もう大丈夫みたいだよ。本当に良く頑張ったね」
「恭也の横に行っていい?」
 看護師さんは私を恭也の横に連れて行ってくれた。

「結、一緒に居てくれてありがとう」
 恭也の最初の一言だ。
「すごい心配した。もう二度と私から離れないでほしい」
「わかった。絶対に結から離れないよ」
 私の泣き声が病室に響いていた。
「結、大丈夫だから泣かないで」
 泣くなと言われて泣き止むことはない。
 涙が止まらない。止まらないんだよ。

 落ち着いたころ私は恭也の意識が戻ったことを、
 お母さん、お姉ちゃん、太一、未来ちゃん、智くんにメールをした。
「もう安心していいから、今日はゆっくりと睡眠をとりなさい」
「もう大丈夫だね。夕ご飯は食べた?食べたら寝ること」
「結、よかったな。明日、未来と行くから恭也によろしく」
「結ちゃんよかったね。今日はゆっくりと寝てね」
「結、お兄ちゃんのこと本当にありがとう。
 両親には俺から伝えておくよ。ありがとう、結お姉ちゃん」
 返信が次々と来た。
「結、もう大丈夫だから、結ももう遅いから寝ような」
 でも私は眠ることが出来ない。
 もし朝になったら恭也が目覚めなくなっていたら?
 そう考えてしまうと怖くて寝ることが出来ないのだった。
「大丈夫だよ。大好きな人を置いていくようなことはしません」
「冗談でもそういうことは言わないで。すごく不安になってくるから」
「ごめん、でも本当に結のことが心配だからどこにも行かない」
 私は恭也のベッドに頭を乗せた。
 恭也が私の頭をなでてくれた。
 その優しい心地良いなで方になぜかすごく気が休まっていた。
 そして私は眠りに付いてしまった。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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