最終章;第八話

文字数 2,823文字

 太一の処分は無いに等しいものだった。
 私の付添人になって私の学校生活を守ると言うものだった。
「恭也だけでなくて太一も私の付添人になるとはね」
「恭也だと学校が違うから守りきれないからだろうよ」
 なんというか私がなぜ第一高に編入学させられたのかという
 基本的な問題に発展しそうな感じだ。
『もしものことが起きたらいけないから』という理由だったように思う。
 でも第一高校に編入してから逆に問題が大きくなっていないか?
 そのように考えると『なぜ神様は私を女性にしたんだ?』
 と言う疑問が出てくるように私は感じる。
 大輔時代のままでよかったのか?と言うと良くなかった。
 家族関係は最悪で学校成績や態度も最悪の状態だった。
 もちろんお付き合いする異性なぞ存在するわけも無く、
 親友の恭也だけがいるという生活だったことだろう。
 私が女の子になり結として生き始めたから、
 とっても優しい家族、私を大切にしてくれる彼氏としての恭也、
 そしてとても大切な親友やお友達、先輩達に囲まれているのだ。
 神様が私を女性にさせてくれたことについては、
 良かったことだということになるし、第一高校に編入学が出来て、
 この第一高校での高校生活を過ごせることは良いことだ。

(お母さんやお姉ちゃんの考えていたことが正しいことになるのか)
 私にはそう思うしかないように感じる。
 そして家族会議で決めたことの一つで、
『太一くんと真奈ちゃんのそばから離れないこと』
 その取り決めも学校認定で太一の付添人という形で決まった。
 家族だけの決定だけでなく学校をも巻き込んで決まっていく。
 私の門限についてもさらに厳しくされていくんだろうな。
 私にはそう思えてくるのであった。

「太一、付添人に決まったから話しておくね」
 太一は何か他に問題ごとがあるのか?という顔をして警戒していた。
「私の家の門限が平日夜8時で休日夜9時だからね」
「平日が夜8時で休日が夜9時?!それは早すぎじゃねえか?
 確か未来の門限は夜10時だったように思うぞ?」
 太一の言葉にやっぱり女の子は門限が決まっているんだなと思った。
 でも未来ちゃんは門限10時かいいなぁ……。
「恭也が嘆いてたけど、結って本当に家族に守られているよな」
 これは守られているっていうものなのだろうか?
 家族に拘束されていると言う感じがするのだけど、どうだろう?
「家族からしたら、とても大切な家族である結に
 もしものことがあったらいけないと思うのはわかる気がするけど
 そこまで厳しくされるとすごく息苦しくならないか?」
「息苦しさはすごく感じるよ。そしてすごく守られていることも判る。
 拘束されすぎている気もしているし、辛く感じるかな。
 でも私って色々と問題を起こしているし、それだからだと思う」
 家族会議のときに言われたことを思い出す。
 私は女性になった最初のときより筋力も体力も弱くなった。
 男性と女性はやっぱり力比べをして力勝負をして勝てない。
 最初の喧嘩のときにそれを身を持って知った。
 男性に私は何発も殴りかけてもびくともしなかった。
 逆に顔を殴られお腹を殴られたった二発で私はダウンした。
 その後に怒りまくった男三人に蹴り続けられていた。
 そして恭也に助けられて病院に運び込まれた。
 今回の安西くんにしても同じようなことがいえる。
 ヒョロっと細い安西君に両肩を強く掴まれて身動きが出来なくなった。
 怒られ怒鳴られ、体中が怖さで震えて何も出来なかった。
 そして太一に助けられて保健室に連れてもらった。

 私は完全な女の子となってしまっているんだ。
 さらに強気で勝ち気な正義感の強い女の子でもない。
 ただの普通の女子高校生の三浦結なんだ。

「私って本当に駄目な女の子だよね……」
「どこら辺が?」
「私一人で何も解決できなくてみんなに迷惑を掛けているところかな」
 いつも恭也に助けられていて、優しい恭也に甘えていて、
 それで今は太一まで巻き込んでしまっている事実。

「誰にだってあるんだよ
 人には言えない苦しみが
 誰にだってあるんだよ
 人には言えない悲しみが
 ただ黙っているだけなんだよ
 言えば愚痴になるから」

「それ誰の言葉なの?」
「聞いたことが無いか?相田みつをさん」

 私の悩みを的確に突いてくる答えがある。
 私と同じような悩みを他の人は乗り越えてきたのだろうか?
 人それぞれの色々な悩みを乗り越えてきたから、
 このような偉人達の言葉があるんだろう。

「太一ってすごいね。色々なことを知ってる」
「成績は結の方が上じゃねえかよ」
「成績がよくても駄目だよ。苦しんでいる人を見つけたときに、
 その人に手を差し伸べることが出来る勇気ある人の方がすごいと思う」
「どうでもいいやつには手を差し伸べないよ。結だから差し伸べてる」
「それって告白?」
「ば~か。違うよ。大切な親友だからだよ」
 お姉ちゃんに言われたっけ。
『普通の女の子よりとっても可愛くて守りたいと思う女の子になってる』
 私は守られ続ける女の子というのは嫌なんだけどな。
 お互いに助け合って生きて行きたいと思う。
「太一、私に出来ることってあるのかな?」
「出来ること?結なら何でも出来るんじゃないか?」
「その何でもというものが聞きたい」
「それなら未来に料理を教えてやってくれ」
「太一と未来ちゃんの将来のために?」
「そういうんじゃねえよ。未来も悩んでいるんだよ。だから結に頼みたい」
 未来ちゃんの悩みというのはどういうものなのかは知らない。
 でも太一のことなんだろうと予想が出来る。
 もしかしたら未来ちゃんは本気で将来のことを考えているのかもしれない。
「料理でいいのならもちろん教えるよ。でもこんな私でいいの?」
 料理だったら太一や未来ちゃんのお母さんに聞いてみたり、
 私のお母さんやお姉ちゃんの方が料理は上手だと思う。
「結の料理はとても美味しいよ。恭也が本当にうらやましく思う。
 未来も結の料理の味がとても気に入ってる。だから頼みたいんだよ」
「私もお母さんやお姉ちゃんにいっぱい教えてもらって、
 未来ちゃんにも喜んでもらえるように頑張るね」
「ありがとうな、結。長話もこれで終わってさっさと帰りますか。
 門のところで未来や恭也が待ってるぞ」
「智くんも居たりして」私は笑って答えた。
「それだけみんなが結のことを好きだということだろうな」
 私達は帰り支度をして教室を後にした。

「太一!結ちゃん!こっちだよぉ!」
 校門から未来ちゃんの声が聞こえてくる。
 未来ちゃんと智くんが私達を見る。
 そして私の大切な人恭也も居てくれる。

 この大切な仲間が居るから私はとても幸せに感じる。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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