第二章;第三話

文字数 2,339文字

 田端美耶を見つけてから、
 僕は自分の行く先々で田端美耶と出会っていた。
 通学のバスの中や学校の廊下でよくすれ違っていた。
 特に部活動が同じだったということが驚きだった。

 いつも無表情で声を聞いたことが無い。
 誰とも話をすることも無く、
 誰からも話しかけられたことが無い。
 いつも一人ぼっちで居る女の子だった。

 専門書や小説など沢山の書籍がある図書館。
 今まで通っていた小学校や中学校でも、
 ここまで多くの書籍がある図書館は見たことが無かった。
 地域の図書館でもある第一高校の図書館は、
 私立にして市立図書館としても使われている為、
 市の発行している図書館利用カードが使える。
 学生は学生証でも貸出しが行われている。

 図書館司書は全部で8名。
 平日朝の7時から夜の9時まで利用が出来る。
 学校の無い休日のときは休館となる。
 多くの学生の勉強の助けになるのだが、
 他にも使用禁止になる時期がある。
 テスト期間になると生徒は午前中テストを行い、
 部活動も禁止となり、午後は完全下校状態になる。
 だからテスト期間中は図書館は使えない。

 僕は専門書が多くあるこの図書室が好きだ。
 この場所には知識が詰まっている。
 そして僕はこの図書館を使っている文芸部に入った。
 だから部活動は専門書や技術書を読むことが多く、
 他の部員には目もくれることはなかった。
 だからであろう僕と同じ部活に、
 田端美耶が居ることを知らなかったのだ。

 田端美耶は主に小説を読んでいる様子だった。
 特にミステリー小説を好んで読んでいる。
 ミステリー小説の他には推理小説を読んでいる。
 有名な作家の本はもちろんの事、
 名前の聞いたことが無い作家の作品も読んでいる。

「推理小説が好きなの?」
 僕は田端美耶に話しかけてみた。
 美耶は話しかけられて驚いた様子で僕を見た。
 メガネの奥から見える大きな瞳が僕を見つめた。

「べつに。面白そうな本を読んでいるだけ。」
 ぶっきらぼうな態度が美耶の性格を現しているように思った。
「たしか鈴木太一さんだっけ?いつも技術書を読んでいる」
 なぜか美耶は僕の読んでいる本を知っていた。

「よく知ってるね、僕の事」
「知ってるというほど、あなたの事は知らない」
 聞いてみると僕をよく見る場所が、
 技術書籍が置かれているコーナーだからそう思っただけという。
 たしかに僕をよく見かける場所が技術書コーナーで、
 そこから本を取り出して読んでいればそう思うわけだ。
 とても簡単なことだった。

 美耶は小説を立てて読み始めた。
「いつもそうしてるの?」
「そのようにって何?」
「だから、誰からも声をかけられたくないのかなと思ってさ」
 美耶は驚いた様子で僕を見た。
 そして一言、僕に言った。

「人生なんて虚しくつまらないものではないのかい」

 僕はこの台詞には聞き覚えがあった。
「シャーロックホームズ、引退した絵具屋」
 舞耶は僕の言葉を聞いてクスッと笑った。
「よく知っていたね。小説なんて読まないと思ってた」
「俺も小説は読むよ」
 美耶は意外そうな顔をして僕に言った。

「人は常に望んだとおりの成功を収めるとは限らない。」
「シャーロックホームズ、バスカヴィル家の犬 」

 美耶は立ち上がり、そして手にしていた本の借り
 図書室から出て行くのだった。

           ☆彡

 次の日、B組の僕の教室に美耶が来た。
「太一くん、今日の文芸部はお休みと先輩から連絡が来た。」
「連絡ありがとう、美耶」
 図書室で話すようになってから、
 僕は美耶とよく話すようになった。

「太一、あの田端と何があった?」
「何も無いよ。部活動のお休みの連絡に来ただけだよ。」
 しかし、ひろの言うとおり美耶は変わったように思えた。
 最初はぶっきらぼうな態度をしていたのだが、
 普通に会話が出来るようになっていた。

「未来ちゃんという可愛い彼女が居るのに、
 田端と付き合うとは許せない行為だ」
「未来は幼馴染だ。そして美耶とは付き合っていない」
 僕はひろに反論した。
「美耶と名前の呼び捨てが許されていて付き合ってないだと?」
 ひろの頭の中では、女の子の名前を呼び捨てに出来ると、
 即彼女認定となってしまうのか?

「美耶の事を知っていると言えるほど知ってないよ」
 この台詞はなぜか聞いたような気がする。
 美耶が言った言葉だ。

「知ってるというほど、あなたの事は知らない」
 僕は美耶の事を全く知っていない。
 美耶も僕の事を知らない。
 お互いにお互いの事をまだよく知らないのだ。

「別に相手の事を知ってから付き合うということも無いだろ?
 付き合ってから相手の事を知っても良いと思うんだよ」
 ひろはなんて楽天的な考えをするものだと僕は思った。
 僕には相手の事を理解してから、
 お互いに納得した上で付き合いたいと思うからだ。

「付き合ってみてから自分と合わないと感じたらどうするんだ?」
 僕はひろに疑問をぶつけてみた。
「絶対に合わないと思ったら別れるだろうよ。
 でも自分の思い通りの女の子が居るように思えないんだよ。
 こういうところは好き、こういうところは嫌いと
 人って付き合って行くと好き嫌いは必ずあると思うんだ」

 ここはよく掘り下げて議論するべきなのだと思うが、
 敢えて掘り下げることはしない。
 人それぞれの価値観というものがあると思うからだ。
 僕はそのような考えには賛同できない。
 一つの考え方として聞いておくとしよう。

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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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