第三章;第二話

文字数 2,833文字

「今日はどうだった?」
 お姉さんが僕に聞いてくる。
 毎日、家族には今日の出来事を話すのだが
 今日は学校で洗礼や苦行を行った以外に、これといって思い出すことは無い。
 お母さんが帰ったときも同じ事を聞かれるのだが、洗礼と苦行の話をするのだった。

 このようなつまらない話でもお母さんとお姉さんは聞いてくれるのだった。
 僕の目をみてしっかりと聞いてくれるのだ。
 そして笑顔を見せてくれる。
 冷ややかな目をしない。
 とても暖かく見守ってくれる目をする。
 僕は苦行に耐え、厳しい戦いを乗り越え、
 心はボロボロになり倒れそうになるのだが、家族に救われている気がする。

「恭也に言うことがあった!明日、日直当番だった」
 今日の出来事を話していると、重大なことを思い出すのだった。
 そしてそのことを恭也に言っていないことに気が付く。
「何やってるの?恭也くんに連絡しなさい。」
 お母さんから言われ恭也に電話をするのだった。

「校門前で待っているから大丈夫ですよ。
 日直当番、頑張ってください」

 登下校は1人で居てはいけない。
 必ず学校が認めた付添人が同行しないといけない。
 僕に課せられた処分だ。
 そして今、恭也は僕の付添人の1人となっている。

 僕が退院する前日の事だった。
 恭也は病院にお見舞いに来た。
「もうすぐ退院だね。良かった」
 恭也はとても喜んでくれた。
 僕も退院できることがとても嬉しかった。
 しかしお姉さんが病院に来て学校の処分を聞いたとき、
 嬉しい気持ちが一気に冷めた。

 付添人が居ないと外出できない。
 学校への登校が認められない。
 付添人は学校が決めた人のみとする。
 どうしたらいいのか家族で話し合おうとお姉さんは言ってくれた。

 そのとき恭也が自分から付添人になりたいと言ってきた。
「これは私たち家族の問題だから」
 僕は恭也の申し出をはっきりと断った。
 しかし家族では解決できそうに無いことはわかっていた。
 だからと言って僕は恭也に頼むのは筋違いだと思うのだ。

 お母さんが僕の病室に入ってきて、
 学校の処分を聞いてから恭也の事をお母さんに話した。
「恭也くん、付添人になりたいって理由を聞かせてくれる?」
 お母さんは恭也に尋ねる。
「結さんの喧嘩の原因を作ったのは僕の責任だ」
 それが恭也の理由だった。

 お母さんは「その理由ならお断りします」と断った。
 原因があったとしても、喧嘩した本人は僕だ。
 そして恭也が責任を感じることは無く、付添人をする必要は全く無い。
「恭也くん、付添いは私がやるから心配ならしないでね」
 お姉さんの言葉で、僕はこの問題は終わったと思った。

 しかし恭也は諦めなかった。
「僕が絶対に結さんを守ります!お願いします!」
 そしてお母さんとお姉さんの前で土下座をしたのだ。
 僕は恭也の行動にはとても驚いた。
 しかしお母さんは全く動じることがなかった。

「もう一度聞きます。何故、結ちゃんの付添人になりたいの?」
 お母さんは恭也に再度聞くのだ。
「俺は結さんを守りたい。本気でそう思ったからです。」
 なぜ恭也は僕を守りたいと思っているのか。僕にはわからない。

 僕の気持ちも変わらなかった。
「恭也くん、これは僕の問題だからごめんね。」
 再度、僕は恭也の申し出をお断りした。
「恭也くんの気持ちはわかった。どうするかしばらく考えさせてね」
 お母さんは恭也に言うのだった。
 その日はそこで終わった。

 退院の日、お母さんとお姉さんが来てくれた。
「由依ちゃんと話し合って、付添人を恭也くんにも頼もうと思うの」
 突然のお母さんの言葉に、僕はとても驚いた。
 この問題に恭也を巻き込むことには絶対に反対だった。
「結ちゃんの言いたいことはわかる。気持ちも理解してるよ。
 でもね、こうすることが結ちゃんにとっても一番良いと思うの」
 そして恭也の付添人が決まった。
 学校との許可も得て、恭也と登校することになったのだ。

「結ちゃん、恭也くんのこと嫌い?」
 付添人の話をしているときにお姉さんが僕に聞いた。
「恭也の事、嫌いじゃないよ」
 好きか嫌いかと聞かれたらどう答えたらいいのかわからない。
 嫌いなのかと聞かれたら嫌いじゃないと答える。

 でも僕は考える。
 もしお姉さんが恭也の事を好きなの?と聞いてきたら、僕はどのように答えるだろう。
 好きじゃないと答えたら嘘になってしまう。でも好きと答えることは出来ない。
 恭也の事は友達だと思うのだ。友人として好きというのかな。
 でも恭也は僕の事をそのような目で見ていないと思うのだ。
 自分の責任で僕を大怪我をさせたなんて、
 恭也が勝手に思っていることだし、
 その責任があるから僕の付添人になりたいなんて、どう考えても見当違いだと思うのだ。
 そして僕を守りたいからと言って、お母さんとお姉さんに土下座までするって、
 やっぱりやりすぎだと僕は思うのだ。

「恭也ってなんであんなことをしたんだろう。」
 僕はお姉さんに聞いた。
「それは、結ちゃんの事を想っているからでしょ?」
「でも僕は男の子だよ?」
「結ちゃんは女の子でしょ?」
 身体は女の子になってしまったのだが、
 僕は心までは女の子にはなっていないと信じたい。

 男の子と女の子の友情は成立するんだろうか?
 僕は成立できないと思っていた。
 でも自分が女の子になり恭也の事を思うと、男女間の友情関係は成立できると思っている。

「それって自分の都合が入っているんじゃないの?」
 お姉さんに言われた。
 男で居るときは男女間の友情は成立しないと言っていて、
 女になって恭也くんの事を考えたら、男女間の友情は成立するって意見が変わるの?

「お姉ちゃんは男女間の友情は成立できると思う?」
「それは結ちゃんが自分で答えを出すんじゃない?」
 僕がそんな難しい問題の答えを出せるとは思わない。

「難しく考えないでいいと思うよ。いつか判ることだから、
 結ちゃんは素直に自分の気持ちを言えばいいの。
 恭也くんは自分から結ちゃんを守りたいと言ってきたの。
 それも結ちゃんが心で感じてみようよ」
 やっぱり僕にはとても難しいって思う。
 いつか判るってお姉さんは言ってくれてるけど僕はその答えを出せるのだろうか。

「お姉ちゃん、やっぱり僕には判らないよ。」
「そっか、今はそれでいいよ」

          ☆彡

「校門前で待っているから大丈夫ですよ。
 結さんは日直当番、頑張ってください」
 恭也の明るい声が聞こえてくる。

 ごめんね、恭也。
 なんか僕は心がチクチクと痛いんだ。
 恭也を巻き込んだことに心が痛むんだよ。
 ごめんね。恭也・・・。
 でも、ありがとう。


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登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

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