最終章;第六話

文字数 3,822文字

 私は恭也と智くんに家まで送ってもらった。
 そして玄関先で私は恭也と智くんと別れ、玄関の扉を開けた。
 今日は恭也の家で事件のことを話していたので、私は夕ご飯を食べていなかった。
 今日はお母さんが食事を作ってくれていた。
 ご飯を食べている時に左手首に巻かれている包帯を見られ、
 お母さんとお姉ちゃんにも今日起きた事件を話すことになった。
「結ちゃんのファンが増えてると聞いていて、
 私も気にはしてたけどついに問題が起きてしまったか」
 お姉ちゃんから色々なことを聞いた。
 私がアーチェリー全国大会優勝のときから上級生の二年のお姉ちゃんのところにも、
 私のことを聞きにくる人が急増したらしい。
 お母さんが教師をしている第三女子の生徒の間でも、
 私のことを話しているのを良く聞くとも聞いた。
 わざわざお母さんに直接逢いに来て、私のことを聞くこともあるらしい。
「結ちゃんが怪我をするという問題が実際に起きてしまったけど、
 これ以上起きないように何らかの対策をしないといけないわね」
 お母さんが言うけどどのように対策したらいいんだろう。
「私と同じクラスの太一と佐武真奈ちゃんにお願いしようと思うの。
 あとは私自身も軽率な行動はしないように心がける」
 今思いつくことはこれくらいしかなかった。
「あと担任の教師や部活の人にもに相談してみることかな。
 私の担任にもお友達にも話してみるからね」
 お姉ちゃんの話した通りに、担任や部活の先輩にも相談してみることにした。
「お母さんはちょっと考えがあるからそれをやってみるね」
 お母さんの考えは判らないけどお母さんに任せるしかなかった。
「あとはスマホの使用は禁止だけど、いつでも掛けてもいいよ
 家族の重大な事柄に関しては教師の許可があれば使えるから
 正にこれは家族の重大な事件の予防緊急処置だから」
 お姉ちゃんやお母さんのスマホに掛けるように対策がされた。

 ・常にいつもスマホを所持していること。
 ・何かあればすぐにお母さんやお姉さんに連絡すること。
 ・学校内では太一や真奈ちゃんと行動を共にすること。
 ・学校内では絶対に一人では行動しないこと。
 ・軽率な行動は絶対にしないこと。
 ・担任や他の教師にすぐに相談をすること。
 ・登下校や外出時には常に付添人(恭也)と行動を共にすること。
 などなど様々な意見が出されて決まっていった。
 それだけでなく夜間の外出のことにも触れられていった。

「結ちゃんが恭也くんとお付き合いしていくことになり、
 私達も恭也くんのことを見ていてよく知っているし安心はできるけど、
 やっぱり男の子と女の子のことだから家族としてはすごく心配なの。
 だから門限を決めさせてもらいたいと思っています。
 学校がある平日は部活があると思うから夜8時まで、
 お休みの日は夜9時までに家に帰っているようにして欲しいです」
 今まで門限というものが無かったから気が付かなかったけど、
 8時までとか9時までとかはっきり決められると
 私にはとても息苦しさを感じてしまう。
「恭也と一緒に居るのに夜8時とか夜9時までの門限なの?」
 それにしても門限というものは私自身を拘束されている感じがする。
 できたら今まで通りにさせて欲しいと思う。
「その時間までに結ちゃんがこの家に居ればいいんだよ。
 恭也くん達がこの家に一緒に居るのならそれでかまわないんだよ」
 お姉さんからそのように言われるのだけど息苦しい。
「恭也のことで何か不安なこととか不満なことがあるの?」
 私は聞いてみた。
「恭也くんには何も不満は無いよ。それは絶対に無いって言えるよ。
 結ちゃんのことですごく助けてもらってるし、私達も助かってるから。
 しかし結ちゃんは女の子で私達家族は守っていかなくてはいけないの。
 問題が起きてから対策するのは遅いの。今回の事件もそう。
 もっと早く対策を講じていたら事件は起きなかったのかもしれない。
 問題が起きてからではとても遅いの。だから門限を決めたの。
 もう一つ私達は結ちゃんのことで気になることがあるの。
 結ちゃんは女の子になった最初のときよりすごく弱くなってない?
 筋力も体力もかなり落ちてる気がする。
 その代わり持久力が向上してない?
 最初のときはボーイッシュな女の子という感じだったけど、
 今はとっても弱くて守ってあげたい女の子に変わってる。
 普通の女の子よりとっても可愛くて守りたいと思う女の子になってる」
 お姉ちゃんから言われて、私もそのように自分でも感じていた。
 安西くんに両肩を掴まれて力強く肩を握られフェンスに押されたとき
 私は両腕を胸に持っていって自分の身を守った。
 自分の胸を隠すような感じの動きだった。
 安西くんが怒って私に怒鳴っていたとき私は怖くて体中が震えた。
 とくに両足が震えていたことも覚えている。
 フェンスに押されて身動きが取れなくなってしまっていたし、
 安西くんが近づいてきたときは左手を出して拒否していた。
 そのときは右腕で胸を隠して自分の身を守っていた。
 もしこれが男の子になった最初のときの私だったら、
 これは考えなくてもわかる。そして誰もが私の意見に合意するだろう。
 苛められている男の子を助けるために、
 たった一人で三人の男の子に殴りかかっていた私だ。
 今回の事件での私の行動はこのようになるだろう。
 私は「きもいわ!」とか「ふざけるな!」とか言っていて、
 安西くんに殴りかかっていたに違いない。
 少なくとも腕を掴まれて捻って捻挫するという事態にはならない。

 そして太一に助けられて安心して泣いた。
 人前で私は泣き顔を見せることが無かった私が太一の前で泣いた。
 それだけでなく恭也の部屋で恭也に引き寄せられたときも
 私はすごく安心してしまって恭也の胸で涙を流した。
 守って欲しいときに恭也が私の傍に居ないことも辛くて泣いた。
 人前でよく涙を流すようになった気がする。
 自分ですべてをやっていこうとして実際には何も出来なくて、
 恭也と一緒に居ることがすごく嬉しくて、
 でも守って欲しいときに居なくて、
 恭也に頼っていた分、自分ではさらに何も出来なくなっていて、
 そして太一が学校で守ってくれるようになっていて、
 それで私はさらに何も自分では出来ない子になっていくのだろう。

 安西くんは筋肉質な子じゃない。
 それなのに私は何もかも負けてしまった。
 太一が来てくれて私を助けてくれたから私は助かった。
 私から安西くんを引き離してくれなかったらどうなってたんだろう。
 引き離してくれても私は怖さで震え立っていることさえできなかった。
 すべてお姉ちゃんの言ったとおりだ。
 私は筋力も体力も普通の女の子以下になっていると感じる。

 私が女の子の身体になって半年が過ぎ、肉体的にも体力的にも女の子になっている。
 これからどのように変わっていくのだろう。
 本当にこの身体のことはどうなっていくのか予想が付かない。
 そしてそのことは私の最大の悩みになっている。
 さらに恭也と付き合うようになり女の子感がさらに増してきた。
 女子力とかそういう問題ではない。
 女の子として生きていくための術とでも言うのだろうか。
 性別としての女性として生きていくためにはというものだ。
 心の気持ちとか心の持ち様というものだけでなくて、
 自分の想いが身体にもそれによって変化している気がした。

 恭也との告白があって私は恭也の彼女になった。
 私は男の子を愛するという感情が芽生えていたんだ。
 恭也に甘えるということも、私にはもう出来ていた。
 恭也に守られているという安心感が私にはあったんだ。
 もう私はすでに完全な女の子として生きていたんだ。

 なんだろう。
 おへその下の辺りがきゅーってしてくる感じがする。
 恭也のことを考えたから?
 今、恭也の顔が頭に浮かんだから?
 胸の鼓動が早くなってくるのを感じる。
 ちょっと身体が火照ってきた感じがする。
 特におへその下あたりがきゅーってしてくる。
 両足を閉じて力が入ってくる。
 股の辺りからキュンキュンしてくる感じがする。

「結ちゃん、門限のこと理解できた?」
 お姉さんが私の顔を覗き込んで話してきた。
 私はお姉さんの顔を見て、そして両手で口を覆った。
(私、恭也のことを考えていたら身体がなんかおかしい……)
「結ちゃん、どうしたの?身体の調子がおかしいの?」
 お母さんが私の異変に気が付いていた。
「お母さん、私、恭也のことを考えたらなんか身体が……」
 お母さんが私の横に座り私を抱き寄せた。
「お母さん、なんか身体がおかしいよ。何?この感覚……」
 徐々に身体が火照ってきて徐々におかしくなってくる。
「結ちゃん、まさか。嘘でしょ?」
 お姉ちゃんが私を見て言った。
「大丈夫だよ。ゆっくり深呼吸して落ち着いてみようか。
 結ちゃんが本当に女の子になっていて、
 恭也くんのことを本気で愛しているという証拠だから」
 私はお母さんにぎゅっと抱きしめられていた。
 そしてゆっくりと落ち着きはじめていた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三浦大輔(みうらだいすけ);県立城北第二高校1年生。

恭也の親友。現実派。母親と姉の事が嫌い。

三浦 結(みうら ゆう);私立城北第一高校1年生。

大輔の従妹ということになっている。

勝気で短気・頑固。涙脆い。正義感が強い。

佐伯恭也(さえききょうや);県立城北第二高校1年生。

大輔の親友・小学校4年生からの幼馴染。三浦結が大好き。

三浦翔子(みうらしょうこ);私立城北女子第三高校の教師。

三浦由依・大輔・結の母親。

三浦由依(みうら ゆい);私立城北第一高校2年生。

三浦大輔・結の姉。

鈴木太一(すずきたいち);私立城北第一高校1年生。

負けず嫌い。未来の幼馴染。結のクラスメート。

四谷未来(よつや みく);私立城北女子第三高校1年生。

太一の家の隣に住んでいる。幼馴染。太一に恋心有り。夢見る乙女。

田端美耶(たばた みや);私立城北第一高校1年生。

いつも本を読んでいる。自分の伝えたい言葉を格言や台詞を使い話す。

佐伯 智(さえき とも);市立北浜中学校2年生。

佐伯恭也の弟。見た目は女の子だが完全な男の子。

結のことが大好き。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み