第151話 なんか嫌な予感がする

文字数 2,089文字

 7月の末に佐藤さんから、南町の盆踊りがあるからみんなで行かないかってLINEがあった。あたしは行くと答え、西野君に連絡してひなちゃんにも連絡してもらうって返信をもらった。数時間後、西野君からグループLINEに連絡があり「ひなちゃんも俺も行くわ」って言ってきたので、佐藤さんが「場所は鳳公園だから私の家に自転車停めていこうか?」と返信してきた。「鳳公園ってアリオの裏の?」と西野君。「そう。私の家のすぐ近くだから、家の駐輪所に自転車停めたら歩いて行ける」と佐藤さんは言う。「時間は?」「8月の17日か18日。開始時間は17時からだから、みんなの都合のいい時間で」という2人のやり取りを見てあたしは「金、土やからあたしはいつでもええよ」と答えた。「それなら、18日の17時半でどう? まだ明るいし、変なやつもおらんやろ」と西野君が送ってきたので、あたしたちはそれに賛同した。そこでLINEは終わった。

 佐藤さんの家で勉強会をした次の日に、あたしとひなちゃんは午前中のおりいぶ公園で会うことになっていた。あたしは水筒を持って、最近あたし専用にダイエーで買うようになったティーパックで抽出したジャスミンティーを水筒に入れておりいぶ公園に向かう。今年は本当に暑いなと思いながら、ハンドタオルで汗を拭いてひなちゃんに会いに行く。するといつも通りにひなちゃんが先に来ていた。
「おはよう、鹿渡。今日も暑いな」とひなちゃんが言う。あたしも「おはようひなちゃん。ホンマ暑いな」とひなちゃんの右側に座る。
「なんか今年の7月は観測史上最高の暑さやったそうやで」
「そうなんや」と言いながら、あたしは座った瞬間に汗が噴き出して、ハンドタオルで汗を拭く。
「そうなるやろ。俺もさっきまでそうやったわ。動いてるときはそんなに汗が出えへんねんな。でも止まったら一気に汗が噴き出すんや」
「ごめんな、ひなちゃん」とあたしは汗を拭う。
「そんなん、生理現象なんやから気にすることないよ」とひなちゃんは微笑むけど、あたしには気になる。自分もそういう年頃になったんやとなんか妙に納得した。guのキャップを脱いで汗を拭いていたら、なんか後ろの木の枝が頭に当たって気になった。
「なあ、ひなちゃん。この後ろの木って去年、こんなに成長していたっけ?」
「さあ、記憶にないけど。今年になって一気に成長したってのはあり得るな」
「なんか、さっきから頭に当たって気持ち悪いんですけど」
「なら席変わるか? 俺のところはちょうど木と木の隙間になって、障害物はないし」
「なら代わってくれへんかな? でもひなちゃんも気持ち悪いって言うなら、あたしは我慢するから」
「とりあえず、席変わるか」とひなちゃんが立ち上がったので、あたしも席を立ちあがり、場所を交換した。ひなちゃんが言うとおりに木陰なのに何も当たらない。
「ひなちゃんはどう?」とあたしは聞く。
「別に頭には何も当たらんわ。背後の圧迫感はあるけど」
「そやろ。やっぱりあたしがそっちに座ろうか?」
「それはいい。ここに俺が座るから。それにしても行政は他の木は切りまくってるのに、ここの木は切らんかったんやろうな?」
「そやな。こっちこそ剪定をしっかりしてほしいわ」

 2人して持参した水筒のジャスミンティーを飲みながら、たわいもないおしゃべりをする。3年になってひなちゃんと夏休みに合える機会も減るのかなと思っていたけど、勉強会のおかげで逆に増えた。嬉しいことだ。それに今はいつもと逆の位置に座ってるけど、これも以前のように強い違和感を覚えない。あたし、ひなちゃんのことをかわいいからって、守ってあげたいか弱い女の子って思いこんでいたのかな? 今となっては少しくらいだけど、ひなちゃんは女の子じゃなくて男の子って気持ちもある。だからそんなに違和感を覚えないのかなぁ。まあ、考えてもよく分からないや。
「そうや、鹿渡。今度の盆踊りやけどな」
「なに? 急に行かれへんようになったとかやめてや」
「それはないねんけど…。新太が盛大にやりよってん」
「何やったん?」
「俺のパソコンにメールせんと母さんのLINEに連絡してん」
「えっ、それで問題があるん?」
「それから、母さんがなんかこそこそ裏でやってるみたいやねんな。もしかしたら鹿渡のお母さんも巻き込んでなんかやるかも…」
「それは嫌やな。でもおかあちゃんならやりそうで怖いわ」
「俺の母さんなんてやりそうってレベルやないねん。絶対なんかやってくる。ホンマ嫌な予感しかせえへんわ」
「やってくるって具体的にどんなことやりそうなん?」
「それを分かっていたら、俺も対策取れるねんけどな。でも何しでかすか全然わからん。だから、もし鹿渡を巻き込んだらごめんな。今のうちに謝っておくわ」
ひなちゃんのお母さんって、あたしにとっては優しいお母さんなんだけど、ひなちゃんにとっては何しでかすか分からない怖いお母さんなんだなと思った。そう言えば、ひなちゃんのお母さんは娘が欲しいとか言っていたから、当日ひなちゃんに浴衣着せたりしてと思ったけど、さすがにそれはないかとあたしは心の中で笑っていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み