第24話 コーナン自転車

文字数 1,337文字

 あたしの席の周りでいつものメンバーでおしゃべりしていると、となりでひなちゃんと西野君が二人っきりで話をしてた。あたしは急に何を話してるか気になって「ねぇ、ひなちゃん。何の話しているの?」とひなちゃんに聞いた。ひなちゃんと西野君はお互いに顔を合わせて、なんて言ったらいいのかなって感じになった。あたしは変なこと聞いちゃったかなと思ったけど、ひなちゃんのことは気になるしひなちゃんのすべてをあたしは知りたい。そんな(よこしま)な欲望が勝ってしまった。
「なんていうか、自転車の話かな?」とひなちゃんが答えた。
「5月末の土曜日に、新太が野球部の練習試合で原山台中学まで自転車で行ったんやって」
「原山台って泉北高速鉄道の(とが)美木多(みきた)駅の向こう側やんな。めっちゃ遠いやん」
「そうやねん。片道1時間くらいかかったわ」と西野君が答えた。
「今でさえ俺たち自転車に乗れるけど、小3まで乗れなかってんで」とひなちゃんが言う。
「へ~。そうなんや」
「俺もひなちゃんも自転車持ってなかってん。そしたら親父が職場の同僚の人からもう使ってないからって子供用の自転車もらってきてな。それで二人して俺んちの前の公園で自転車乗る練習始めたんや。哲也さんも手伝ってくれてな」
「ひなちゃんも自転車持ってなかったんや」
「そうやで。俺は母さんの小さな電動自転車の後ろに乗っていたからなぁ」
「でもひなちゃん、上達めっちゃ早いねん。すぐ乗れるようになったわ。俺なんかなかなかうまく乗れずに時間かかったけどな」と西野君が言うと山崎が「意外やわ。西野の方が運動神経良さそうやのに」と口を挟んだ。そして佐竹が「野球部レギュラーやしな」と続ける。
「何言ってるねん、ひなちゃんの方が運動神経はええんやで。そもそも俺が野球教えてもらったのはひなちゃんからやし」
「そうなんや」と適当な相槌を打って、あたしはひなちゃんの意外な一面を知る。ひなちゃんは運動もできるんやと。
「それで今は二人どんな自転車乗ってるん?」と聞いた。するとひなちゃんは「俺は今も自分の自転車持ってないから、母さんの電動自転車を借りる感じやな」と答えた。
「俺はコーナン自転車。中学入るときに買ってもらった」
「あたしもコーナン自転車やわ」
「どこのコーナンで買ったん、俺は第二阪和鳳店(だいにはんわおおとりてん)
「あたしは高石富木店(たかいしとのきてん)やな。結構うちから近いねん」
「俺買いに行ったとき、行きは親父が車で送ってくれたんやけど、帰りは自分で買ったばかりの自転車に乗ってうちまで帰って来たわ」
「あたしもそうやったー」
「コーナン自転車は安いけど、変速機なしやから原山台みたいな登りはきついわ」
「そやな、登りは確かにきついわ」
「俺、自転車でいける公立高校に行きたいけど、毎日登りは嫌やわ」と西野君が言うと始業のチャイムが鳴って、そこで話は終わった。結局松本は一言も話さずか、とあたしはちょっとイライラした。でも最後に西野君が言っていた「自転車でいける公立高校」ってあたしにあるのかな。お父ちゃんやおかあちゃん出身の堺上(さかいかみ)高校は自転車どころか歩いても行けるけど、あたしの頭で入れるかなとなんだか不安になった。今度ひなちゃんに勉強教えてもらおうとぼんやり考えながら、今日もかわいいひなちゃんの横顔を見つめて一人自然と微笑んでいた。
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