第57話 みそ汁の具

文字数 1,353文字

 いつものメンバーで弁当を食べようとしたら、今日もひなちゃんと西野君が来た。ひなちゃんは当たり前のようにあたしの席の横に自分の机を並べる。西野君は「いつも悪いな」と言いながら松本の席の横に机を移動させる。この光景も何だか当たり前のようになってきた。もう別に清水さんに恨まれてもええわって感じ。
「松本、2学期に入ってからなんか弁当変わった?」と西野君が聞く。すると松本は小さな声で「できるだけ自分で作るようにしてる」と答えていた。それを聞いていた山崎、佐竹はにやにやしながら松本を見る。「そうか。それはすごいな」と西野君が言ったら、すかさず山崎は「松本は味噌汁も作るようになったもんな。どんな具入れてるん?」と松本に聞く。松本に家庭的アピールをさせたいんやなってあたしも察したので、黙って聞くことにした。
「私はネギに油揚げ」と言う松本に続いて山崎は「西野はどんな具が好きなん?」と間髪入れずに聞いた。そしたら西野君は「俺は愛さんが作った味噌汁なら何でも好きやで」と答えた。その答えに山崎はがっかりして身を乗り出して西野君に詰め寄る。
「その中でも1番好きな具は何なん?」
「ホンマ何でも好きやで。この時期やと茄子なんておいしいかな」
ここで話を終えたら不自然と思ったのか山崎はみんなに聞いた。
「みんなは何が1番好きなん?」
「俺は豆腐」とひなちゃんが答えると、佐竹は「私はジャガイモ」と続いたのであたしは「わかめ」と答えた。すると西野君が「俺も家では即席味噌汁が多いからわかめは好きやで」と言い、ちがうそっちやないとあたしが思ったら佐竹が「山崎は何が好きなん」と話題をずらしてくれた。
「私はキャベツ。ちょっと変わってるやろ。でもあのシャキシャキ感が好きやねん」
「俺、やっぱり豆腐やなくて、豆腐とわかめのコンボが1番好きやな」とひなちゃんは訂正したので、今度うちに栗ご飯を食べに来たときに作ろうかと思った。でも結局、西野君が1番好きな具材はわからずじまいだった。

「そう言えば、吹奏楽部全国大会やって。すごいな」とひなちゃんが急に話題を変えた。
「そやねん、私らでも信じられへんわ。東京に行くんやで」
「さすがに応援にはいかれへんな」
「気にせんとって、頑張って来るから」
「そう言えば、こないだ貸したCDのバリトンサックス担当の人、ウインズスコアの代表やで」
「えー、そうなん。うちらも使ってるわ」
何のことか意味の分からないあたしは山崎に聞いた。
「ウインズスコアって何?」
「ああ、楽譜の会社や。昔は定番曲しかなかったけど、最近は新しい曲の楽譜が手に入るねん。ありがたいことやで」
「そうなんや、ひなちゃんは本当にいろんなこと知ってるな」
「母さんが教えてくれただけやから」
「あのCD結構よかったで、あれで90年代なんやねんな」
「ライブ盤のDVDもあるで」
「ホンマ、それも貸して観てみたいわ」
「私にも貸して」と佐竹もすかさずに言う。
「ええで」とひなちゃんは言ったけど、あたし以外の女の子と仲良くしているのがなんか嫌な気分で、あたしは黙って一人で弁当を食べ切った。ひなちゃんはあたしのものなのにと拗ねていると、西野君があたしを見て気持ちはわかるよ的に軽く微笑んでいたのであたしは急に恥ずかしくなってしまい、お弁当箱を慌てて片付けていた。
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