第6話 弘子と制服

文字数 1,478文字

 ひなちゃんと一緒に帰る機会が多くなった。ひなちゃんはずっと体操服着ているけど、あたしはいつも制服。大きなあたしにとって制服はとてもかわいい女の子の服だから。
「鹿渡はいつも制服やな。動きにくくない?」ひなちゃんが聞く。
「だって制服かわいいから」
「別に鳳中の女子の制服ってそんなにかわいくないと思うけど…」
「あたしにはかわいいの。あたしが着れる服ってかわいいのないし、私服なんて男物ばかりやし」
「俺なんて女物ばっかりやで」
「ひなちゃんはかわいくて似合うからいいの!! 今度私服見せて」
「なに怒っているの? それに女物似合うって言われてもちっとも嬉しくないぞ。なんか俺を馬鹿にしている、鹿渡」
ひなちゃんは怒ったというより、またかみたいな顔であたしを見上げる。そのちょっと呆れた顔がこれまたかわいくて、思わずぎゅってしたくなる。
「めっちゃ褒めたの。あたしかわいくなりたいって子供のころから思っていたけど、理想と現実は全然違ってでかくなる一方なんだから。ひなちゃんにあこがれるよ」
「俺にあこがれてもな~。男物って鹿渡は普段はどんな服を着ているん」
「あたしはguとかユニクロとかしまむらの服。スカートは持ってないねん。ズボンやけど、あたしお尻が大きいからズボンだけは女物で上はだぼだぼ」
「鹿渡はスタイルいいからな」
「そこが嫌やねん。あたしみんなより胸もあるしお尻も大きいのが最近身長よりコンプレックスに感じるわ。でかい中学生が大人みたいな身体していて全然かわいくない。だから体操服は身体のラインが目立ちやすいし恥ずかしいから着たくない」
「あの、鹿渡さん。俺、一応男やねんけど、そんな女の子同士でする告白してもいいの?」
「ひなちゃんは特別。かわいいから問題ない」
「そんな問題なん?」
「ひなちゃんはあたしの憧れやから、いいの!」
あたしはつんとひなちゃんのほっぺをつつく。するとひなちゃんは驚いて一歩下がった。
「かわいい子にはかわいくない子の気持ちはわからんの。こんなに柔らかいほっぺして」
「鹿渡、俺思うんやけど、鹿渡はかわいい系じゃなくて綺麗系じゃないかな? 大人の女性的な」
踏切で止められてカンカンカーンって警報機の音にあたしは少しイライラする。
「ひなちゃんには分からないよ。あたしの気持ち」って言って自分で何言っているんだろうってなった。ひなちゃんは全然悪くないのに。最近かわいい女の子の時期がなく、大人の女になっていく自分の容姿に不安を感じている。何だか心と身体がうまくかみ合っていない感じ。だからかわいい女の子のようなひなちゃんにやきもちを焼いているのかな、あたし。
「ごめん、ひなちゃん」
「ううん、別にかまへんよ」とひなちゃんはあたしを見上げて、とっておきのかわいい笑顔を見せてくれた。そしたらなんだか自分が感じていたコンプレックスが些細なことに思えてきて、またひなちゃんをぎゅってしたくなった。帰り道の少しの時間だけでなく、ひなちゃんをずっと独占したくなる。
「今度、ダイエーに買い物行くの付き合ってくれる?」
「いいよ。いつ買い物行く?」
「明後日」とあたしは笑顔で言う。ひなちゃんは「明後日学校から帰ったら中央広場で待ち合わせしようか?」と答えてくれた。「うん」と答えたあたしはひなちゃんの小さな右手を握って歩く。ひなちゃんは何かを察したのか全く拒否しなかった。「ここ車が多いから危ないよ」と言うひなちゃんを無視して別れの交差点まで二人並んで歩く。「それじゃまた明日」ってひなちゃんは駅のほうに歩いて行った。あたしはその小さな後姿を見て「綺麗系か」と呟いていた。
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