第69話 布袋とグアバ酒

文字数 1,387文字

 昼間はまだ暑いけど、夕方になれば過ごしやすくなってきたこの頃なんだが、日が落ちるのが早くなり、以前よりひなちゃんと一緒に過ごせる時間が少なくなってきた感じがする。せっかくひなちゃんと2人きりでおしゃべりしているのに、なんだかそれが悲しい。これからは寒くもなっていくし、すぐ暗くなるしこの公園でのおしゃべりも出来なくなるのかな? それは嫌だな~なんて思いながらあたしはひなちゃんの横に座っている。
「そう言えば、鹿渡に紹介してもらった布袋にまた行ってきたわ」
「ご両親と?」
「そう。うちの両親お酒好きやし、あのレトロ感も堪らなくええし、何よりも串カツがうまいしの3拍子揃っていてめっちゃ気に入ってたわ」
「それはよかったわ。あたしも紹介したかいがあるわ」
「父さんと母さんはお任せコースで俺は好きなもん注文って感じやった」
「そうなん、うちはみんなお任せやわ」
「俺、エビあかんからな。鹿渡は苦手な食べ物とかないん?」
「何でも食べるけど、ちょっと貝類は苦手かな。でもカキフライは大丈夫やねんなー」
「へ~そうなんや。俺も貝類は苦手かな。あとイカ」
「おじいちゃんが言うには昔は貝柱とかタニシもあったらしいで」
「へ~タニシ。あの田んぼとかで見るジャンボタニシ?」
「ちゃうちゃう。普通のタニシや。醤油なんかで甘辛く煮てショウガなんかで臭み抜きをしてな。結構おいしかったらしいで。今はタニシを扱う業者も減ってるんとちゃうかな」
「へ~、1度食べてみたいな」
「あたしも食べてみたいけど、もうないわ」
「俺は銀杏が好きやな。季節限定やから食べまくってたら、マスターが銀杏中毒になるかもしれんっでって」
「へ~、そんなんあるんや」
「特に小さい子供は注意やって。俺も念のため食べるのやめたけどな。それにしてもお酒と合うんやろな~。ジョッキコーラで我慢したけど、うちの両親ガンガン焼酎飲んでな。なんか腹立ったわ」
「うちのお父ちゃんもビールガンガン飲むで」
「鹿渡のお母さんは何飲むん」
「酎ハイのレモンかな」
「甘いお酒が好きやって言ってたもんな。それやったらグアバ酒いけるんちゃう?」
「グアバ酒? そんなん布袋にあったけ?」
「今はないんやけど、夏にこの辺では珍しいグアバが手に入ったからいま果実酒として家で漬けているんやって。うまくいけば自家製グアバ酒としてお店に出す予定やそうや」
「それは知らんかった。でもグアバってどんな果物なん?」
「俺もよくわからんねんけど、トロピカルフルーツやそうや。これぞ南国って感じの香りらしいわ」
「それは楽しみやな。あたし、南国のフルーツなんてマンゴーとパイナップルくらいしか食べたことないわ」
「俺も楽しみなんやけど、お酒なんやよな~。ジュースがあればええんやけど」とひなちゃんは笑ったので、あたしも笑い返した。これひなちゃん20歳になれば絶対お酒飲みになるなと思いながら、あたしもひなちゃんと一緒にお酒が飲みたいと思った。絶対あたしが介抱されるなと思いながら。
「あたしも20歳になれば、ひなちゃんと一緒にお酒飲みたいなー」
「そやな、俺も鹿渡と一緒に飲んでみたいな」と言ってひなちゃんは空を見て何かを考えているみたいだった。あたしは「約束だよ」とひなちゃんの右手を固く握りしめるとひなちゃんもあたしの手を握り返してくれた。寒くなって来たからか、ひなちゃんの手がいつもよりも暖かく感じた。
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