第9話 甘いもの

文字数 1,754文字

 あたしとひなちゃんは野菜売り場から回り始めた。ほうれん草が意外に高い。でもひなちゃんにほうれん草と言ったので、仕方なくほうれん草をかごに入れる。本当は小松菜の方が安かったけど。それからキャベツ。今日は普段よりちょっと安い。みそ汁の具に安い豆腐を選び、卵を見る。まだ冷蔵庫に4個あったので今夜の手羽元のさっぱり煮に使ったら無くなるかなと思いながらも、弁当に卵焼きを入れなければ問題ないかと無視する。するとひなちゃんが「卵いらんのか?」と聞いてくる。あたしは「冷蔵庫にまだあるねん」と答えた。それからそろそろ切れそうなドレッシングを見に行く。あたしの後ろをぴょこぴょこ付いて来るひなちゃんがかわいいなと思いながら、ドレッシングの値段を見る。いつもと変わっていないなと思いまたスルーする。ひなちゃんがいるので鮮魚コーナーと冷凍食品は無視して、精肉コーナーに行くが手羽元もそんなに安くなく、ここに来る前に自然解凍で冷凍庫から出した分で十分だなと在庫を買うことをやめる。ひなちゃんはお肉を見て「こんなに高いんやー」と一人で言っている。そういえばひなちゃんお肉があまり好きではなかったなぁと何だか我が子を見る母親のような気持になる。ひなちゃん、お母さんと一緒に買い物行ったことがないのかなって思った。そしてプリマハムのベーコンをかごに入れて、牛乳を見に行く。いつも飲んでいる明治のおいしい牛乳を手に取るが、重くなるからいいやと元に戻した。お総菜コーナーでお父ちゃんの好きな鳥皮の中華風唐揚げを見るが、やっぱり今日はやめておこうと思った。するとひなちゃんが「鹿渡、こっち来て」とスイーツコーナーにあたしを呼んだ。
「鹿渡は甘いもの好き?」とひなちゃんが明らかに「好き」と言って欲しそうな顔であたしに聞く。「もちろん好きやで」と答えると、シュークリームを手に取って「これ買わへん?」と聞いてきたので、あたしは「ええよ」と返事した。ひなちゃんはシュークリームを1個かごに入れて、自分の分も手に取った。
「俺これ好きやねん。生クリームとカスタードのシュークリーム。あとで一緒に食べよう」とレジに向かおうとした。
「ちょっと待って」とひなちゃんを止めてベーカリーコーナーでパスコの超熟5枚切りを手に取りあたしもレジに向かった。ひなちゃんはご機嫌に「鹿渡が先に並んで」と言う。セミセルフレジでいつもの店員さんにスキャンしてもらい3番精算機で会計を済ませようとスヌーピーの財布からおかあちゃんから渡されているWAONカードを取り出すと、ひなちゃんがとなりの4番精算機に来た。ひなちゃんはポケットからがまくちを取り出し小銭で清算していた。
「ひなちゃん、財布がまくちなん?」
「うん、小学校の時からずっと使っているけど、なんかおかしい?」
「それ猫の模様? ひなちゃんは小物までかわいいなぁ。あたしなんかこれが精一杯やわ」とスヌーピーの財布を見せてあたしは笑った。

 買ったシュークリームを店内で食べるのはさすがにアウトなので、あたしたちはウイングス横の鳳東町おりいぶ公園のベンチで食べることにした。ただ一番近い東出口が喫茶ララの横を通らないといけないので、あたしたちはエスカレーターでララから死角になっている野菜の店にしだから肉の竹田屋の前を通ってウイングスを出た。すると左手にあるウイングスの駐車場の出入口となる道路を渡って、公園に向かう。変な動物のオブジェがあるところのベンチに座っていつものようにおしゃべりしながらシュークリームを食べた。ひなちゃんが甘いもの大好きだけど、両親が甘いものをあまり好きではないとか、西野君と食べたかったけど西野君も甘いものが苦手だとか言って、あたしと一緒に食べる甘いものがとてもおいしいとか言ってくれたので、あたしも何だかすごく嬉しくなっていつもより長話をしてしまった。もうこんなん完全に女の子やんかと思いながら。ふと、スマホを見るともうおかあちゃんが帰っている時間になっていて、あたしは「ご飯を作らないといけないから帰るね」とひなちゃんに言った。「こっちこそ引き留めてごめんな」と言うひなちゃんにバイバイと手を振り別れた帰り道、あたしはひなちゃんに今度お気に入りの冷菓子屋(ひやかしや)のスイーツを教えてあげようと思った。
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