第58話 100均電池とマツヤデンキ

文字数 1,557文字

 パソコンのワイアレスマウスの電池が切れたから、明日学校帰りに買ってきてくれとお父ちゃんに言われた。100均電池でええの? と聞いたらええよと言うので、あたしは学校の帰りにウイングスのセリアによることにした。
「ひなちゃん、帰りセリアによってもいい?」
「ええけど、なんか買うん」
「パソコンのマウスの電池。昨日突然切れてしまってな。予備もないから買いに行く」
「そうか。なら付き合うわ」とひなちゃんは言い「単4なん?」って聞いたから「単3やで」とあたしは答えた。でんでん坂を下ると空は晴れ渡ってもうすぐ10月と言うのにまだ暑かった。

 あたしたちは西出入り口から入ってすぐのエスカレーターで2階に上がると8月に撤退したマツヤデンキの跡が白い布みたいなので覆われていて通路と書かれた紙が貼ってあった。まるで迷路みたいやなと思い後ろのセリアに2人で行った。電池売り場でどれを買おうか迷っているあたしにひなちゃんが言う。
「100均電池なんてあんまり長持ちせんから、適当でいいんちゃう」
「そんなもんなん?」
「マウス用やったら別にかまわんけど、防災用とかは100均電池は避けた方がええと思うで」
「ひなちゃんはどうしてるん?」
「俺か? 俺はイオンの電池使ってるわ。うちはマウスだけで3つあるからな。長持ちしてもらわんと困るし。もちろん100均電池使うこともあるけど、そこは用途によって使い分けやな」
「そこまでは考えてなかったわ」
「鹿渡のうちはマウス1つだけやろ。100均電池で十分ちゃうか?」とひなちゃんが言うのであたしは適当にアルカリ電池を選びWAONを財布から取り出しセルフレジで会計をした。そしてひなちゃんに言った。
「マツヤデンキの後何が入るんかな? ちょっと見ていけへん?」
「そやな、結構広かったし、ホンマ何が入るんやろ」
そう言いながらあたしたちは迷路のような狭い通路を通り抜けた。
「結局、何が入るかわからんじまいやったな」と言ったところであたしは思わず声が出た。
「下着売り場が狭くなってるー。あたしここで買ってたのに…」
「俺に言われてもなぁ」とひなちゃんは困惑したけど、あたしは「ちょっと待ってて」と下着売り場をくるっとまわってきた。
「こんなんやったら、あたしに合う下着ないわ~。どないしよう」とあたしはショックを隠し切れない。
「通販しかないんちゃう」とひなちゃんは言った。
「そやな。今後は通販かー」とあたしは落胆するけど、次行こうとひなちゃんが先に歩き出したのであたしもとぼとぼついて行く。
「なんか、ダイエーの衣料品売り場、品数減ってへん?」
「あたしもそんな気がするわ」
「マツヤデンキのあと、衣料品店でも入るのかなー」
「どうやろ。ダイエーの衣料品ともろにかぶるけど」
「それにしても品数少ないやろ、大手のスーパーは衣料品が売れへんって言うし」
「そやな、あそこに安い衣料品店が入る可能性はあるな」と言ってあたしたちは文具の街を目指す。
「あ~、ここも商品が少なくなってる」とあたしは声が出る。
「ホンマやな、割引セールとかもしてるし、もしかしてダイエー2階から撤退するんかな?」
「それは困るって。文具の街がなくなったらあたしどこで買えばいいん?」
「うーん、アリオのロフトかな」
「ロフトなんか行きにくいわ。あそこはおしゃれな人が行くとこやで」
「改装とかならええんやけどな」とひなちゃんが言ったけど、あたしは絶望感に打ちひしがれていた。いつもの店がなくなるなんて信じられない。するとひなちゃんはあたしの左手を握り「きっと大丈夫やから」と優しく微笑みかけた。そんなかわいい顔を見せられるとあたしは何だか安心して「そやな」と呟く。そしてひなちゃんの手を引っ張り「今日はあたしのおごりでスガキヤのソフトクリーム食べるで」と速足で歩き始めた。
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